陶磁器のような肌
瑠璃色の瞳
絹糸のような髪
白蝶貝みたいな爪
あぁ、君はなんて美しい。
*****
コツコツと靴音を立てながら、彼女の部屋へ向かう。コンクリートの階段と靴がぶつかる音が安普請のアパートに響く。きっとこの音で、僕だと気付いてくれるはず。
「ジョルノ、いらっしゃい。」
「よくわかりましたね、怪我はもう大丈夫ですか?」
心配そうに告げれば、不安げに瞳を揺らす。
僕に心配かけたくないと、そう告げているような夜空の瞳。きっと元々瑠璃から出来ている。
「うん、もう平気…」
「綺麗な肌なんですから、気をつけてくださいよ?」
そう言って、ななこの手を撫でる。
リチャードジノリのティーカップ。使い慣れた彼女のお気に入り。
先日彼女を社交界に連れ出した帰り、僕から離れた矢先の出来事。
握手の嵐を浴びたばかりの彼女の白い手首は、玄関のノブに手をかけたところで何者かによって切り落とされた。
彼女の悲鳴を聞いて駆けつけた僕は、その惨状を目の当たりにする。
声にならない悲鳴を上げる彼女と、無造作に落ちた手首。流れ出る血。
慌てて止血して彼女の部屋に入り、テーブルに出ていたリチャードジノリのティーカップでもって、彼女の新しい手を作った。
ここまでが、ほんの2ヶ月前の話。
「たくさんお見舞いに来てくれてありがとう。」
「元気になったと聞いて、駆けつけました。」
にこりと笑って、プレゼントを渡す。
治癒祝いです、と言えば彼女は花が咲くように微笑んだ。
「わぁ、綺麗。…ラピス?」
「そうですよ。あなたの瞳によく似た石です。」
丸い瑠璃色のネックレス。ななこは月を夜空で包んで閉じ込めたような、彼女の瞳と同じ色のそれを、嬉しそうに首から下げた。
思った通り、とてもよく似合う。
「似合いますよ。」
「…ありがとう。」
嬉しそうに笑った彼女を見て、ホッとする。
もうすっかり、痛みは引いたみたいだ。
「…十分気をつけてくださいね。」
そう言って、頬に口付ける。
ななこはこの間の事を思い出したらしく、ふっくらとした頬を蒼白にして、ぎゅっとしがみついてきた。
「…怖いですか?」
「ううん、大丈夫!こんなことで怖がってたらジョルノの恋人なんて務まらないもんね!」
白い肌を怯えでさらに白くして、それでも彼女は気丈に笑う。
君は、綺麗だ。
*****
ジョルノが帰った直後、彼の忘れ物に気づいた。
今追いかければ間に合うはず、そう思って急いで部屋を出る。
「ジョルノ!忘れ物!」
階段の下を歩くジョルノに声を掛けて、忘れ物を渡しに下に降りる。
「ありがとうございます。」
ふんわりと笑って、ジョルノは再び手を振る。私が部屋に入るまで見送ってくれるつもりなんだろうか、その足は前には進まない。
刹那、小さな声が聞こえた気がした。
「目ダッテヨ!」
「他ニブツカルトボスニ怒ラレルゼ!!」
「セーノッ!!!」
「ーーーああぁっ!!」
視界が歪んで、何が起こったのかわからない。ただ、右目がひどく熱い。
意味を成さない音が、唇から溢れる。
それが自分の悲鳴だと気付くまで、少し時間がかかった。
「大丈夫ですか、ななこ!?」
慌てて走ってくるジョルノの足音。
ジョルノ、が、見えない。
流れているのは涙か血か。
灼熱に焼かれながら私は意識を手放した。
*****
先程贈ったペンダントを、眼球に変える。
瑠璃の瞳、まだ何も映さない、まっさらな君の右目。
気を失う彼女にそれを戻すと、掌に零れた血を舐めとる。赤ワインのように、僕を酔わせる彼女の血液。
これで、この瞳は僕だけしか映さない。これまでも、これからも。
危ないからという理由で、このまま連れて帰って閉じ込めてしまおう。
彼女にはこんなアパートは似合わない。
閉じ込めて、それからゆっくりと、僕だけのななこにしよう。
陶磁器の肌
瑠璃の瞳
絹糸の髪
白蝶貝の爪
ああ、君はこんなに美しい。
僕が見つけた可愛い君。
僕がつくった愛しい君。
「…愛していますよ、ななこ。」
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bkm