ジョルノがボスになって、パッショーネも新体制に慣れて。
周りはどんどん進んで行くのに、私の気持ちは前に進めない。
「ミスタぁ、今日もジョルノいないのー?」
「ん?あぁ。ジョルノは忙しいからなー、俺も今から出るし。」
銃弾を数えるミスタの後ろにピストルズが騒がしい。
準備を終えたミスタが思い出したように机に向かう。
「あ。そうだ。お前にも任務があんだわ。」
そう言うとミスタは一枚の地図をくれた。
目的地が赤で囲まれた地図。どうやら街中のよう。
「今夜20時…だとよ。そんじゃ、またなー。」
ひらひらと手を振って、ミスタは出て行った。受け取った地図をまじまじと見る。
どうやら大きなホテルのバーに行けばいいらしい。何をするかは知らされていないが、行けば誰かが教えてくれるだろう。
「バーに着ていけるような服、あったかな…」
クローゼットを探して、臙脂のワンピースを出す。血飛沫と同じ、深い赤。
何度か任務で着たことがあったけど、運良くまだ血で染まったことはない。
*****
「…すごーい…」
待ち合わせのバーに到着する。
ホテルの最上階にあるそこには、この街の全てが見渡せるんじゃあないかと思える夜景が広がっていた。
「…こんばんは、ななこ。」
後ろから掛けられた声が、ずっと聞きたかった彼のもののような気がして、慌てて振り向く。
「…ジョルノ!」
「…はい。」
くすっと笑って私の手を取り、こっちですと軽やかなエスコート。
足元に夜景の広がる大きな窓に面したカウンター席に並んで座る。
「…どうしたの?仕事は?」
「僕はオフで、貴女はここに来るまでが任務です。…あとはご自由にどうぞ。」
それって、デートってことかな…
戸惑う私を見て、ジョルノは楽しげに目を細め、唇の端を吊り上げる。
「あの、…な、なんでもない…」
これってデート?なんて恥ずかしくて聞けない。大好きなジョルノの隣にいるなんて、夢でも見ているみたい。
「…どうしたんですか?…久しぶりだから緊張してます?」
「だって、任務だって聞いてたから。」
目の前にグラスが置かれる。ジョルノの前にはカラメル色のカクテル。私の前には、葡萄色の。
「それはもう終わりました。…帰らないってことは、いいってことですよね。」
「…普通に誘ってくれても、喜んで行ったのに。」
ぽつりと呟いて、グラスを取る。
二人だけの小さな乾杯をして、唇に寄せる。
「…カシスソーダ。…ジョルノのは、なぁに?」
弾けながら流れ落ちていく炭酸と、私も知っているカシスのフレーバー。
ジョルノのは見たことがない色で、どんな味がするのか気になった。
「僕のは、キャロルというカクテルです。カクテル言葉は『この思いを君に捧げる』…貴女から僕になら、ピッタリだと思いませんか?」
「…どういうこと?」
「…だって、ななこは僕のことが好きなんでしょう?」
余裕たっぷりの笑顔で、さらりと言い放たれる。返事に窮して、手許のグラスを一気に煽った。
「…ッ…!」
「あぁ、ちなみに僕から貴女へは、ご存知の通りカシスソーダです。」
「…意味、は…?」
「後で調べてみてください。」
悪戯っぽく笑って、ジョルノはグラスを傾けた。
私が空いたグラスを弄んでいると、ジョルノがメニューを差し出す。
バーになんて初めて来た私には想像もつかない名前が並ぶ。
ざっと眺めていると、ひとつ、ジョルノを思い出す名前のカクテルが。
「コロネーション。」
その前髪がチョココロネみたいだと常々思っている私は、なんの迷いもなくそれを選ぶ。
ジョルノは私の注文を聞いて、微笑みながら言った。
「カクテル言葉は『あなたを知りたい』…随分と積極的ですね。
下に部屋を取ってありますから、たっぷり教えてあげますよ。」
*****
「…あっ、…や、やだっ、ジョルノ…!」
ホテルの部屋に着くなり、ベッドに押し倒され、酔いも手伝って力の入らない身体を暴かれていく。
私が好きなのを知っているから、抱いてみようと思っているんじゃないかなんて怖い想像が拭えない。
ジョルノを信じていないわけじゃないけれど、確証のない行為は怖い。
「ジョルノ…ッ、なんで…」
アルコールのせいで自制が効かない感情に、ポロポロと涙が零れる。
「あぁ、泣かないで可愛い人。僕が気付かないはずないでしょう?…だって、ずっと見てたんですから。」
「…どう、いう…ことっ…?」
「カシスソーダのカクテル言葉は『あなたは魅力的』…僕も、好きってことです。」
そう言って口付けられる。
カシスソーダは乾杯の時。お酒のせいじゃ、ないよね。
「ジョルノ…」
「僕は、貴女からの愛の言葉を聞いていませんけど。」
「…っあ…ぅ…」
ジョルノの手が、私の中を暴いていく。
触られているところからじわじわと快楽に侵食されていく。崩れかけの理性を必死で探っても、シーツしか掴めない。
「…好きって言えたら、挿れてあげます。」
意地悪く笑いながら、じっと見つめられる。
荒い息をいくら零しても、許してもらえそうにはない。
「…いじわる…ッ…」
「…好きって言ってくれないななこと、どっちが意地悪でしょうね?」
擦り付けるように腰を押し付けられて、ジョルノを期待した入り口がきゅうと締まる。
アルコールが助けてくれたって、大切なことは、勇気が必要だ。
「ジョルノ、好きッ…だいすき…」
しがみついて胸に顔を隠しながら、精一杯の告白をする。
ジョルノは「良かった、僕も好きですよ。」と口付けをひとつして、私の中に押し入ってきた。
「…ぅあ、あ、…あぁ…ッ…!」
突き上げられる度に頭の中を直に揺さぶられているような気がするのは、お酒のせいなのか。
「好きです、ななこッ…ななこ…」
何度も好きだと名前を呼ばれ、その度溶かされていくような気持ちになる。
「あっ、ジョル、ノっ…ジョルノ…ッ…」
譫言のように名前を呼びながら嬌声を上げることしかできないまま、私は意識を手放した。
*****
「…おはようございます、ななこ。」
普段通りの服に身を包んだジョルノが、ベッドサイドに腰掛けて私を見つめている。
「ん…おはよ…?」
状況が飲み込めず、とりあえずベッドから起き上がろうとして、服を着ていないことに気付く。
そうしてやっと、昨日のことを思い出す。
「…昨夜のこと…ちゃんと、覚えてますか?」
そう問われて、こくこくと何度も頷く。
あんなにロマンチックな夜は、後にも先にもないと思う。
「…どうして、…」
そう呟けば、不思議そうな顔でジョルノが答える。
「ななこはこういうのがお好みだと思っていたんですが、違いましたか?」
「…ちがわない…」
「…喜んでいただけて、何よりです。」
にっこりと笑うジョルノの背中に、悪魔の羽が見えた気がした。
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bkm