憂鬱な月曜日のお供はストロベリー&チョコチップアイス。甘いものでも食べなきゃやってられないぜ。
「おはよ、億泰くん。」
後ろから背中をぽん、と叩かれる。
聞きなれた声が中和剤になって、アイスの甘さと憂鬱を溶かした。
「おー、ななこ。おはよ。」
「アイス食べながら学校来る人初めて見た!」
朝から楽しそうだな、と隣を見れば左右の足を忙しなく進めている。歩くスピードを少しずつ緩めて、気付かれないように彼女に合わせた。
「食う?」
「欲しいけど、歩きながらじゃ零したら困る!」
「ったく、しゃーねーなぁ。」
通学路脇の公園の前。車止めに腰を下ろす。
視線が大体同じ高さになったところで、アイスを手渡す。コーンの下の方を持って差し出すと、彼女は壊れ物を扱うみたいに両手でそっと受け取った。
「イチゴ味?」
「おう、ストロベリー&チョコチップだぜ。」
「いただきまーす。」
赤い唇が大きく開いて、溶けかけの桃色を掬い取っていく。あれ、これって間接キスとかいうやつじゃね?
「おいしー。ありがとう億泰くん。…億泰くん?」
自分の思考に絶句していると、ななこが心配そうに覗き込んでくる。
唇の端にほんのりと残るピンク色が俺の鼓動をさらに早める。
「あ、あぁ!どういたしまして。」
返されたアイスを受け取ろうと慌てて手を伸ばすと、指先がほんの少し触れ合った。
なんとなく気まずくて、少しこそばゆい。
けれど手を引っ込めてしまうのは勿体なくて、そっと手繰り寄せる。細い糸を切らないようにするみたいに、そっと。
ななこの手が、暖かい。もう片方の手で包み込むようにしてぎゅっと握れば、固い蕾が綻ぶみたいな笑顔。つられて頬が緩んでしまう。
「ね、アイス溶けちゃうからそろそろ離してよ。うわ、垂れてきた。」
二人分の熱と初夏の日差しで融解していくチョコチップ。
受け止めるように差し出される唇。
まるで自分の手に口付けられたような気分になる。なんだこれ、クラクラする。
「なぁ、俺…お前のこと好きかも。」
ぽつりとそう告げると、ななこはびっくりして手を引っ込めた。二人の間にべちゃりと落ちるストロベリー&チョコチップ。
気付きたての甘い恋心は、ストロベリー&チョコチップと共に手から零れ落ちた。
「…かも、なの?」
「…へ?」
「わたしは、好き、なんだけど。…億泰くんは、好きかも、なの?」
ぐちゃぐちゃのアイスを踏ん付けて、ななこはずいっと一歩前に。
足元からぱりりとコーンの割れる音が聞こえる。
「…俺、は、」
俺の恋心を踏み台に、彼女が真実を届けに来た。決断の苦手な俺が、迷っている間に。
「…かも、じゃなくなったら…もう一回、ちゃんと聞かせて。」
ふいっと踵を返して、彼女はずんずんと歩いていく。さっきまでは俺の方が合わせていた歩調。今は追いつけない程の速さで。
赤く染まった首筋を、ザ・ハンドで一気に引き寄せる。
「好きだ。」
突然の出来事にぽかんとするななこの背中に向かって告げる。
やっと取り戻した日常も、こうやって崩れるのなら悪くない。
「…ありがと、億泰くん!」
ななこが勢いよく俺の手を取る。溶けたアイスのせいでベタベタの掌は、きっとすごく甘いだろう。
「ありがとうは俺の方だぜー!な、このままサボっちまおうか。」
「よーし、それじゃあこのままデートしよう!」
その一言は、ストロベリー&チョコチップよりもずっとずっと魅力的。
*****
「…なぁ、仗助に渡されても食う?アイス。」
「え、そんなわけないじゃん。仗助と間接キスとかやだし。」
「…そっか…。そっか!」
「…間接キスとか気付いてなかった?…結構嬉しかったんだけどな。」
「…そ、んなことねーし!」
「(…気付いてないっぽいな…)」
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