仗助のヤツは純愛タイプだなんて言ってるけど、俺からしたら全然純愛なんかじゃない。だってアイツあんなに女慣れしてんだもんよォ〜。
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「あれ、仗助と億泰じゃん。今帰り?」
「あ、ななこさん!…何してんスか?いーなぁ、奢ってくださいよー。」
ドゥ・マゴのテラスに知人のななこさんが座っていた。俺は会釈を返すのが精一杯だけど、仗助のヤツは軽口を叩きながら近づいて、もうテーブルに座ってやがる。
「奢らないよー。」
「えー、じゃあ俺たちと楽しくおしゃべりだけでも!ね?」
「しょーがないなぁ。…億泰もおいでよ。時間ある?」
「…ん、あぁ。サンキュ。」
仗助の向かい、ななこさんが椅子を引いてくれたので、ありがたく座らせてもらう。
気の利いた言葉は一つも出てこない。
「ね、ななこさん今日仕事は?」
「…あー、有給取ったんだ。でも休んでラッキーだったな。」
にこにこしながらコーヒーカップを傾けるななこさん。ブラック派なのは結構意外だ。
「…俺たちに逢えたから?」
「うん!」
そう言われて思わず顔が熱くなる。まぁ喋ってるのは全部仗助で、俺は俯きがちに手持ち無沙汰な拳を握りしめるしかできていない。
そうこうしているうちに、注文していたカフェオレが届いた。砂糖を二つ落としてかき混ぜる。
「億泰、甘党なの?」
「え?…あ、」
顔を上げるとななこさんがじっと見つめていた。目を伏せてこくこくと頷く。
「コイツ見かけによらず甘いもん大好きなんスよ。」
「なにそれ億泰かーわいー。」
「うるせーよ仗助!」
いやたしかに甘党なのは事実だけど、可愛いってなんだよ可愛いって。
「ひどい!私スルーされたよ仗助!」
「あー、コイツななこさんいるとすげー喋んねーよなぁ。」
「仗助もわかる?…早く懐かせてみたくてさ。」
二人で勝手なこと言って呑気に笑ってる。
俺の気も知らないで。
「な、懐くって俺は犬猫じゃねー!」
「あぁうん知ってる知ってる。」
あっさりと躱されてどうしていいのかわからない。仗助はニヤニヤしてるだけて助けてはくれない。
「…うぅ…、」
言葉が続かず、困ってしまう。
こんなんどうしたらいいんだよ。
「ななこさん億泰好きだよなー。」
「わかる?可愛いんだもん億泰。」
「俺と扱い違うじゃん?仗助くんだって可愛いのにー。」
「うーん、仗助は可愛いっていうか…あざとい?なんか違うんだよ。」
「え、それ俺に失礼じゃないっスか!」
きゃっきゃと楽しそうに話している。
俺は眺めるだけ。それにしても仲良いよなぁこの二人。会話を聞くともなく聞きながら、カフェオレを飲む。
「…さぁて、んじゃお邪魔な仗助くんは帰ります。ななこさん、貸し一つね!」
そういうと仗助は俺を置いてさっさと帰りやがった。ついでにちゃっかり伝票も置いていく。
「ね、なんで私といるときはそんなに静かなの?」
先程までのおちゃらけた調子は何処へやら、ななこさんは俺を真剣に見つめている。
「…いや、何喋っていいかわかんねーっつーか、うち兄貴…いや、親父しかいねーし、女子とかキンチョーするっつーか…」
しどろもどろになりながらもそう告げると、ななこさんはきょとんとした顔になる。
「…へ、おとーさんと二人?じゃあお家のことは億泰くんがやってるの?」
「おう。大抵のことは。」
「マジか、超意外!…じゃあ、料理は得意?」
それ、よく言われるな。そんなに意外なんだろうか。
家事全般苦手ではない、特に料理は得意な方だ。カレーは甘口だけど。
「辛いもの以外なら大体は作れるぜ。」
「…じゃあ、さ。うちに作りに来てよ!ちゃんとお礼はするからさ。コンビニ弁当と外食ばっかりで飽きちゃって。」
『いいお嫁さんになります』みたいな見た目とは裏腹に(まぁ喋ってみればわかる気もするけど)、ななこさんは料理が苦手みたいだった。
「いーぜ。何か食いたいもんある?」
「…んー、…あ!親子丼が食べたい。」
可愛げのないリクエストに思わず笑ってしまう。もっとこう、女の子って俺とは別の生き物かと思っていたのに。親子丼とか食うんだ。
「…なんで笑うの。おっさんみたいとか思った?」
「…いや、親子丼くらい簡単じゃねーかと思った。」
「それおっさんみたいと思われるより傷つく!」
ななこさんはぷぅっと頬を膨らませて不満を表しているらしい。
いつの間にか仗助や康一といるときみたいに、肩の力が抜ける。
「そんくらいなら教えてやるから、一緒に作ろうぜ。…今からでいいんだよな?」
コップに残っていたカフェオレを飲み干している間に、ななこさんは慣れた様子で伝票を手にする。
「お願いしまーす。わー、億泰の手料理楽しみ!」
「…おい、俺の伝票は。」
仗助のと二人分、ななこさんのとは別にあったはず。
「コレは懐いてくれたお礼に奢るよー。」
ぴらぴらと伝票を振りながら、ななこさんはレジに向かう。
上手く懐柔された気がしないでもないけど、考えるのも面倒だし、まぁいいかと思う。
「だから俺は犬猫じゃねーっての!」
遠ざかる背中に向かって声を張り上げると、ななこさんが何か呟いたような気がした。
「…ん?なんか言ったか?」
慌ててその背中を追いかけて、先程何を言ったのか聞いてみる。
ななこさんは楽しげに「なんでもなーい!」
なんて笑っていた。
「一人暮らしの家にうっかり無防備に上がっちゃうのは、犬猫よりバカだと思うよ。」
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年上夢主(攻)。億泰の貞操が危ぶまれる。
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bkm