「あのさぁ、これ、あげる。」
そう言ったななこの手から綺麗な包みの箱が飛んできた。驚きつつもなんとか落とさずに受け取る。
「お、サンキュ。何くれたんだ…って、あれ?」
何事か聞こうと顔を上げたら、もうななこは背を向けて走り去っていた。
手の中には綺麗に包まれた箱。なんつーか、投げて寄越すもんじゃあねーだろ、これは。
俺は状況が飲み込めないまま去りゆく背中をぽかんと見つめた。
*****
「なに持ってんだァ〜?いいなぁ、チョコかよ」
バレンタインかよ、と億泰に言われて、そういやぁそんな雰囲気の包みだなぁと手元を見る。
「いや、よくわかんねー。」
「ホンットモテてんなァーおめーはよォー!」
バレンタインは来月だろ、と言えば億泰はそーいえばそうだなァ、と間延びした返事をして、いーよなぁいっぱい貰えんだろ?と俺の脇腹を小突いた。
「もらえるっつっても基本は義理だろ?」
「モテる奴ァいいよなー、俺も義理でいいから欲しいぜェー!」
泣くなよ億泰、それにコレはチョコじゃあねーし、と言えば、その包みは駅前のケーキ屋のチョコだろ?なんて返ってきた。意外と詳しいんだよなぁコイツ。
「でもよォ、バレンタインじゃあ埋もれちまうから今っつーことなんじゃあねーの?」
意外と本命だったりしてな!なんて言われて手元の包みを見る。ななこがぶん投げて寄越したチョコレート。その意図は彼女しか知らない。
「で?どーすんの。」
「どーすんのったってどーもしねーよ。投げ寄越されただけだし。」
そう言って手元の包みに視線を落とす。ななことはクラスメイトで、それ以上でも以下でもない。そんな風に考えたこともない。
「誰がくれたんだよ。…ななこ!?羨ましいぜェーほんとに。」
人気あるのになァー、やっぱオンナはみんなおめーみてーのが好きなんだろうなァ。勝手なことを言う億泰。ななこが、俺を好きなんてそんな。ただのクラスメイトで、そんなに仲がいいってこともないのに。
でももし、俺がななこと付き合ったら。「仗助くん、」と俺の隣で可愛らしく笑って、デートしたりとかキスをしたり…いやいや待て、妄想しすぎだろ。まだ好きだと言われたわけでもねーのに。
「…別に好きなんて言われてねーし」
「仗助ェー、言われたらどーすんだよ!付き合っちゃったりすんのかよォ〜」
億泰にからかわれて、また妄想がむくむくと膨らむ。俺の知ってるななこはなんつーか、サッパリしたタイプに見える(今日も投げてよこしたくらいだし)けれど、もし付き合ったら、こう…恥じらったりとかすんのかな。『やめてよ仗助くん…恥ずかしいよ…』なんて、やばい、すげー可愛くねェ!?
「…オイ、仗助ェ?大丈夫かよオメー…」
「え?あぁ、うん、大丈夫だぜ。」
億泰は俺の気持ちなんて全然知らずに「顔が赤いんじゃあねーかァ?」なんて呑気なことを言っている。こんな気持ちを知られても困るけど、もう少し察してくれと思うのはワガママだろうか。
「…でもよー…どういうつもりでくれたんだろうな…」
俺が溜息を吐くと、億泰は「んなん俺に聞かねーでななこに聞いて来いよなァー」とあっけらかんと笑った。ノーテンキな奴。そんなん聞けるかよ。
「アレだ、とりあえず食えばいーんじゃあねーの。そんで美味かったぜェって言ってよォ」
そーいうの得意なんじゃあねーの、なんて不思議そうな顔をする億泰を小突く。仗助くんは純愛タイプだっつーの!
「…おめーに恋愛アドバイスされる日がくるとはよォー…」
なんというか、心中は複雑だ。億泰くらい単純に考えたらいいんだろうか。言われてできるもんでもねーけど。
「…アドバイスぅ!?そんなんしてねーよ」
「気付いてねーのかよ!…オメーはホント呑気でいいよなぁ…」
でもありがとな!と勢い良く背を叩き、キョトンとする億泰に、「行ってくるぜ!」と言えば、「おー、頑張れよォ!」と、いささかわかっていなそうな応援の言葉が背中を押した。
20170130
#気が向いたら書くリクエストボックス
なんとも思ってなかったはずのクラスメイトにチョコを渡されてドキドキしちゃう仗助
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bkm