バレンタインの一件で学習した私は、ホワイトデーについて、調べてみることにした。どうやらイタリアにはホワイトデーという文化はないらしい。
「…日本式、って言ったらお返しできるかなぁ…」
あんなにロマンチックなバレンタインのお返しなんて、できる気がしない。もう考えただけで頭が痛くなりそうなほど恥ずかしい。
せっかくもらった薔薇を枯らしてしまうのは勿体無くて、いくつかはドライフラワーと押し花にした。我ながら乙女チックすぎてとてもじゃあないけれどミスタには教えられないと思う。部屋に吊るしてあるから、ばれてしまうのは時間の問題だろうけど。
*****
「…ミスタ。」
「おぅ、ちょーど良かった!なぁ、お前の部屋行ってもいい?」
ホワイトデー当日、ミスタを探していた私は、逆にミスタに呼び止められた。
「え、あ…」
相変わらずイタリアーノは強引だ。返事をする間もなく手を引かれて部屋の前に。
「…ほれ、早く開けろよ。」
「…ミスタの部屋じゃあだめ?」
「なんで。」
吊るされた薔薇を見られるのが恥ずかしいから、なんて言えるはずもなく、私は諦めてミスタを部屋に招き入れた。
「…どうしたの、急に。」
なるべく平静を装ってみたけれど、ミスタの視線は窓辺の薔薇に釘付けだった。
「なぁ、アレって…オレがやった薔薇か?」
改めて聞かれると恥ずかしい。
小さく頷くと、ミスタは幸せそうに頬を綻ばせた。「やべ、ニヤついちまうのカッコ悪ィよな」なんて言うのはきっと、私の顔が真っ赤なのを気遣ってくれているんだと思う。
「それで、なんで私の部屋?」
「え?あー…オレの部屋散らかってっから。」
目が泳いでる。大方ジョルノあたりがあの薔薇のことを喋ったんだろう。わざわざ見に来たのかな、なんて思っていると、ミスタは何かを口に放り込んだ。
「…私もちょうど、ミスタに用事があったの。」
そう言って用意したプレゼントを差し出そうとしたのに、ミスタに抱き込まれて腕は上がらなかった。
そのまま口付けられ、目を閉じたところで口に何かを押し込まれる。舌先に感じる甘さと硬さから、どうやらキャンディらしいとわかる。どうしていいか分からずに戸惑う私の口内を、ミスタの舌と飴が転げ回る。
飲み切れず唇の端を伝う唾液は、ひどく甘くてベタついていた。
「…ッ…な、に…」
「…ん?いや、日本じゃあホワイトデーにキャンディ渡すんだろ?」
チョコレートのお返し。と彼は笑うから、思わず目を丸くする。イタリアにはホワイトデーなんて文化はないはずなのに。
私の言いたいことを表情から察したらしいミスタは、私を抱き寄せてベタつく口元をぺろりと舐めた。
「…日本式っつーのも、悪くねえよなァー。」
ぎゅう、と腕に力が籠る。私をきつく抱きしめたまま耳元に唇を寄せて、ミスタは低く囁いた。
「…オレが日本人になるのと、ななこがイタリアーナになるの、どっちがいい?」
あぁもう、仮に冗談だとしても、そんな心臓に悪いセリフやめて欲しい。私は赤い頬を隠すように俯いて、ミスタの胸を押した。
「…ミスタ、私からも…お返しがあるの。」
「ん?…なんだよ。日本のホワイトデーは男から女にだろ?」
イタリアにはお返しなんてないぜ?と笑うミスタは格好いいなぁ、なんて私も大概だ。
「…そうだけど、バレンタイン…嬉しかったから。」
瓶詰めのキャンディを渡すと、ミスタは中身を確かめるようにカラカラと振り、悪戯っぽく笑った。
「グラッツェ、ななこ。…んで、これはもちろん全部口移しでくれるんだろーなぁ?」
20160314 Happy Whiteday!
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bkm