#気が向いたら書くリクエストボックス
「なんかよォ〜、モヤモヤすんだよなァ…」
と、億泰くんは言った。
馬鹿だと自称する割に、料理の味とか人の気持ちとかを表現するのが上手い億泰くんがそんなことを言うのは珍しくて、私はぽかんとしながら「珍しいね?」と返した。
「なに、花粉症?」
季節柄そんなこともあるんじゃあないかと返せば、「体調とかじゃあなくってよォ」と言った。気持ちの問題だ、と。
めずらしいこともあるなぁ、と思った私は曖昧な返事をする。少なくとも今の億泰くんは普段どおりだし、「今は?」と聞いてみれば大丈夫だと返されたから。
「…なんだろうね、億泰くんがそんな風に思うのめずらしい気がするよ」
「だよなァ。」
あっけらかんと笑うから、あんまり気にはしていなかった。
*****
「あ、露伴せんせ。」
「…あぁ、なんだよ君が声を掛けてくるなんて珍しいな」
ドゥマゴで露伴先生を見かけたので、億泰くんの話でも聞こうと寄って行ってみた。冷たくあしらわれることも多いけれど、どうやら今日は機嫌がいいらしいので、向かいに座る。
「億泰くんの話でも聞こうと思って」
「そんなのクソッタレに聞いた方がいいんじゃあないのか。」
「仗助くん?…だって、仗助くんは億泰くんと一緒にいるから。」
私が億泰くんの話を聞きたがってるなんて仗助くんに言ったら、そのまま本人に伝わってしまいそうで恥ずかしいのだと言えば、先生は「ふぅん、そんなもんなのかねぇ」とどうでも良さそうに言った。
「バカの億泰の話なんて、するだけでバカが移りそうだ」
「えー、いいじゃあないですか、私、先生の話聞くの、リアリティがあって好きです」
『リアリティ』の言葉に気を良くしたのか、露伴先生は私のワガママをすんなりと聞き入れてくれた。気難しいんだか扱いやすいんだかよくわからない人だなと思う。私にわかるのは、先生の話がホント面白いってことくらい。すぐに露伴先生の会話に引き込まれてしまうのは、さすが売れっ子漫画家だからだろうか。
「…ってコトがあってさァ」
「ッ!なんですかそれ!めちゃくちゃ可愛い!」
「…可愛い、には同意できかねるな。…君の思考回路を一度読んでみたいよ」
なんだかんだで色んな話をしているうちに、辺りには下校中の学生が増えてきた。億泰くんももう帰ってくるのかなと、辺りを見回す。
「…あ、億泰くんと仗助くんみっけ。…ほんと可愛いなぁ…」
「…言っている意味がわからないんだが…」
「え、二人とも可愛いじゃないですか。」
遠くから近づいてくる特徴的な姿を眺めながら、露伴先生と話していると、二人はこちらに気付いたらしい。仗助くんが大きく手を振り「何してんスか?」と寄ってくる。
「えー、ナイショ。」
「ななこさんゴキゲンっスね。」
露伴先生の話を思い出して頬が緩む。その場に居合わせたかったなぁ、なんて思いながら彼を見たら、なんだか元気なさそうに思えた。
「…どうしたの?億泰くん元気ない?」
「え、あ…そんなことねーぜ!」
億泰くんは本当に嘘が下手だ、と、私たち全員が思っただろう。露伴先生は吹き出し、それを窘めた仗助くんと喧嘩を始め、何が起こったかわからない億泰くんは二人のやりとりをぽかんと見ていた。私はといえば、一部始終を理解はしたもののこの流れについて行けず、オロオロと戸惑うばかりだ。
「ななこさん、億泰と先帰っててよ。俺はまだコイツに用あっから」
「ぼくはクソッタレなんかに用はないね!」
「…んだとォ!?」
また一悶着ありそうだったので、仗助くんに甘えることにして億泰くんの手を引いた。彼は戸惑った様子のまま、私に引っ張られてその場を離れる。
「…億泰くん、本当に大丈夫?」
「…おう、」
見ていて心配になるくらい元気がない。理由を聞いてもハッキリしないし、なんだか本当に心配になる。どうしたの、と問い詰めるみたいに億泰くんに近付けば、彼は重い唇を開いた。
「いや…別になんでもねーんだけどよォ…前に言ったろ、モヤモヤするって…」
「…なにか、キッカケとかあったの…?」
仗助くんも驚いた様子だったし、遠目に見た限りドゥマゴに来るまではニコニコと楽しそうにしていた気がする。どうしたのかと問いかければ、億泰くんは困った顔で私を見た。
「オメーがよォ、露伴先生と楽しそうだなって思ったら…」
「…え?」
それじゃあまるでヤキモチみたいじゃあないか。億泰くんは気付いていないらしく、「オレおかしくなっちまったのかなぁ」なんて不安げに溜息を吐いている。私の自意識過剰なのかもしれないけれど、ヤキモチだとしたら、それはとても嬉しいな、なんて。
「…なぁ、ななこさんよォ…」
「…ん、なぁに?」
緩む頬を隠しきれずに振り向けば、億泰くんは濡れた犬みたいにしょんぼりと肩を落として「なんでもねーよ」と顔を背けた。
「…なんでもないわけないでしょ?」
「……おう。」
億泰くんは困ったように瞳を揺らした。きっと言葉が見つからないんだろう。それとも言いたくないのか。
「…手、繋ごう。」
彼の大きな手を取れば、すごい力でぎゅう、と握られた。痛いよ、と戸惑いがちに零せば、慌てたように離される。
「…悪ィ」
「どうしたの」
もう一度彼の手を握ると、今度はそっと、戸惑いがちに握られた。素直だな、と頬が緩む。億泰くんは困ったような顔で、なおも言葉を探しているようだった。
「…ヤキモチ、だったら嬉しいな…って思うんだけど」
覗き込むように言葉を掛けると、億泰くんはパッと目を見開いて、「それだ!」と叫んだ。突然のことに目をぱちくりする私を、吹っ切れたような顔で見つめる億泰くん。
「…え?」
「そっか。俺、……そっか」
一人で納得しているけれど、それって、ヤキモチだったってことでいいんだろうか。
「…あの、ほんとに、ヤキモチ妬いてたの…?」
思わずそう声を掛けると、億泰くんは照れ臭そうに笑った。
「…おう。だってよォ〜、ななこさん、すげー楽しそうに露伴先生と喋ってるし…」
「それは億泰くんの話してたから…あっ、」
しまった、と思った時には既に遅く、キラキラした瞳に捉えられてしまった。オイなんだよそれ、教えろよォ!なんてまるで子供みたいに期待の籠もった視線を浴びせられて、頬が熱くなる。
「…さっきまで落ち込んでたクセに。」
「うるせーよォ!」
私の一言に億泰くんまで赤くなり、二人真っ赤な顔を見合わせて笑った。
「ねぇ億泰くん、」
「んー、なんだよななこさん。」
「…なんでもない!」
大好き、って言おうと思ったけど、それは家に帰ってたくさん言おう。
そう思って私は彼のあったかい手をぎゅうっと握った。
20170329
#気が向いたら書くリクエストボックス より
露伴先生やトニオさんや承太郎さんと会話してるだけで自信なくしたりヤキモチ妬いちゃう億泰のお話。
岸辺しか出てこなくてすみません…!
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bkm