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クリスマスをご一緒に

「…こんにちは。シケた面してどうしたの?」

冬の街を一人歩く億泰くんがほんの少し寂しげに見えて、気になって声をかけた。覗き込むように近づけば、彼は小さく苦笑した。

「…おー、ななこさん。いやよォ、もーすぐクリスマスだろー?」

「…街が浮かれてるよね。で、億泰くんは浮かれないの?」

高校生くらいならクリスマスなんて楽しくて仕方ないんじゃないかと思う。彼らはいつも何か楽しむための「特別」を求めているのだから。

「…別になぁ…恋人もいねーしよー。」

「…仗助くんとかは?」

「仗助は気ィ遣ってくれっけどよォー、流石にクリスマスはお袋さんといなきゃダメだろ。」

俺だって親父いるし、と彼は複雑な表情を浮かべる。彼の父親の事は財団から聞いているけど、正直なところ想像がつかない。
財団と言えば、年末も近いせいか職場の人も少ない。国を跨いで働くのだってザラだから、クリスマスを大切にする国の人達はとっくにお休みだ。

「そっか。…じゃあ私、行ってあげようか?」

「え!?ななこさんがァ!?」

これでもか、というくらいに目をまんまるにする億泰くん。小さい黒目がさらに小さく見えるよ。

「どうせ一人だし。私も誰かとクリスマスしたい。」

「…承太郎さんと過ごすんじゃあねーのか?」

驚いて見つめる億泰くんは、私が承太郎と仲良しだと思っているらしい。仕事仲間ではあるが、別に男女の関係じゃあない。そもそも承太郎は妻子持ちだし。

「…年末年始だし、承太郎はアメリカのおうちに帰ってるんじゃあないかな。」

「…マジかー…でもよォ、本当にいいのか?」

「むしろ私がお願いしたいくらいだよ。」

クリスマスに一人じゃあ流石に寂しいもんね、と言えばななこさんうち帰ったりしないのか?と問われる。
別に帰る理由もないから帰らないよ、と言えば彼は嬉しそうに笑った。

「じゃあよぉ、俺頑張ってごちそう作るからな!」

「…へ、できるの?」

思わず億泰くんの顔をまじまじと見つめる。どう見ても不良少年で、台所に立つ姿なんて想像が付かない。
ぽかんとする私を見て、億泰くんは不思議そうに言う。

「…当たり前だろ?」

あまりにも平然としているから、背伸びとかカッコつけなんかではなくて彼にとっては当たり前なのだろう。まぁ家庭事情を鑑みればそうなんだろうけど、意外だ。

「すごい!じゃあ私ケーキ買ってくるね。」

「そこは「作るね」じゃねーの?」

キョトンとして彼が言う。あぁ、女性はみんな料理ができるっていう幻想か、それとも彼は自分ができることは世の中すべての人間ができると思っているのだろうか。

「え、無理だよ私には向いてない。」

「…研究者はお菓子作りとか得意そうだけどなぁ…」

「なにその偏見」

偏見だ。億泰くんが不良で毎日喧嘩三昧ってくらいの偏見だ。…それなら仕方ないのかもしれない。だって彼の見た目は喧嘩三昧してそうだし。あれ、ってことは私も家庭的に見えるってこと?
そんな可愛い女に見えるのかと頬を緩ませたところで、億泰くんに打ちのめされる。

「え?だってどっちも計ったり混ぜたりだろ?」

「…確かに…んー…でもね、才能ってもんがさぁ。」

SPW財団の研究員としての仕事の一環で、まぁ計ったり混ぜたりは否定しないけど、それはお菓子作りとはまた別だ。

「なんだよそれェ。」

「愛情が足りないのかも。」

料理は愛情っていうし計ったり混ぜたりに問題がないならきっとそこなんじゃないかな、と冗談半分で笑うと、億泰くんは眉を寄せて困ったように言う。

「そんなこたねーだろ。…ななこさん優しいじゃん!」

間に受けたんだろうか(確かに半分は本気だったけど)、彼は慰めの言葉を一生懸命に探してくれているらしい。見た目にそぐわず優しいな、と彼と話す度に思う。

「億泰くんの方がずっと優しいと思うけど。」

そう呟くと彼は驚いたように視線を向けて、それはそれは嬉しそうに笑った。

「…俺、そんなこと初めて言われた。嬉しいぜェ〜」

釣られて私まで顔が綻んでしまうのだから、億泰くんはすごいなと思う。

*****

「すごい!…え、すご…ホントすごい!」

すごい意外の感想が出ないほどの料理が並んだテーブルを前に、億泰くんはしたり顔だ。

「…ななこさんってよォ、意外とガキみてーなのな。」

「…ッ、だって!すごい意外に思いつかないよこれ…」

3人だけど私も億泰くんも甘党だからと大きめのケーキにしたのに、それが霞んでしまうくらいの豪華な料理。パエリアにサラダにローストビーフ。色目も鮮やかでとても美味しそうだ。

