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右手を繋ごう

億泰くんは、いつも私の右側にいる。
手を繋ぐ時は必ず左手で、いつも緊張したような顔をしている。
普段はなんにも考えてませんみたいなあっけらかんとした顔でいるから、その姿がやけに気になってしまう。

「そっちの手、何かあるの?」

「あ、…いや…別になんでもねーけどよォー…」

なんか照れちまって、と曖昧に笑う億泰くんは、嘘が下手くそだと思う。ぎゅ、と握られた右手は、私から逃げるように彼の広い背中に隠された。

「…手、つなぐとき、いっつも左手だよね。」

必ず私の右手を捕まえる億泰くんは、別に左利きというわけでもないと思う。時折右手を差し出して、戸惑ったように引っ込めるから。言えないような理由があるなら、聞いてしまって申し訳無かったかな、と困ったように言葉を探す彼を見て思う。

「ごめん、別に…ちょっと気になっただけ!」

努めて明るく言えば、億泰くんは困った顔で繋いだ手に力を込めた。

「おれ、馬鹿だからよォー、上手く説明できねーんだけど…、聞いてくれるか…?」

いつになく神妙な顔で言うもんだから、こちらまで緊張してしまう。億泰くんらしくない表情に、なんだかドキドキした。
手を繋いだまま、公園のベンチに腰掛ける。億泰くんはベンチの下に落ちた空き缶をぽいっと砂場の方に放り投げて、私の方を見た。

「ゴミ、投げちゃだめだよ。」

「…説明するよりよォ、見せた方がはえーから。」

そう言いながら空き缶を指差すのに倣って、大人しくそれを見る。億泰くんが右手を振るうと、ガオンと奇妙な音がして、空き缶がこっちに来た。
転がる、とか飛んでくる、とかそういうんじゃあなくて、落ちていた形のまま、「こっちに来た」としか言いようのない動きで。

「…え、?」

思わず億泰くんを見ると、彼は「スタンド」という聞きなれない単語を使って、この現象の説明をはじめた。荒唐無稽な上に彼の説明はあっちこっちに飛んでいまいち要領を得なかったから私の理解はなかなか追いつかなかったんだけど、どうやら「スタンド」という特殊能力があって、億泰くんは「右手で空間を削り取れる」らしい。言葉の通りなら到底信じられない話だけれど、目の前で見てしまったら信じざるを得ない。

「…だからよォ、おれも制御はできてっけど、万が一ななこに何かあったら困んだろ…?」

右手を握ったり開いたりしながら困ったように言うから、思わずその手を両手で包んだ。

「あっ、コラななこ…!」

「…大丈夫だよ?」

気を遣ってくれるのはとても嬉しいし、大切にしてくれるのもわかる。でも彼がそんなことを気にして戸惑ったり窮屈そうにしたりしているのを見るのは嫌だった。

「…離せよ…」

「離さないよ。…大丈夫だもん。」

困った顔の億泰くんを宥めるように、捕まえた手に口付ける。あったかくて大きい手はいつも優しくって、大好きだから。

「…あ、でももし削り取る時はさぁ、お尻とかお腹の肉にして?」

最近気になってるんだよね、と笑えば、億泰くんは安心したように大きく息を吐いた。

「…おめーよォ、人が心配してんのにそりゃあねーだろー。」

いつもみたいに気の抜けた顔で笑うから、私も一緒に声を上げて笑った。彼は身体を少し捻って、右手で遠慮がちに私の髪に触れる。大丈夫だと確認するように、そっと乗せられる手のひら。そうして慈しむように髪を撫で、彼は安心したように言葉を紡いだ。

「……ありがとな。俺もちっと心配しすぎたかもしんねー。」

「難しいこと考えるなんて億泰くんらしくないよ!」

ばし、と彼の胸に拳を当てれば、「俺が馬鹿だって言いたいのかよォ」なんていつもの明るい声が返ってくる。あぁ、やっぱりこの笑顔が一番好きだな、と思ったら私まで笑顔になるから不思議だ。

「良かった、私億泰くんが笑ってるとこが一番好き!」

「…ッ、不意打ちは卑怯だぜェ…」

真っ赤になった億泰くんが私を捕まえようと手を伸ばしたから、立ち上がって走り出す。
思わず言ってしまった言葉は本心だけれど、私だって恥ずかしい。

上手く逃げ出したなと思ったのも束の間。
ガオン、と音がして視界が揺れ、気付いたら私は彼の腕の中にいた。

20161021


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm