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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -

マリアの爪痕

「…ね、ななこさんさぁ。もしかして俺のこと怖い?」
「…ううん、どうしたの急に。」

カッコいいし優しいし可愛いし、申し分のない恋人だと思うよ、と告げれば彼はじゃあ、と言葉を続けた。

「…じゃあ、セックスが怖いんスか?」
「…そ、んなことないよ…」

びくり、と身体が強張る。
私の反応を見た仗助くんは一人納得したように頷いて、おいでと手招きする。

「キスも苦手でしょ。」
「…う……」

そりゃあ別段得意ではないけど…と言葉を濁すと、彼は「してもいい?」と私の顎を持ち上げた。答えの代わりに瞳を閉じると、宥めるような口付けが何度も降ってくる。時折ぺろりと舐められて、驚きに開いた小さな隙間を割り開くようにして舌が入ってきた。

「…んー…ッ…」

どうしていいかわからなくなって仗助くんの身体を押し返すと、彼は唇を離して私に視線を合わせてくれる。

「…昔とかに…なんか、ヤなことあった?」

俺さ、ななこさんとしたいんだけど、今のまんまじゃあ難しいっしょ?と、彼は怒るでも落胆するでもなく、何か宿題を考えるかのような調子で私に告げる。
そういう小さな優しさが重なって「この人なら」と思えたのだから、仗助くんなら、大丈夫に違いない。

「やなことっていうか、私が仗助くんの時くらいにね?」

私は、努めてなんでもないことのように話し始める。
仲良くしている男の子がいた。その子と私は、ただの友人。触れるのも抱き着かれるのもスキンシップ。だって彼は他の男の子にもそうしていたから。私も、彼らと同じなのだと。そう勝手に思っていた。彼が私に抱きつく時は大体いつも何か硬いものが私の身体に当たったけれど、それはてっきりポケットの中のペンだとか、そういった類のものだと。彼が私から急に離れて、そうして戻ってきた時に、それがなくなっているのは、彼が気付いてどこかに置いてきたんだと。ずっとそう思っていたんだけど。
そのあとしばらくして、彼とは別の男の子と付き合って初めて彼が私に向けていた劣情に気付いた。途端に彼のことも、目の前の好きだったはずの男の子のことも怖いっていうか、気持ち悪いと思ってしまった。彼らは笑顔とその布の下に何を隠しているのかと。

「私のせいなの。…襲われたとか、そういう話じゃないから…心配しないで。」

そう言うと、仗助くんは非常に困った顔をして、小さく頭を掻いた。

「…俺だって…シタゴコロあるし似たようなもんスけど…」
「それでも、…仗助くんなら…って…」

そう、仗助くんなら。面と向かって真っ直ぐに好きだと言って笑ってくれる優しい君なら、怖くても大丈夫だって、思えるから。

「それは、抱いてもいいってことなんスよね?」
「…え?あ、う…ん。…よ、ろしく…お願いします…」

いつかは通らなきゃいけないのだから、別に今だって構わないんだ、と自分を鼓舞してみるけれど、不安で怖くて仕方ない。

「…力入りすぎですって。」

仗助くんはくすりと笑うとベッドに腰掛けて、隣をポンポンと叩く。促されるままに彼の隣に腰を下ろした。

「俺は、ななこさんが好きっス。」

はにかむように微笑んで、頬にちゅっとリップ音。頬にキスされるのは好きだ。仗助くんの唇は私の頬より全然柔らかい。

「…私もだよ。」

首筋や耳許にまで唇を寄せられてくすぐったさにくすくすと笑っていると、仗助くんは私の手を取って己の股間に導いた。

「触ってみて。…怖かったら離していいから…」

布越しにそっと触れると、仗助くんの大きな手が私の手の上に重ねられる。私の身体の何処にも存在しない硬さと熱が布の向こうにあった。

「…怖く、ない…」
「ななこさんが好きだから、こーなるんスよ?」

恥ずかしそうに、けれどもしっかりと私を見て、仗助くんは言う。

「嫌だったら、言ってくださいね。抱きたいけど…アンタに無理して欲しいわけじゃあないんス。」

こくりと頷いて見せれば、彼は私の手を離させて指先にひとつ唇を落とし、そのままベッドに押し倒した。

「…ななこさん…少し俺とお話ししません?」
「…うん、」

押し倒された状態で、仗助くんを見上げて話すのはなんだか不思議な気がする。
彼はなるべく私がしんどくないように考えてくれてるんだなって思うと、嬉しいけど少しばかり申し訳ない。

「…唇にキスされんのは好き?」
「…あんまり…」

「じゃあ、ほっぺ。」
「好き。」

「じゃあおでこ、あとこっちは?」
「…くすぐったい…」

そうやって何回もいろんなところに唇を落としながら彼は器用にブラウスのボタンを外していたようで、素肌に当たる外気が冷たいな、と思って初めて脱がされていたと気付く。

「…じょーすけ、くん…見ちゃやだよぅ…」

露わになった下着を両手で覆うように隠すと、「まだ見えてないんで、見せてください。」と押さえていた腕ごとブラジャーを捲り上げられる。恥ずかしさに悲鳴を上げると、彼は心配そうに眉を寄せて私に謝罪した。

「スンマセン…怖い?」
「…ぅ…ちが、恥ずかしい…」
「怖くないなら良かったっス。」

頂きを唇で食まれてびくりと身体が跳ねる。仗助くんの、私の大好きな温かい手が、小動物を掴まえるような優しさで私の胸を揉む。彼の舌が胸の突起を撫でるたびに、舌先のざらつきに似たもどかしさが身体に染み込んで、肌を粟立たせる。
不安なのか快楽なのか判断が付かないそれは、私の中に蓄積されてじりじりと焦げるような感情に変わっていく。

「…ッやぁ…、っ、は…」

唇からは吐息が零れ、意味を成さない音を立てて空中に霧散した。何度もそうして色の濃くなった空気は酸素が薄いような気がして、私は必死に呼吸を続けた。

「ななこさん、声可愛い…俺、早くアンタと繋がりたいっス…」

欲望を隠す事なく言葉にして、仗助くんは私に教えてくれる。私が怖くて気持ち悪くて仕方なかったものの輪郭を伝えて、怖くないよって、まるで手品のタネ明かしをするみたいに目の前に曝して。

「…ちが、こんな…声…っあ…だしたくな…ぁっん…」
「俺が聞きたい。から、いっぱい聞かせて?」

仗助くんの指先が、下着に掛かる。ゆっくりと降ろされていく感触さえ掌の愛撫と似たさざめきに変わる。胸が苦しくて、何かが溢れそう。

「…っ…仗助くん…ッ…」

仗助くんの掌が太腿から脚の付け根を何度も撫でる。もどかしい刺激に彼の手を挟み込むように脚を閉じて太腿を擦り合わせると、彼はにんまりと笑って言った。

「…触っても、いいっスか?」

小さく頷くと、彼は指を私の割れ目に沿わせるように押し当てた。そうしてゆっくりと擦るような動きを繰り返す。

「…あっ…んん…ッ…」

時折ぴり、と電気が走ったような刺激が走る。その度に唇からは意味のない言葉が零れ、仗助くんの指は更に滑らかな動きに変わる。

「ここ?それとも…中に入れてもいい?」
「あぁっ、や、それ、だめっ…」

花芽を親指の腹で捏ねるように押し潰されて身体がびくびくと跳ねた。こぷりと溢れる蜜を掬い取って擦り込むように捏ね回されると悲鳴染みた嬌声しか出てこない。

「ななこさん、俺…もーヤバいっス…」

親指の動きはそのままに、中指が一本入ってくる。粘着質な音と共にゆっくりと差し込まれたそれを、まるで咀嚼するみたいに勝手に締め付けた。

「ひあ、や、入っ…あぁっ、んん、ーーッ!」
「…ね、俺ななこさんのことぐっちゃぐちゃにしちまいそう…」

私を見つめる紫の瞳は、いつもの優しい色ではなくて。それでも仗助くんは、努めてゆっくりと、私の中にある指を増やしていく。

「ぅあ…ッ…」

増やされた指がバラバラに動いて、その度に濡れた音と自分の嬌声が耳を犯す。

「ななこさん、も、いい?」

本当もう我慢の限界っス、と苦笑して仗助くんは私から身体を離した。彼は手早くベッドサイドの引き出しを開けると小さな正方形を取り出して、お菓子の袋を開けるときのように端を噛んで引き裂いた。袋の端が無造作にベッドサイドに放り捨てられる。

「痛かったら、爪立てていーっスから。」

そうして再び覆いかぶさった仗助くんは、シーツを握りしめていた私の手を取って、肩に乗せた。遠慮がちにそっと力を込めると、彼は幸せそうに私の頬に口付ける。同時に熱い塊が押し当てられ、そのまま身体を割って侵入してくる。

「だいじょーぶ?…ゆっくり、息…すって、はいて…」
「っは、…ぅっ…ん…」

言われるままに呼吸しようとするけれど、痛みで息が詰まってしまう。視界は涙で歪んで、息はうまくできなくて、苦しくて、しんどくて。でも仗助くんの声が、腕が、そこにあるってだけで、充分に幸せだった。

「息、止めちゃダメっスよ…ほら、吸って、吐いて…」
「ぅあ…っ、ぐ…」

身体を割かれるような痛みにどうしたって力が篭ってしまう。力を抜かなきゃと思うんだけど、上手くいかない。それでもどうにか全部収まったようで、仗助くんは大きく息を吐いて私を抱き締めた。

「…全部入ったっス。…しんどい?」
「…だ、い…じょーぶ、ッ…」
「…大丈夫には見えないっスよ…」

困ったように眉根を寄せて、仗助くんは涙に濡れる頬をそっと撫でてくれた。

「…ななこさん、好きっス。」
「…っは…ッく…ぁ…」

仗助くんはそっと私を抱き締めて、「ななこさんが大丈夫になったら動くね。」と耳許で囁いた。内側から押し広げられる感触なんて初めてで、大丈夫もなにもわかんないよ。
何度も浅い呼吸を繰り返す。私の身体の空気が入る部分すら、仗助くんに侵食されてしまってるんじゃあないだろうかってくらいに、うまく息が吸えない。

「…ななこさん、俺…やっぱ無理…っ…」
「ぅあっ!やっ、あ、じょ、すけっ、あぁっ!」

ぐ、とこれ以上ないくらいに突き込まれたのをきっかけに、ガツガツと何度も穿たれる。突然のことに思考が全然追いつかなくて、必死に仗助くんにしがみついた。
擦られる度に訳がわからなくなって、気持ち良くって頭がおかしくなりそう。

「…ななこッ、ななこ…ッ!!」

「やっ、あ、だめッ…や、あっ、ああっ、んッ、〜〜ッ!!」

内蔵がぐちゃぐちゃになるんじゃないかってくらい奥まで押し込まれてそのままきつく抱き締められる。腰を震わせる仗助くんをぎゅうぎゅう締め付けながら、私は意識を手放した。

*****

瞼を持ち上げると、心配そうな仗助くんの顔が目の前にあった。恥ずかしくて身じろぎすると、腰に重苦しい痛み。

「…っいたい…」
「…大丈夫?治しましょうか…」

心配そうに髪を撫でられる。大きな手が気持ち良くて、持ち上げた瞼をゆっくりと降ろす。

「ぅうん、このままがい…っ、あれ…」

喉が掠れてうまく声が出ない。乾いた咳払いを繰り返していると、仗助くんが身体を起こした。

「…俺、水取ってきます。」

そういって背を向けた彼の背中に、何本もの赤いライン。

「…え、ごめんね仗助くん!…それ…」
「…ななこさんに比べりゃ痛くないっスよ。」

そう言って笑ってくれるけど、どう見たって痛そうだ。

「仗助くんのが痛いよ!…ごめんね…」

申し訳なくて泣きそうになっていると、仗助くんはグッと私に顔を寄せて言った。

「…ななこさん、俺が『痛くしてごめん』って言ったら…嬉しい?」
「…うれしくない…」
「…俺もおんなじ。」

だから謝っちゃダメっスよ。と、優しく髪を撫でて仗助くんは部屋から出て行った。

「…はぁ。」

仗助くんはなんて男前なんだろうか。
ますます好きになっちゃうなぁなんて溜息を吐く。
彼が抜け出したベッドは急に冷えていくような気がして、早く帰ってこないかなぁとドアを見つめた。

「…はい、これ飲んで。」
「ありがと…」

渡された水で喉を潤している間に、仗助くんは再びベッドに潜り込んでいた。コップを置いたところで、上目遣いで私を見上げる彼に気付く。

「…怖くないでしょ?」
「…怖くない、ね。」

そう答えると、仗助くんは満足そうに笑って私を布団に引き摺り込んだ。

20151028


萌えたらぜひ拍手を!


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