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プリン賛歌

「チャオ、ななこ。何してるんですか?」

「…ジョルノ。」

台所に立つ私を見つけたジョルノは、珍しそうに手元を覗き込んだ。

ちょうど卵液をココットに流し込んだところだったので、見てるなら手伝って、と言うと彼は目をキラキラさせながらココットをひとつ手に取った。

「…僕も手伝います。でも珍しいですね、ななこがキッチンにいるの。」

ミスタに食べてみたいと言われて作ることになったと言えば、僕の好物です!とジョルノは嬉しそうに笑った。

ジョルノの好物なら失敗するわけにはいかないな、と私は慎重に蒸し器の中にココットを並べた。火加減に気をつけつつ蒸し上げていく。ジョルノはしばらく大人しくしていたけれど、待ちきれなくなったようで今にも蒸し器の蓋を開けそうだった。子どもみたいな姿に苦笑しつつ「開けちゃダメだよ」とクギを刺す。

「…だって、待ちきれません!」

「…もうちょっとだから。固まらないと美味しくないよ。」

「じゃあ、僕の気をここから逸らしててください。」

ちゅ、と音を立ててジョルノの唇が頬にくっつく。驚いて彼を見れば、彼はキッチンタイマーに目をやり、あと5分ですね、と微笑んだ。

「ちょ、ジョルノ…ッん…ぅ、…!」

「…だって、開けちゃダメなんでしょう?…僕、プリン大好きなんで待ちきれません。」

「んっ、んんっー!」

私の否定の言葉は終ぞ唇から溢れることはなく、ジョルノの舌に絡め取られた。

「…出来たみたいですね。」

ジョルノが余裕の表情で唇を離す頃には、私はタイマーの音も聞こえないほどに息を乱して、彼に寄りかかりなんとか立っている状態だった。

「…ッは…ジョル、ノ…それ…っ…」

「…食べてもいいですか?」

彼は私をダイニングチェアに座らせ、いそいそと蒸し器の蓋を開ける。そうしてホカホカと湯気を立ちのぼらせるココットにスプーンを差し込んだ。

「まって、ジョルノ…それは、プリンじゃあな…」
「プリンじゃ…ない…」

熱々の中身を一口食べて、ジョルノは愕然とした声を上げる。
なんですかこれ、ななこ…と、泣き出しそうな落胆ぶりだ。

「それは、」

「おー、ななこ。出来たのかよォ…チャワンムシ!」

「ミスタ、助けて!」

食べたいと言った張本人から説明してもらおうと、私はふらつく足でミスタの後ろに隠れる。どうしたななこ、と彼は私を支えてくれる。それから怯える私に気付いたミスタは私の視線の先見て、ぎょっとしたように目を見開いた。

「…どうしてプリンじゃあないんですか。」

怒ってる。
熱々の蒸し器を前にしてなお冷たい空気に、ミスタの背中が緊張しているのがわかった。

「…な、なぁ落ち着けって、ジョルノ。」

「…これが落ち着いていられますか。」

ぴしゃりと突っ撥ねられてミスタの肩が震える。流石はギャングスター、若いくせに凄まじい威圧感。
勘違いしたのはジョルノで、私の否定の言葉を奪ったのもジョルノだ。なのにこんなに怒るなんて。

「…ジョルノ。」

「ななこ、ひどいです。」

そっとミスタの背中から顔を出すと、ジョルノはツカツカと歩み寄って私を目の前に引きずり出した。

「…ごめんね、これは日本の「茶碗蒸し」って料理で、プリンじゃあないんだよ。」

「…ななこの作るプリン、楽しみにしてたのに。」

先程の鋭い眼光はどこへやら、しょんぼりと項垂れる姿に思わず笑ってしまう。ギャングのボスと言えど、なんだかんだで年相応なところもあるんだな、なんて。

「卵余ってるからさ、今から作るよ。それでいい?」

生クリームはないけれど、牛乳と卵と砂糖があれば、そこそこのプリンは作れるだろう。

「なぁななこ、俺のチャワンムシ。」

「それもみんなで食べよ。ね?ジョルノ。」

宥めるように見つめると、ジョルノはミスタを横目でチラリと見て「ミスタにはあげないでくださいね、プリン。」と宣った。

ミスタには少しばかり申し訳ないけど、それでジョルノの機嫌が直るなら、と私は了承の声を上げ、彼のためだけに残りの卵を割った。

20160204


萌えたらぜひ拍手を!


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