マジかよ、まさか。
いや、でも絶対に逃さねー。
「おいピストルズ、全員いるか?」
オレの切羽詰まった声に、全員の返事が聞こえた。よし、ここからが勝負だ。…もちろん、命懸けの。
「…待て!……逃げたって無駄だぜ」
物陰から飛び出し、ターゲットの背に銃口を合わせる。ピストルズたちが準備万端なのを確認して、引き金に指を掛け、
「…ミスタ!起きて!」
「…あ…?」
なに難しい顔で居眠りしてんの、と肩を揺すられた。ぽかんと目の前を見れば、ななこが心配そうにオレを覗き込んでいる。
「…大丈夫?」
「ん、…大丈夫…悪ィな…」
あくびをしながらそう返せば、「疲れてるなら休んだら?」なんて心配そうに笑われた。
「…グラッツェななこ。どーせならお前が癒してくれよ」
そのやわらけー胸で眠ってみてぇなー、なんて軽口を叩けば、「やだよばーか」なんて頭を叩かれた。その一撃は眠さでぼけっとしていたオレの頭によく響く。
「なんだよ凶暴なヤツめ。いいだろ減るもんじゃあねーし」
軽口を叩けばななこは頬を染め、ぷいっとそっぽを向いた。それからそんなことない、みたいなじっとりとした視線をちらりと向ける。
「…乙女の純情が減るもん」
ふくれっ面が可愛くて、心臓が騒ぎ出す。悟られないように笑顔を作り、ななこに向かってからかうように言葉を吐いた。
「乙女ってツラかよ」
「なにそれ失礼なんだけど!」
そりゃあお淑やかでも可愛くもないけど、なんて眉を下げる。オレは全然そんなことねーだろ、と思うけど、ななこの自己評価はどうやら違うらしい。
「そんなこたーねーだろ、シニョリーナ」
お前は十分魅力的だ、なんて、恥ずかしさを噛み殺しながら告げれば、ななこは赤い頬をさらに染めて、「もー!からかわないでよね」と笑った。からかってなんかねーよ、と言ってやりたいけれど、それじゃあオレがコイツを好きなのが丸わかりな気がして、なんにも言えなかった。
「…そう言えば、ミスタ。」
ななこはふと思い出したようにオレを見て唇を開いた。なんだよ、と視線を向けると、ななこは笑いながら「なんの夢見てたの?」なんて問いかける。
「…夢?」
「見てたでしょ?「…逃げたって無駄だぜ」って、寝言言ってた」
「…マジかよ」
言われてみれば確かに、夢でオレは誰かを追いかけていた。それをそのままななこに告げれば、彼女は「夢の中でも仕事してるなんて、ミスタは働き過ぎじゃあないの?」なんて笑う。
「…仕事、ねぇ…まぁ確かに、ぜってー捕まえる、って思ってた気はするけどよォ」
そうだ、オレは命を懸けてでも捕まえたいと思ってた。それが誰だったかと言われると覚えていないけれど、絶対逃さない、と強く誓って、ピストルズたちに、
「追いかけられる夢ならわかるけど、追いかける夢なんて、変なの」
何か欲しいものでもあるの?なんてななこの言葉で、オレの思考は遮られる。
オレの欲しいもの。
それにはひとつ、思い当たることがあった。どうしても手に入れたいもの。それは目の前の。
「あー…、オレよぉー、今すげー欲しいもんがあるんだ」
だからそのせいかもしんねーな、なんて笑えば、なんにも知らないななこは、「なにそれ気になる!」なんてキラキラした瞳を向けた。
「知りてーの?」
「うん。」
「協力してくれるっつーんなら、教えてやってもいいけどォー」
悪戯っぽい視線を向ければ、ななこはオレの気持ちなんて全然知らずに、こくこくと頷いた。じゃあこっち向けよ、と言えば大人しくオレの言う通りに動く。そんなに気になるもんなのかねェ、なんて思いながら、従順なななこに口付けた。
「え、?ッ…!?…ミスタ?」
何がなんだかわかんねーみたいな顔で目を白黒させるななこに、びしりと指を突き付ける。
「おめーは気付いてねーみたいだけどよォ、オレの欲しいもんは今目の前にあんだよ」
「…目の、まえ…」
ぱちくりと瞬きをするななこは、未だ状況が飲み込めていないらしい。ぽかんとした顔でオレを見ている。
「だからよォ、早く気付いて俺のモンになってくんねーと、てめーはずーっと追いかけられるコトになるワケ。わかるかななこよォ」
「あの、え? それって…」
ようやっと事態を飲み込みつつあるらしいななこは、これ以上ないくらいに赤くなりながら、もしかして、なんて顔をしている。
「オイオイ察しが悪過ぎじゃあねーの? それともスッとぼけて逃げようってハラかよ」
ぐい、と顎を持ち上げて視線を合わせる。逃さないと言わんばかりのオレの行動に面喰らったななこは、ミスタ、と戸惑いがちに名前を呼んだ。
「…オレが欲しいのは、ななこ。…お前だ」
嫌なら殴ってくれよ、と告げた唇は、ななこの拳に邪魔されるコトなく、彼女の唇に辿り着いた。
20170724
るん子さま、素敵なリクエストありがとうございました!
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bkm