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なんでもない幸せ

週末。ななこさんは飲み会があるから今日は行けないの、と俺に連絡を寄越した。
少し前に酔ったななこさんを見ている俺にしてみれば、あんなふにゃふにゃの人間がそこいら辺を歩くなんて心配以外の何物でもない。「迎えに行くから、終わる頃連絡しろよ」と半ば無理矢理に迎えに行く約束を取り付けた。車でもありゃあもっと簡単に頷いてもらえたんだろうけれど、生憎バイクじゃあ酔っ払いは危なっかしくて運べない。
ななこさんから聞いた店の場所を目指す。夜の駅前は登下校の時の景色とはだいぶ違っていて、なんつーか、知らない世界に迷い込んだみてーだなと思う。

「おくやすくん!」

「おー、迎えに来たぜェ、酔っ払い」

俺を見つけたななこさんが、危なっかしい足取りで店から転げ出てくる。彼女が転んじまう前に、こっそりスタンドで引き寄せた。

「…今日はあんまり飲まなかったよ」

「十分酔っ払いに見えっけどな」

俺の腕に甘えるように抱き着いて、可愛らしく笑うななこさん。なんだか大人になった気分だ。彼女の足がもつれないようにゆっくり歩く。時折ヒールががくりと揺れて、その度に腕がぎゅうっと引っ張られた。

「ねぇおくやすくん…」

「んだよ、大丈夫か?」

また気分でも悪くなったかと立ち止まれば、ななこさんは幸せそうに笑って、迎えに来てくれてありがとう、と俺の腕に頬を擦り寄せた。

「…ッ、んなこたァいーんだよ!」

酔ったななこさんは無防備だ。俺の心臓がこんなにバクバク鳴ってるのに気付きもしないで呑気に笑ってる。

「…ほっぺた赤いね。寒いの?」

「寒くなんてねーから!」

ぷい、と顔を背けると、細い指先が伸びて来て俺の頬を撫でた。本当にこの人は心臓に悪い。

「…送ってくれてありがとう」

「ちゃんと布団で寝ろよ?」

玄関先まで送り届けて、さあ帰ろうと思ったけれど、ななこさんが俺の腕を離す様子はない。また明日な?と声をかけると、なおさら強く腕にしがみつかれた。

「…おかえりなさい、して」

「え、?」

ななこさんはドアを開けると、そこに俺を押し込んだ。よろけるように玄関先に上がる俺の目の前でドアが閉まる。ななこさんは来ねーのかよ、と言おうとしたら、ガチャリとドアが開いた。

「おくやすくん、ただいま!」

「お、おかえりななこさん」

どうにかそう返してやっと、さっきの言葉の意味を理解する。ななこさんは幸せそうに笑って、俺の胸に飛び込んできた。

「…ありがと。」

「おう、…じゃあ、また明日な?」

「やだ。」

ぎゅう、と抱き着いたななこさんは、帰っちゃやだ、と頬を膨らませる。そんな可愛いことされたら帰れねーよ、と溜息をつくと、彼女はもう一度「帰っちゃやだよ」と言った。

「…わーったよ。…ホラ、靴脱いで」

「ただいまのちゅー」

靴を脱がそうと屈んだ俺の頬に、ななこさんの唇が押し付けられる。びっくりして後ずさると、玄関の段差に引っかかって転んだ。

「うお、…っ痛ェー…」

後ろ向きにひっくり返った俺の上にななこさんが倒れ込んで、まるで押し倒されてるみてーになった。慌てる俺を見てななこさんは悪戯っ子みたいに笑う。

「…億泰くん、顔赤い」

「誰のせいだっつの!!」

くすくすと笑うななこさんが俺の上から退く様子はない。オイ、と声をかけると今度は唇にキスされた。

「…億泰くん、おかえりなさい」

「…おう、ただいま」

赤い顔でそう返すと、ななこさんは幸せそうに笑って俺の首筋に頬を擦り寄せた。


20170421

むちょすさんおかえりなさーい!!!


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm