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お好きなだけ召し上がれ!

「すげえ!」

目をキラキラさせる億泰が待ちきれないとばかりにウインドウにへばり付く。
甘いものが好きだっていうから、最近流行りのケーキバイキングに来た。誘った時のあまりに嬉しそうな顔が忘れられなくて、未だに思い出してはニヤけてしまう。

「ホント好きなんだねぇ。」

「おう。ななこがいてくれてホント良かったぜェ〜。」

仗助たちとじゃあぜってームリだもんな!と彼は鼻息を荒げている。余程楽しみだったらしい。

「私もさぁ、億泰がいてくれて嬉しい。」

まだお店が出来たばっかりの頃、女友達と来たのだけど、彼女たちはケーキよりもお喋りの方が大切らしくて「太っちゃうよねー」とか「こんなに食べられないねー」とか牽制しあうみたいな空気でケーキどころじゃあなかったのだ。私は心ゆくまでケーキを食べたかったのに。女ってメンドクサイ。

だからこう、利害の一致?ってやつ?

可愛い億泰とデートだと私は思っているんだけど、億泰がどう思っているかは知らない。
まぁ、ケーキを前に目を輝かせてる彼は、何にも考えてなさそうではある。

店内に案内されて席に着く。
座るなり彼は皿を持って立ち上がり、すごい早さでケーキの元に駆けて行った。
強面の億泰を見て女の子たちが避けているけど、ケーキに夢中の彼は気付かない。
気付いたら涙目で嘆きに帰って来そうだから、このまま気づかなければいいと思う。

「いっただきまーーーーす!」

億泰が一口目を食べるのを見届けて、私もケーキを取りに行く。
とりあえず、端から一つずつ。今日の目標は全種類制覇だ。
ショートケーキ、ミルフィーユ、モンブランにガトーショコラ。色とりどりの小ぶりなケーキを次々と皿に乗せて、席に戻る。

億泰は私が持ってきた皿をじーっと見つめて、ぽつりと言った。

「…うまそーだな、それ。」

「億泰も取ってくればいいじゃん。」

ちょっと待って。私まだ一口も食べてないのに何言い出すの君は。
不満の視線を投げかけると、彼はきょとんとした顔で言葉を返した。

「え?いいじゃん一口食わせろよ。美味かったら持ってくるからさぁ。」

いっぱいあるしいいだろー?なんて唇を尖らせるから、ついつい負けてしまう。

「仕方ないな、一口だけだよ?」

そう言うと、当たり前のようにぱかりと口を開けるから驚いた。

「何してんだよ、早くくれよォ。」

私が頬を赤らめているのも意に介さず、雛鳥のように催促してくる。
フォークで掬って口に入れてあげると、彼は嬉しそうにぱくりと頬張った。

「つーかよォ、ななこの皿すごくね?」

「端から順番に一個ずつ、皿に乗るだけ持ってきた!」

「マジか!全部食う気だなお前。すげー!」

ほっそいのに良く入るなぁ、と億泰は感心したように私の身体を見つめる。
意図がないのは分かってるけど、恥ずかしいから見ないでほしい。
えっち、と言おうとして顔を上げた私は、思わず吹き出してしまう。

「億泰、ほっぺにクリームついてる。」

「いーだろ別に。全部食うんだし。」

いや意味がわかんない。ほっぺたからケーキ食べるのか君は。
あんまり可愛いからからかってやる。

「さっきから隣のおねーさまがたがお前のコト見てるよ!」

「うわマジかー、じゃあ綺麗にしなきゃな。」

「クリーム取ったくらいじゃ多分モテないけどね!」

「逆にいっぱい付けたらモテんじゃねー?って、お前ふざけんなよォ!!」

ギャハハ!と豪快に笑ってその大きく開いた口に次々とケーキを放り込んでいく。

「だから付いてるってー。」

「それを言うならおめーだってほっぺに付いてんだろーよ。」

そう言うと彼は身を乗り出し、大きな手で私の頬を撫でた。
離れた億泰の指先には生クリームが付いていて、彼は当然のようにそれを口の中に仕舞った。

「ちょ、言ってくれたら自分で取ったのに!」

「え、だって生クリーム美味いじゃん?」

「何その理由!」

気兼ねなくケーキを食べて、向かい合って笑いあって。こんなことが出来るのは、億泰だからだと思う。

*****

「あー、食った食った。」

「んー、しばらくケーキはいらないな…」

「ってまた来週行こうとか言う?…俺言いそう。」

時間一杯気がすむまでケーキを食べて、満足して店を出る。どちらともなく、また来ようねなんて話をしながら。

「ありがとねー、女の子同士だとこんなに食べらんなくてさー。」

「しっかしおめーすげえ食うよなぁ。びっくりしたぜェ。」

ホントに女かよォ、なんて笑いながら言われて、胸がチクリと痛んだ。

「デリカシーが!ない!ひどい!」

「悪ィ…そーいうんじゃあなくってさァ…」

急に口を噤むもんだから、返す言葉を探してしまう。不意に訪れた沈黙。
隣を歩く彼は、困ったように口をぱくぱくさせている。

「……億泰?」

「あのよォ、…なんつーか、お前は他の奴とは違うっつーか…」

雑踏の中で、彼の言葉を聞き逃さないように耳をそばだてる。

彼は立ち止まって、私の手を引いた。



「…特別なんだよ。」



私を掴んだ億泰の手はこの寒空に似合わないほど熱くて。
見上げたその顔は、ひどく真剣だった。
さっきまで幸せそうにケーキを頬張っていた彼とは、まるで別人みたい。

「…あ、りがと…」

真っ直ぐな視線が痛くて、逃げるように目線を落とす。
私の反応を見た彼は困ったように手を離し、指先で頭を掻いた。

「だから、そのよォ…俺と…付き合っちゃくんねーか、なぁ…」

別に嫌だったらいいんだけどよォ…なんて困った顔で私を窺う。
最後までカッコよくなりきれないところが、なんとも彼らしい。
そこが可愛くて好きだなんて、私も大概どうかしてる。

答える代わりに、今度は私が彼の手を取った。



「なにこれ、オッケーってこと?…なぁ、ななこ!」




20151103


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm