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責任取って

ゆっくりと瞼を持ち上げる。どうやら眠っていたらしい。スヤスヤと規則正しい寝息がひとつ、部屋の中から聞こえる。

「…ん、…?」

っつーか、俺が起きたのに寝息が聞こえるっておかしくねーか、と思ったら、胸元にひとつ、いやひとり、人間がいた。

「…え、」

俺の腕の中ですやすやと寝息を立てているのはどうやらななこさんらしい。いつもすれ違うときにほんのり香るシャンプーの匂いが、俺の呼吸に混ざる。いや近すぎんだろ、っつーかおかしいだろ。なんだよこれ。
パニックになって俺は彼女を揺する。けれど彼女が可愛らしく身動ぎするのをみて慌ててやめた。いや起こしちまうのはマズい。この状況でなにをどうしたらいいのかわかんねーもん。
深呼吸して時計に目をやれば、針は5時を指していた。夜は通り過ぎたけれどこの季節ではまだお日様は出てこない。底冷えする明け方に布団から出るのは嫌だったけど、こんな心臓に悪い状況ではそんなこと言っていられない。俺はななこさんを起こしちまわないようにこっそり布団を抜け出そうとする。

「…っん…」

俺と彼女の間に隙間が空いたのが寒かったのか、あろうことかななこさんは俺の身体にぴたりとくっついた。近すぎて見えねーけど、こんなくっついたら俺の心臓がうるさくって起きちまうんじゃあねーの。

「…ちょ、まッ…」

待てよ、起きてくれよななこさん。
堪えきれずにそう声を上げれば、二人分の熱しかない冷えた部屋の空気によく響いた。彼女は俺の声にぴくりと反応して、もぞもぞと両手を動かした。

「…まだねむい…」

俺の頭を捕まえて、布団に押し込めるように胸に抱き込む。不意にそんなことをされて、なにが起こったのかわからなかった。頭に押し付けられた柔らかな感触は、ななこさんの、唇じゃあねーのか…?

「…ーーーッ…!!!」

まじかよ、どーすんだよこれ!ドキドキと内側から激しく鼓膜が揺さぶられて、俺の心臓の音しか聞こえない。

「ちょ、ホントななこさ…ッ…!」

「…んー…うるさいよおくやすくん…」

ぽん、ぽん、と宥めるように背を叩かれるけど、そんなんじゃあ落ち着けるわけなんかない。そもそもどうして一緒に寝てんのかわかんねーし。

「いやうるせーのは悪ィと思うけどよォ、なんで俺おめーと一緒に寝てんだよ!」

いいから起きてくれよ、と情けない叫びを聞いて、ななこさんはやっと重い瞼を持ちあげたらしい。回されていた腕が解かれたから、慌てて身体を離した。

「…おはよう、早起きさんね?」

彼女は大きなあくびをしながら、のんきにそう言った。いや俺だって起きたくて起きたんじゃあねーよ。

「だって目ェ開けたらななこさんいるしよォー…起きねえワケにはいかないっスよ…」

俺寿命が縮んだ気ィすんぜェー、と溜息を付けば、ななこさんは「襲っちゃえば良かったのに」と俺をからかった。

「ばっ…馬鹿言ってんじゃあねーよ!」

寝てるななこさんをおそ…襲うなんてこと、できるワケがない。なんつーかその、そーいう事は好き同士でするもんだろーが。

「…億泰くんってばホント可愛い」

すっかり目が覚めたのだろうか、ななこさんはゆっくりと俺の手を取った。そうして指先に唇を落とす。思わず手を引っ込めると、ななこさんはくすくすと笑った。

「…で。なんで俺の布団にいんだよ…」

「寒かったから…」

ななこさんに貸した部屋は、この家ではまともな作りをしていたのだけれど、それでも寒かったのか、と申し訳なく思う。

「…悪ィ、」

「ううん、私こそごめんね。…でも、」

億泰くんがあったかかったから、大丈夫。
ななこさんはそう言って笑った。明け方の冷たい空気に晒されているはずの顔が一気に熱くなる。本当にこの人は心臓に悪い。

「…びっくりするからやめろよなァ」

襲われたらどーすんだよ、と言ってから、この場合襲うのは俺しかいねーのか、なんて思って混乱する。いや、別に俺は襲ったりするつもりとかじゃあなくて、と思わず弁解すると、ななこさんはけらけらと笑った。

「そんなこと言ったら、億泰くんだって私に襲われてたかもよ?」

「…それはねーだろォ〜、ななこさんより俺のが力だって強いし」

そう返せばななこさんは悪戯っぽく笑って、「じゃあ、試してみる?」と、俺に跨った。状況が飲み込めないうちに、ななこさんの顔が近付いてきて、思わず瞳を閉じる。その直後、唇に柔らかい感触。

「…ッんぅ…!?」

ななこさんの薄くて柔らかい舌が唇の隙間からぬるりと差し込まれる。そうして俺の舌を確認するようにくるりと撫で、捕まえて引っ張って弄んだ。俺が涙目になるくらい、しつこく。

「…っ…んんッ…ぅ、…」

ななこさんはあろうことか唇を離さないまま俺の股間を掴み上げた。慌てて腰を引こうとしたけれど、乗り掛かられて逃げられるはずもなく、ななこさんの手の中であっさりと形を変えてしまう。苦しくて、恥ずかしい。布越しに細い指先で擦り上げられるのは、自分でするのとは全然違う。

「…『それはない』んじゃなかったの?…」

「ッ、うあ、ぁ…ーーーーッ!!」

耳元で囁きかけられて、ぶるりと身体が震えた。腹筋が震える度に、乗っかってるななこさんが揺れる。縋るように彼女を抱き締めると、耳元で「おくやすくん、」と名前を呼ばれた。

「…ななこさん…」

べたりとした下半身が気持ち悪い。情けないやら恥ずかしいやらで俺はななこさんの顔が見られず、俯いて鼻をすすった。

「…汚れちゃったね。ごめん。」

でも可愛かったよ、と子供を宥めるみたいに頭を撫でられた。可愛いって、嬉しくねェよ。

「…なんでッ…こんなことすんだよ…」

「なっ、泣かないで億泰くん!そんなに可愛いとまた襲っちゃうから!」

「こんな時まで何言ってんだよおめーはァ!」

あぁもう恥ずかしい。こんな、キスされて触られてイカされて。よりにもよって、ななこさんの前でそんなこと。

「…大好きだよ億泰くん。」

ななこさんはやけに真面目な顔で言った。いつもニコニコしたななこさんのこんな顔は初めて見る。頬に熱が集まって、彼女の視線を受け止めることができない。

「…なんだよそれェ…」

だからってしていいことと悪いことがあんだろォ〜、と情けない声を上げれば、ななこさんは「だって億泰くんが、襲われないって言ったから」と困った顔で言って、俺の頬にキスを寄越した。

「…うぅ…」

それを言われると確かに抵抗しなかったのは俺だ。でも、まさか本当に襲うなんて思わねーし、下手にスタンドなんか出して怪我でもさせちまったら大変だから。

「…ごめんね?」

ななこさんは困ったように俺を覗き込む。恥ずかしくて顔を背けると、「嫌いになった?」なんて不安げに瞳を揺らすもんだから、慌てて首を振った。

「責任は取るから!大丈夫!」

「いや何が大丈夫なんだよ…うわ、やめろって!!」

ズボンに手を掛けられて、慌てて抵抗する。ななこさんはそれを見て楽しそうに笑った。


20170317


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm