まさか、の気持ちが拭えない間にこんなことになってしまった。キラキラした宝石みたいな少年は、安心したように私を抱いて眠りこけている。眠っていても綺麗だなと思ったらまた頬が熱くなった。
太い腕を持ち上げ、どうにかベッドを抜け出す。投げられた靴を拾って、あるべき位置に並べていると、そういえば玄関先で口付けられたのは誰かに見られやしなかっただろうか、なんて思い出してしまう。丸められたストッキングを拾い、下着を拾い、その度にいろんなことを思い出しては叫びだしたくなるほどの羞恥に見舞われた。
「あぁ…もう、お風呂入ってこよ…」
少し頭を冷やさなければ、沸騰してしまいそうだと思う。何れにせよ仗助くんが寝ているベッドへは戻れないことだし、ゆっくりお湯に浸かって考えよう。
*****
考えたところで、何も解決しなかった。
それどころか、考える度に仗助くんのことを思い出してしまって、最終的にはお湯より私の方が熱いんじゃないかってくらい長湯をしてしまった。
着替えて髪を乾かして、ゆうに一時間は経ったと思う。流石に仗助くんは目覚めただろうか、と部屋に戻れば、彼はまだすやすやと眠っていた。
これは明日まで起きないんだろうか。別に泊まられたって私は一人暮らしだから構わないけれど、仗助くんのおうちの人はきっと心配しているだろう。
私は意を決して、眠る仗助くんの横に膝をつく。
「…仗助くん、あの、起きて…?」
帰らないと、おうちの人が心配するよ?と、遠慮がちに彼の肩を揺する。
仗助くんはひどく色っぽい吐息を零しながら身じろぎをした。なんだかそれだけでドキドキしてしまう。私はもう一度「起きて」と彼を揺すった。寝返りを打つ仗助くんの首筋に星を見つけ、思わず指先を伸ばす。
「…ん、…ななこ、さん…?」
「あ、ッ!…仗助くん…」
慌てて引っ込めた指先を、仗助くんの大きな手が掴む。そのまま布団に引きずり込まれた。あの、ちょっと、なんてあんまり意味を成さない間抜けな言葉が零れ落ちる。
「…ね、起きて。…おうちの人、心配するよッ…」
「え?…あ、今何時…?」
もう暗いよ、と返せば仗助くんはのそのそと身体を起こした。露わになる逞しい胸板に私が赤面すると、仗助くんはからかうように「ななこさんのえっち」と笑った。慌てて彼に背を向ける。
「違ッ、はやく、お洋服着てッ…!」
「…真っ赤んなって、かわいーの。」
さっき見たじゃん、なんて言われてなおさら頬が熱くなる。見た、っていうか、あれは不可効力だ。
「…ねぇ、今電話してくっからさ。」
チコっと待ってて。と仗助くんは私の背中に声を掛け、少ししてから部屋を出た。多分パンツは履いてくれたと思う。そうでなければ私はいつまで経っても振り向けない。
少しして戻って来た仗助くんは、私を後ろから抱き締めた。びっくりして固まる私の耳元に、笑い混じりの声が響く。
「…泊まってくって言ったから。まさかななこさんはカレシのこと追い出したりしないっスよね?」
*****
半ば無理矢理にななこさんの部屋に泊まることに成功した俺は、まんまと彼女の手料理にありつき(すげー美味かった)、ななこさんとおんなじシャンプーの香りに包まれて彼女の隣にいる。明日の髪型がいささか心配ではあるけれど、カバンにあるヘアスプレーでどうにかなるだろうと思う。そんなことよりもななこさんちに泊まる方が大切だ。
「…あの、私…床で寝るから…」
「何言ってんスか。一緒に寝るに決まってるでしょ」
真っ赤なななこさんを捕まえる。まるでオオカミに喰われる直前のウサギみてーだな、なんて思ったけど、そんな怯えた顔させたくて捕まえたわけじゃあない。
「…仗助くん、」
「…なんもしねーし、嫌なら俺が床で寝るから」
今すぐにだって抱きたいけど、ここで無理させてセックスが怖いもんだなんて思われたら困る。それになにより、財布に入れてたゴムは1つしかなかったはずだ。
「…それはだめだよ…お客さんなんだし…」
「じゃー決まり。一緒に寝ましょ!」
半ば強引に(それは物理的な意味も含めてだ)ベッドに潜り込む。
シャンプーのいい香りと、柔らかく暖かなななこさんを胸に抱いている安心感で、俺はあっさりと眠りに落ちた。
*****
「…ねぇななこさん」
「…ん、なぁに仗助くん」
見つめ合って、唇がくっつきそうな距離で笑い合う。あぁ夢か、と思った。本物のななこさんはきっと、こんな距離で俺の目を見てはくれない。
「…俺の、口でしてよ」
夢の中の俺はなんてことを言うのか。いやそりゃあ、して欲しくねーっつったら嘘になるけど。ななこさんは妖艶に微笑んで、俺の首筋に口付けた。
「…仗助くん、」
彼女はそのまま俺の足元に屈みこんで、聳り立つ頂に唇をくっつけた。早く粘膜で擦って欲しくて、無意識に腰が浮く。
ななこさんは俺を焦らすみたいに視線を寄越しながら、見せつけるようにゆっくりと舌を這わせた。もどかしい刺激だけど、ななこさんが俺のモノを舐めてるって事実だけで達してしまいそうだ。
「…っく、…うぁ…ななこさ…」
ななこさんは俺の気持ちなんか知りません、って顔で先端を何度もゆっくり舐めた。ゆるゆるとした刺激に吐息が漏れる。頭を引っ掴んで押し込んでやりたい衝動を堪えて、ねだるように腰を押し付けた。
ななこさんはおそるおそる亀頭に口付け、ちゅう、と吸い上げた。
「っあ、…出る…ッ…!!」
びくびくと腰が跳ねたところで我に返った。夢とはいえ本当に出しちまったら大惨事だ。
がばッ、と勢い良く身体を起こす。俺の視界に飛び込んで来たのは、びっくりしたななこさんの顔。
「…え、?…っ!?」
「…ッ!?」
いやびっくりしたのは俺の方だ。目の前のななこさんは顔中俺の精液でべたべたんなってて、え、マジ、さっきのって、夢じゃ、な…っ!?
「ちょ、え、なッ…!?」
「〜〜ッッ!!!」
立ち上がって逃げ出すななこさんを慌てて羽交い締めにする。やだ、とかごめんなさい、とか真っ赤になって騒ぐななこさん。いくら暴れたって持ち上げちまえばなんてことはない。ジタバタと暴れる彼女の耳元に問いかける。
「なぁ、…なんでこんなことしたの?」
耳どころか首筋まで真っ赤だ。俺の放った精液と涙でドロドロのななこさんは、すげーエロい。真っ赤んなって暴れるななこさんを押さえ込んでいると、なんだか無理矢理どうにかしちまったみたいで、たった今出したばかりのはずなのにもう股間が苦しい。
「ごめんなさ…、仗助くん…」
「いや謝るこたぁねーんスけど…っつーかかとりあえず落ち着こーぜ…」
自分に言い聞かせるつもりでそう言葉を落とし、溜息と共に彼女を見る。俺が腕を後ろに引っ張っているせいで、柔らかそうな胸が強調されて、おまけに暴れたもんだから胸元のボタンが外れかけている。これはなんつーか、ヤバくねーか…?
「…ごめんななこさん、俺の方が全然落ち着かないんスけど…」
羽交い締めにしていた腕を離して正面で組み直す。ぎゅっと抱き締めて股間を押し付ければ、ななこさんはびくりと身体を硬くして「…なんで」と困ったように呟いた。
「そんなの、アンタがエロいからに決まってんだろ」
しかも俺が寝てる間にイタズラなんかして、そんな顔ベッタベタにするから。これを見て勃起しなかったらそいつはもう男としてヤバイ。
「…なんで、こんなことしたんスか」
「…じょうすけくんが…苦しそう…だったから…」
もしかして、辛いことさせちゃったかも、って…と、泣きそうな顔で俯く。だからって、そこまですんのかよ、と思ったら、アレ、これ俺相当好かれてる!?なんて勘違いもしたくなるわけで。
「…今、まだ俺苦しいんスけど。」
これななこさんがなんとかしてくれんの?と問えば、彼女は真っ赤になりながら頷いた。
20170327
ツイアンケ「羽交い締めにする」でした!
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bkm