「難しいもんは作ってねーよ。…とりあえず座ろーぜェ。」

満足そうに笑いながら着座を促す億泰くんに言われるままにテーブルに着く。ホットプレートの上のパエリアからはほかほかと湯気が出ていて美味しそうだ。

「すごいね。ケーキが霞んじゃうくらいだもん。」

「…何で乾杯する?シャンパン?」

言いながら既にコルクを抜いている。
億泰くんは未成年なのに一体どうやって買ったんだろうか。

「億泰くんも飲むの?」

「…ななこさんが酔ってわかんなくなった頃にな!」

にひひ、と笑う彼を見て、クリスマスくらい…なんて悪い考えが頭をよぎる。
両手で顔を覆って大袈裟に「あれ、急に前が見えなくなった!」と言えば億泰くんは爆笑しながら二つのグラスにシャンパンを注いだ。

「やべー腹痛ェ、ななこさんそんな人だっけェ!?」

「それはクリスマスだからじゃない?」

億泰くんが嬉しそうだからつられて嬉しくなってるんだよ、なんて言ったら彼は一体どんな反応をするんだろうか。
二人で笑いながらグラスを合わせる。
そうして「メリークリスマス!」なんて柄にもなく大声を上げて、私たちは向かい合って料理に舌鼓をうった。
億泰くんのお父さんとストレイキャットも一緒で、なんだかとても賑やかなクリスマス。

「…たのしーねぇ、億泰くん!」

「ななこさん飲みすぎじゃねーの?」

「億泰くんこそ、未成年なのに悪いんだー!」

ケーキを切り分ける頃には二人ともすっかり出来上がっていて、へらへらと笑いながら包丁を手に取った。「酔っ払いに包丁はヤバくねぇ?」と笑う億泰くんの手元だって、なかなか怪しいもんだと思う。

「はーい、ケーキだよー。」

「…なぁ、ななこさん。」

不意にしっかりした声で名前を呼ばれて億泰くんを見ると、彼はひどく赤い顔で何やら小さな箱を私に差し出していた。

「…なに、これ。」

「今日のお礼。…俺、マジで嬉しかったんだぜ。」

一人はさみしーからよォ、と彼は戯けて笑ったけれど、その声は本当に、切実な響きを孕んでいる気がした。

「ありがとう…、ごめんね私っ、プレゼント考えてなかった、」

素直にそう言えば、「なんだよクリスマスなのにィ」と冗談交じりの声が飛んでくる。
何かあげられるものはないかと酔った頭が導き出した答えは、とてもくだらないもの。

「んー、じゃあ…今の私にできることなら、なんでもしてあげる。」

「え、マジで!?」

ガタン!と勢いよく立ち上がるもんだからこっちが驚いてしまう。そんなんいらねーよ、と言われるかと思ったんだけど、億泰くんは顔を真っ赤にしながらも期待のこもった顔をしていた。

「億泰くんはぁ、なにが欲しいの?」

私に出来ることで億泰くんが欲しいものってなんだろう、と彼を見る。男子高生の思考回路とは恐ろしいもので、億泰くんは顔を真っ赤にしながら言った。

「…俺童貞なんだけどよー、ななこさん教えてくれよ。」

お父さんだっているのにそんなこと!と驚きの声を上げると、とっくに寝てるぜと返された。見れば確かにいつの間にか部屋には二人きりで、私は酔ってるけど億泰くんはもしや大分しっかりしているのだろうか、なんて考える。

「…私なんかでいいの?」

「…ななこさんは軽い気持ちで一緒にいるんかもしんないけどよォ…俺はアンタのこと好きだぜェ。」

酔ってっけど嘘じゃねーよ、なんて思いも寄らない告白を受けてしまって、どうしていいかわからなくなる。可愛いなとか優しいなと思うことはたくさんあったけど、男性として意識したことはない。

「…あ、ありがと!…でもあの、私億泰くんのことそーいう風に見たことない…から…」

「あァ?そんなん今から見てくれりゃあいいだろーがよォ。」

ぐい、と腕を掴まれて立ち上がらされて、至近距離で億泰くんを見上げる形になる。
仗助くんとか承太郎さんと並んでいるとあまり背が高くない印象だけど、こうして見ると十分大きいな、と思う。

「好きかどうかは置いといて、…クリスマスプレゼントはあげる。」

貰ってばかりじゃダメだしね、と笑えば彼は恥ずかしくなったのか私を胸に抱き込んだ。
億泰くんの腕の中は熱くて、童貞だって言ってたし緊張してんのかなって思う。そっと腰に手を回すと私を抱く手に力が篭るのがわかった。


MerryChristmas2015!!






「あ!…でもさぁ、寝ないとサンタクロース来ないよ?」

「…そんな得体の知れないオヤジよりななこさんのがいいに決まってんだろ。」


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm