平和ボケした感じの両片想い(というリクなのに両思いになってしまいました…)
ミスタを見ていると、なんだかムズムズする。
そうジョルノに言ったら、半笑いで「ななこ、それミスタアレルギーなんじゃあないですか。」と返された。
アレルギー。ミスタアレルギーってなんだ。
そりゃあウサギとか猫とか、生き物がアレルゲンになることは私だって知ってる。
でも、ミスタ。よりによってミスタって…!
「…なぁにななこ。浮かない顔して。」
「…トリッシュ…」
テーブルに突っ伏す私の横に立ったトリッシュが、心配そうに声を掛ける。私は気怠い頭を持ち上げ、彼女の可愛らしい瞳を見つめた。
「…あら、だいぶ重症みたいね。」
泣き出しそうな顔してる。…良ければ聞かせて?とトリッシュは鈴の音みたいな可愛らしい声と共に、私の隣に腰掛けた。
「…私、アレルギーかもって言われたの…」
「アレルギー?なんの?」
「…ミスタ…」
私の情けない声を聞いたトリッシュは、ころころと可愛らしく笑って、確かにミスタはアレルギー起きそうな匂いよね、なんて。
「…でもさぁ…そんなアレルギーなんてあると思う?」
「…ジョルノにからかわれたのよ。でもどうしてジョルノはアレルギーなんて?」
「え?だって…私、ミスタの近くにいるとなんだかムズムズするの…」
そう言う私を見て、トリッシュはまた可愛らしい笑い声を上げた。それって、アレルギーよりもっと重篤な病気だと思うわ、なんて怖い事を楽しそうに言いながら。
「…じゅーとくな…病気…?」
じゅうとく、って「重い」ってことでしょう?そんな怖い事笑って言わないでよぉ…と泣きそうになる私の髪を撫でて、トリッシュは「大丈夫よ、」と優しく笑った。
「…ミスタの側に行って、確かめてみたらいいんじゃあない?」
ほら早く、と椅子から起こされて、私はとぼとぼとミスタの所に向かった。
*****
「…ミスタぁ〜…」
NO.5よりも情けない声を上げながらドアをトントンと叩く。ミスタの部屋の前ってだけで、何故だか息苦しい。
「…おぅ、どーしたななこ。」
情けねー声出して、なんかあったのか?と心配そうな視線を向けられると、私のムズムズはいっそう酷くなる。
「…ミスタ…どうしよう…」
私、苦しいの…と溜息を吐けば、彼は心配そうに私の肩を掴んで顔を覗き込んだ。前髪を持ち上げられて額に手を当てられて、ぐわっと顔に熱が集まる。苦しくてやっと吸い込んだ空気は、ミスタの匂いがした。
「…顔赤けーなァ…熱はないみたいだが…」
しっかしなんでオレんとこ来んだよ、と彼は隠しきれない戸惑いをあちこちに滲ませながら、私を部屋に招き入れた。促されるままベッドに腰掛ける。
「あのね、あの…ッ、私、…」
「…お、おう。」
心なしかミスタの頬が赤い。先程から彼は忙しなく足を動かしたり手を動かしたりと落ち着きがない。私の視線から逃げるように、ドアを見つめている。
もしかして、一緒にいたくないのかな。そう思ったら、胸がきゅうと痛んだ。
「…ミスタ、聞いて。大事な話があるの…」
「…い、いや待てななこ、そういうのは男のオレからだなぁ…」
ミスタは私の言葉を遮るように眼前に手を出した。ミスタが慌てていたせいか勢い余って突き出した手が私の胸に当たってしまってびっくりしたのだけど、そんなことよりもその後のミスタの反応の方がもっと驚きだった。
「…ッうわ、わ、悪ィななこッ!」
「ひぇ!なにッ?…え、も、もしかして…」
私の心に、ある疑念が浮かぶ。もしかして、もしかしたら…
「…ミスタも、なの?」
「…あぁ、そーだよ。」
彼は頬を真っ赤にしながらそっぽを向いて、吐き捨てるように言った。
やっぱり!
「…ミスタもアレルギーなのね!」
「オレもお前が…って、ナニ!?」
お互いアレルギーなら、きっと私達の何か遺伝子の相性とかそういうものが合わないに違いない。そう安心する(安心していいのかわからないけど少なくとも一人じゃなくて心強い)私を余所に、ミスタはその真っ黒な瞳をまんまるに見開いていた。
「…良かった、私、ミスタの側にいるとなんだか息苦しくてムズムズして…、ジョルノにアレルギーだっていわれてトリッシュにはもっと重篤な病気だって言われるし…」
でもミスタもそうなら、仕方ないよね!と笑えば、彼は真剣な顔で私の肩を掴んだ。相変わらずその頬は赤い。
「…そりゃあよォ…ななこ、そいつは『恋の病』ってヤツじゃあねーのか?」
「…え、?」
恋。それは私が…ミスタを…好き、だって…?
ぱちぱちと聞こえる気がするのは、パズルのピースのはまる音かそれとも私の瞬きか。
どんどん頭に血液が集まって、オーバーヒートしそう。ミスタの顔が、近い。
「…オレはてっきり、おめーもそうなのかと…」
「え?…『も』って…ことは…」
ちょ、待って、急にそんなこと言われても、これが恋?確かに私は恋を知らなくて、この気持ちも知らない。
それがイコールで結ばれないとは、限らない。
「ななこ、オレは…お前が好きだ。」
「…ミスタ…」
心臓がドキドキうるさい。ミスタの視線が痛い。顔が熱い。
けれどムズムズした気持ちが、ミスタの言葉でなんだか満たされた幸せに変わってしまうから。
「…ななこは、オレのコト、好きか?」
ミスタの瞳に不安の色を見つけて、また心がきゅうと痛む。この苦しさから逃れる術を見つけるのは、至極簡単だった。
「…うん、…好き…」
「…ぃよっしゃあ!」
ぎゅう、と胸に抱き込まれて、私の五感がミスタで埋め尽くされていく。心臓は相変わらずドキドキと煩かったけど、ムズムズした気持ちはなくて、ただ幸せだった。
20160624