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オトナじゃなきゃダメですか?【2】

億泰くんのお家にお邪魔するようになって、かれこれ5日経った。約束通りハンバーグを作ったら、こっちが恐縮するほど喜んで「また作ってくれよ」なんて笑うもんだから、なんだかとても嬉しくなって通い続けてしまっている。億泰くんと食べる食事は美味しくて、一人で食べる寂しさに私の方が耐えられないのが正直なところだ。作った料理を褒められるのも嬉しいけれど、なにより笑いながら食べる食事はすごく美味しい。

「…そんなに褒めても何も出ないよ…」

「え?明日も美味い飯が出てくんだろーよォ」

億泰くん本人は「おれは馬鹿だから」なんてことをよく言うけれど、料理を褒める時の比喩は秀逸だし、会話のテンポはいいし、彼が卑下するようなことはないよなぁと思う。

「…そんなこと言うとまた明日も来ちゃうよ?」

「俺は歓迎すっけど、ななこさんは明日休みなんじゃあねーの?」

そういえば、明日は土曜だ。仕事は休みだけれど、生憎私にはなんの予定もない。むしろいつもより手の込んだ物が作れるなぁとか思ってしまうくらいで。

「うん、お休みだから、料理だけじゃなく掃除とか洗濯もできるよ?」

「マジかよ!…いやでも流石にそれは悪ィって…」

億泰くんは遠慮するみたいに首をぶんぶんと振った。けれど私が見る限り、平日に彼が洗濯をする余裕はなさそうだし、何より私が来ていることで、彼のペースが少なからず乱れているだろうことが、少しばかり心配だ。

「今更遠慮することなんてないでしょ?」

嫌ならいいんだけど、と言えば億泰くんはじゃあ、お言葉に甘えてもいいか?とはにかんだ。

「もちろん。…億泰くんは勉強でもして待っててくれればいいから。」

毎日お邪魔しちゃったら勉強する時間なくなっちゃうもんね、と言えば彼は大袈裟に溜息を吐いた。

「…休みの日まで勉強するくらいなら掃除がいいぜ俺はよォー…」

あんまりげんなりした顔で言うから思わず吹き出してしまう。億泰くんは「何笑ってんだよ」と不機嫌そうに唇を尖らせた。

「勉強嫌いなの?高校生は勉強しなきゃダメなんだよ。」

からかうようにそう返して、そろそろ帰るねと上着と鞄を掴み上げる。名残惜しいけれどいい加減に帰らないと自分の家のことが終わらないから。

「なぁ、そういやーよォ、ななこさんってどこに住んでんだ?」

帰り支度をして玄関に向かう私の後ろを付いてきた億泰くんが、ふと思い出したように問いかけた。

「私?駅の近くだよ。」

便利な立地の割に家賃も安くて、結構気に入ってるんだ、と、靴を履きながら答える。トントン、と爪先を鳴らして顔を上げると、億泰くんはなんでか怒ったような顔で私を見ていた。

「…おめーよォ、それもっと早く言えよ。」

「…え、なに…?」

何を言えと言われているのかわからずにぽかんと彼に視線を向ければ、億泰くんは語気を荒げて「そこで待ってろ」と言い残し、ドタドタと部屋に戻って行った。
少ししてまた大きな足音と共に戻ってきた彼は、上着とマフラーを身に付けていた。

「…ホラ、行くぜ。」

そう言って私を押しのけるようにして靴を履く。玄関を開けると、冷たい風が流れ込んできた。

「…え、?」

「…んだよ、送ってやるっつってんの。ホレ」

さみーから早く帰ろーぜ、と歩き出す億泰くん。早く帰ろうも何も、君のの家はここだよ。何もわざわざ寒い思いしなくったって、と言おうと思ったのだけど、それよりも億泰くんが言葉を発した方が早かった。

「こんな寒ィのに、一人で歩かせちまってゴメンな」

俺バカだから気付かなくってよォ、と困ったように笑って、ホントさみーなァ、と顔の前で両手を擦り合わせた。慌てていたせいか、手袋は持ってこなかったらしい。

「…手、繋ごっか?」

溜息を吐くみたいに自然にそんな言葉を零してしまって、自分でもびっくりする。
言った私が驚くんだから、聞いた億泰くんは言わずもがなで、今までで一番驚いた顔で勢い良くこちらを振り向き、「か、からかってんじゃあねーぞ!!!」と大声を上げた。

「…うん、……冗談だよ。」

そう、冗談だよ。とまるで自分に言い聞かせるように言えば、告げた言葉はふわんと白い息に変わって暗闇に溶けて消えた。

「ガキだからってよォ…あんまからかってんじゃあねーよ…」

億泰くんは真っ赤な顔のまま、顔の前で擦っていた手をぎゅっと拳の形に変えて、しばらくそれを見つめた後、勢い良く私の手を取った。ぎゅう、と大きな暖かい手が指先まで包み込む。

「…おめーがッ、言ったんだからな!」

「……うん、…あったかいね」

あまりの出来事にそんな言葉しか出てこなかった。家まではまだ10分以上歩くだろう。普段なら酷く静かで寒い道のりなのに、今日はドキドキ煩い上に、熱いくらいだった。


20161111


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm