「ななこー!ミスタガ大変ナンダ!」
「…どしたの?」
夜中に突然、ピストルズが飛び込んできた。
お風呂上りに髪を乾かしていた私は、手を止めて小さな彼に向き直る。
えぐえぐと泣いているから彼はNo.5か。落ち着いて、と指先でそっと撫でるとふえええ、と情けない声を上げた。
「オレ、サッキ起キタラッ!ミスタガ…苦シソウニ…オマエノ名前呼ンデタンダヨォー」
「…大丈夫だよ、心配なら一緒にミスタの所に行こうか?」
宥めるように手のひらで包んでそう言うと、こくこくと頷くNo.5。ミスタとは違って可愛いなぁなんて、失礼なことを思ってしまう。
「…病気トカダッタラドウシヨウ…」
「そしたら君たちも元気なくなるでしょう?…だから大丈夫。きっと悪い夢でも見ただけだよ。」
ミスタの部屋を控えめにノックするけど、返事はない。どうする?と小声で伺えば、No.5がドアを開けてくれた。
「ミスタ…?」
そっと近づくと、確かに布団からはぁはぁと荒い息が聞こえる。頭から布団を被っているせいか、彼はまだ私たちに気付いていないようだった。
「ミスター!ななこ連レテキタゾー!」
「ぅえッ!?」
ガバッと起き上がったミスタとバッチリ目が合う。彼は真っ赤になって再び布団に潜り込んだ。
「ミスタ、具合悪いの?大丈夫…?」
殊勝な声を掛けるけれど、私は見てしまった。
めくれた布団の先に、ミスタの下半身を。
「大丈夫だからよォーー、二人とも寝てくれ!」
「…だって、No.5。ミスタのことは私が見てあげるからさ、君はお利口さんにおやすみなさい。」
宥めるように口付けると、彼は安心したように笑って、残りの仲間の所に戻っていった。
「…ミスタ?」
「…な、んだよ。」
びくりと布団が震える。こっち向いて、と言うと彼は布団から頭だけ出した。
「…手伝ってあげようか?」
耳元で囁くと、彼の頬はこれ以上無いくらいに赤く染まった。
「No.5がさぁ、ミスタが苦しそうだって泣きながら来たんだよ?…なのにミスタときたら…」
ベッドの脇にしゃがみ込んで布団の端から手を差し込む。さっきちらりと見えた通り何も纏っていない太ももに手が触れると、ミスタの身体がぴくりと跳ねた。
「…だってよォ…仕方ねぇだろ、…」
「…だからって私で抜くかなぁ…」
布団の中は熱が籠って湿っぽい。その湿気の元になっているであろうモノをきゅうと握り込むと、ミスタはあられもない声を上げた。
「…ぅあ…ッ…」
「ピストルズが起きちゃうよ?」
上下に扱けばくちゅくちゅと濡れた音がして、手の中の屹立がさらに硬さを増す。
「ん…ッ…」
慌てて口を噤むミスタは荒い息を吐いて眉間に皺を寄せている。気持ち良さそうにも辛そうにも見えるその顔がどうにも可愛くて、耳許で囁いた。
「ミスタ、すごいエッチな顔してる。」
「…ーーっ…」
びくびくと身体を震わせて、あっけなくミスタは達した。布団が汚れてしまうじゃないかと慌てて捲ると、声にならない叫びを上げるミスタ。
「…静かに。ピストルズが起きちゃうから!」
小声でそう叱ってから、手近にあったボックスティッシュを取ってミスタの精液を拭う。
多少ベタ付きは残ったものの、寝られないほどでは無いだろう。
「…ななこッ…」
「ほら、綺麗にしたから。…もー、出るなら言ってよね…ッ!?」
ティッシュを捨てようとしたところで、バランスを崩されてベッドに沈む。
目の前にはミスタ。どうやら押し倒されているらしい。
「…なぁ、ななこッ…」
「遊びならいいけどさぁ…好きなら、そうじゃないでしょ?」
熱の籠った視線を受け止めて冷たく返せば、 彼は叱られた犬みたいな顔をしてゆっくりと私から退いた。
「…悪ィ…」
あれ、好きなんだ?と、拍子抜けしてしまう。
てっきり手近な女だから、って理由なのかと思ったのに。
「…嘘でしょ?…ミスタ…?」
身体を起こしてきょとんと見つめれば、ミスタはそれはそれは恥ずかしそうに視線を逸らしながら吐き捨てるように言った。
「…マジだぜ…悪ィかよ…ッ…」
「悪くない。ミスタ、可愛いね。」
普段の自信満々な色気も素敵だけど、先程からのちょっぴり情けなくって切羽詰まったミスタもすごく可愛いと思う。
「うるせぇ…ッんぅ!」
大声を出すもんだから慌てて唇を塞いだ。
ピストルズが起きてしまっては明日の任務に差し障るだろう。
「…静かに。」
耳許で囁くと、ミスタは私をぎゅうっと抱き締めて、縋るような声を出した。
「…俺は、本当に…お前が好きなんだ…ッ…」
「…ありがとミスタ。」
でもオカズにされているところを見てしまうのはちょっと、と笑うと彼は恥ずかしそうに「仕方ねえだろ」と呟いた。
「…次は見つからないようにね。」
「…付き合ってくれるんじゃあねーのかよ。」
頬を染めたままぶすくれた顔をされるとからかってしまいたくなる。
「付き合うって…ミスタのひとりえっちに?」
「バッカちげーよ!…俺の、その…恋人…に…ッ…」
しどろもどろになるミスタは本当にギャングなのか疑いたくなるくらいで、ハニートラップの任務とかしないのかな、と不思議に思う。ミスタくらい見た目が良ければ(まぁ個性的ではあるけど)ありそうな任務なのに。
まじまじと眺めながらそんなことを考えていると、抱き締める腕が緩んだ。少しばかり身体が離されて、不安げなミスタの瞳にぶつかる。
「…ななこ、」
「…いいよ。」
了承の返事と共に頬に口付ければ、ミスタは嬉しそうに笑って飛び付いてきた。勢いよくベッドにひっくり返って、スプリングが私たちを押し返す。
「そーこなくっちゃなぁ!」
「…それとこれとは別。」
のしかかって来たミスタのおでこをぺちりと叩くと、彼は「なんでだよォ、ななこ。」と不満気な声を上げた。
「そんなに安い女じゃあないの。」
するりとベッドを抜け出して立ち上がる。
簡単に抱けるなんて思われても心外だ。恋人とはセックスするものだろうけど、それにだって順番ってものがある。
「…じゃあ、眠れるようにキスしてくれよ。」
「おやすみのキスなら、さっきNo.5にしたけど?」
そう答えれば期待の籠った瞳が残念そうに伏せられる。そんな顔されたらキスしたくなるじゃあないの。
「ミスタ、こっち向いて。」
顎を持ち上げて、リップ音と共に一瞬だけのキス。ミスタの漆黒の瞳が、驚きに見開かれる。
「…ッ…!」
「おやすみミスタ。せめてパンツは履いて眠ってね?」
耳許で囁けば、慌てて上着の裾を引っ張るミスタ。ホントからかい甲斐があるなぁ、なんて頬が緩んでしまう。
「…グラッツェななこ。」
強がりで礼を述べるミスタの恨めしげな視線に見送られながら、部屋を後にした。
20151024
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bkm