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装って平静。

ななことジョルノは最近仲が良い。
元々仲間だから、そりゃあ構わねえし仲がいいに越したことはないんだけど、いくらなんでも近すぎる。俺は、アイツらがデキてるんじゃあねーかって思う。

「…ななこ、ちょっと。」

「あぁジョルノ。…やめてよ。後でね?」

例えば、廊下で擦れ違う一瞬。
大した会話なんてしてなくたって、視線を合わせて分かり合ってる。そんな姿を見る度に、ほんの少しだけ心が波立つ。

アイツらの仲が良いってことは、俺とジョルノが会話する時間も減るってことで。
実際、ここんとこジョルノとはご無沙汰で、そのお陰か俺に回ってくる仕事は普段よりも少ない。そこは素直に喜びたい。と、思うんだけど。なんつーか、正直なところあんまり嬉しくない。別にワーカホリックなわけじゃあないのに、どうしちまったんだろうか。

「ミースタ!」

「んだよ。」

呑気な声に思考を阻まれて思わず舌打ちすると、ななこはびっくりしたように目を丸くして、「珍しいね、ゴキゲンナナメ?」と呟いた。

「あー、悪ィ…。別にそーいうんじゃあねーから。」

コイツは悪くない。いつもよりしっかり塗られたメイクも、つやつやの唇も、別に気になったりはしない。そーいうんじゃあない。

「ミスタぁ、あのさー、相談があるんだけどォ〜」

甘えるような声色で、上目遣い。
惚気話なんて御免だぜ、と言ってしまえればいいのに。

「…どーしたんだよ。」

以前なら頼られて嬉しかったはずなのに。
ジョルノのことじゃあないかなんて勝手な想像をしてしまって、これまた身勝手な嫉妬心が芽生える。
いや別に、そんな感情を持つ理由もその必要もないけどな、なんて心の中で一人呟いてみても、ななこの唇がジョルノを呼ぶんじゃあないかって思っただけでなぜだか息苦しくなる。

「ここじゃあなんだから、部屋に来ない?」

「…コーヒーくらいは淹れてくれるんだろーなァ。」

恋人がいるのに他の男を部屋に招いてもいいのかよ、とか単純に嬉しいとか俺は警戒されてねーのかなとか、感情が次々浮かぶのを全部無視して、いつもの軽口。

「そりゃあもちろん!」

嬉しそうに笑うななこは可愛いな、と素直に思った。

*****

「…ね、ミスタって…好きな人いる?」

コーヒーを渡されるのとほぼ同じタイミングで言われて、思わず取り落としそうになるのを堪えて平静を装う。

「…なんだよ藪から棒に。」

なんでもないふりが上手く出来なくて、不機嫌そうな声になってしまう。ななこは困ったように笑いながら、俺を窺うように見つめた。

「あれ、もしかして聞いちゃダメだった?」

「ダメじゃあねーけどよォ…」

なんと返せばいいんだろう。まさかお前が好きだなんて言えないし。
言葉が見つからずにコーヒーを口にしていると、ピストルズたちが飛び出してきた。

「オレタチガ教エテヤロウカ!」

「ミスタガ好キナノハァー、」

「きゃ、ピストルズ!聞いてたの?」

ななこは驚いた後、テーブルに出しかけていたクッキーを摘んで適当に割り、彼らに配り始める。どっちの欠片が大きいとかでピストルズたちが揉め始めるのを見て、ホッとした気持ちになりながら、「てめーらななこに迷惑だぜ。」と弾倉の中に戻した。
不安げな目をしたNO.5が俺に追い立てられながらも去り際にななこに問う。

「ナァななこ、オマエジョルノト付キ合ッテンノカヨ…?」

「いーからホレ!戻れっつーの!」

「ミスター、…ナンデダヨォ…」

不満の声を閉じ込めるようにクッキーをもう一枚持たせ、何事もなかったようにななこに向き直る。

「悪ィ。別にジョルノとお前が付き合ってようがいまいが俺たちには関係ねーもんな。」

そう言って笑うと、ななこはひどく傷ついた顔をした。
なんでそんな顔すんだよ。傷付いてんのは俺の方だし、ジョルノはいい奴で付き合うにはもってこいだ。ちょっと仕事は忙しいけど。

「あー…悪かったって、ななこ。ピストルズたちはさぁ…お前とジョルノを応援したいワケよ。」

黙り込んでしまったななこに困り果てた俺は、心にもない弁解をする。
けれどそう言ったところで彼女は眉間のシワを深めるばかりで、一向に機嫌が直りそうにない。内心焦りながら次の言葉を探して、けれどなんでもないぜって風にコーヒーを口にしていると、ななこがぽつりと呟いた。

「…つきあってない…」

「え、?」

「付き合ってないし応援もして欲しくない!ジョルノなんて好きじゃない!」

急に大声を出されて思わず怯む。
テーブルに置こうとしていたカップが揺れ、ガチャリと音を立てた。
ななこは今にも泣き出しそうな顔で握った拳を震わせている。

「好きじゃないなんて随分な言い草だなぁ。…だってあんなに仲いいじゃあねーか…」

「それは…ッ…」

困ったように俯いたななこは、何度か深呼吸をした後ゆっくりと握り締めていた指を解いて、抑揚のない声で言った。

「そりゃ仲はいいけど。うん、でも…とりあえず私、ミスタに…なんとも思われてないのはわかッ」
「なんとも思ってねーなんてことあるかよ!」

その言葉に弾かれるように思わず肩を掴む。彼女の身体は思っていたよりもずっと華奢で、俺が両手で勢い良く掴んでしまったせいでがくりと頭が揺れた。
ななこはびっくりしたように目を見開いて俺を見上げる。彼女の視線に囚われてやっと我に返った俺は、この状況をどう打破すべきか考える。けれど頭の中にはしまったどうしよう、としか浮かばないし俺の手は彼女の肩にくっ付いたみたいに離れない。

「…ミスタ、それって、どういう…」

「…いるんだよ!目の前に。」

ああもうどうにでもなれ。今までカッコ付けてきたのも水の泡じゃあねーか、と半ば自棄になりながら彼女に告げる。
相変わらず視線は外せないし、紡ぐ言葉も止められない。

「…な、に?」

「俺の好きな奴、ななこが聞いたんだろ。…目の前にいる。」

おまえだよ、と言えば、俺の予想を見事に裏切る満面の笑み。
思わず面喰らって突き飛ばすように身体を離すと、今度は彼女が俺に飛びついて来た。
驚きながらもしっかりと抱き留めると、彼女は幸せそうに俺にしがみ付いて言った。

「嬉しいミスタ!…私も、好きなの。」

「…マジかよ…」

しがみ付くななこにそっと腕を回す。てっきりジョルノだとばかり思っていたから気取られないようにしてきたけれど、妄想でなら何度だって触れた身体。想像よりずっと柔らかくて華奢で、抱き返す力加減がわからない。

「…ジョルノはね、私がミスタのこと好きなの気付いてからかってただけ。」

他の男の話すんのは正直気に食わねーけど、上手くいったのはジョルノのお陰と言えないこともないし、今だけは許してやることにする。

ホント悪趣味よね、なんて俺の腕の中で笑うななこに同意を表した瞬間、背筋に悪寒が走った気がした。



20151119


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm