「なーにしてんスか?」
ななこさんの家に遊びに行ったら、彼女は何やらちくちくと縫い物をしていた。
「ハロウィンだからさぁ、億泰に猫耳でも付けようと思って。」
「なんで億泰?」
そこは俺がアンタにイタズラするのが正解だろって思う。だって恋人だし。ハロウィンってのはそーいうイベントのはずだ。
「え?だって仗助くんはこんなのつけてくれないでしょ。」
億泰甘いもの好きだし、こーいうのもなんだかんだで付き合ってくれそうじゃない?と彼女は笑う。
億泰とななこさんは仲がいい。つーかななこさんが億泰を気に入っているらしく、事あるごとに気にかけている。
俺は『仗助くん』なのに億泰は呼び捨てだってのが、ちこっと気に食わなかったりする。
「…ななこさんが着けたらいーじゃないっスか。」
不満を隠す事もせずにそう言えば、彼女は呑気に笑って「なぁに仗助くん、ヤキモチ?」なんて。
図星なワケだけど、面と向かってからかわれたらやっぱムカつく。俺がななこさんに惚れてるってのを、この人はよーく分かった上でそんな事を言うんだ。
「…そーっスよ!」
ぷい、と背中を向ければ、彼女は持っていた針を片付けてこちらに寄ってくる。
「…じょーすけくんが、着けてくれたら…億泰んとこには行かないんだけど。」
背中に抱き着いて甘えた声を出す。
あぁこれが目的か、って思ったけど、突っ撥ねたら本当に億泰んとこに行っちまいそうで。
「…わーったよ。着けてやるから。」
「ありがと!大好き!」
俺が抱き返すよりも早く、彼女はパッと俺から離れて先程の位置に戻った。
してやられた感に大きな溜息を吐いたけど、ななこさんはどこ吹く風でテーブルに戻って再び手元に視線を注いでいる。
「…で、俺に何しようってんスか?」
ななこさんに近づいてみれば、可愛らしい耳が一つ出来上がってテーブルに転がっていて。もう一つも彼女の手の中でほぼ完成しているようだった。
「…仗助くんは猫よりも犬って感じ?」
糸を引っ張って、ぷちりと噛み切る。そんな仕草さえ色っぽいんだから困ってしまう。
針を裁縫箱に戻したななこさんは出来上がった二つの耳を俺の頭に当ててにっこりと微笑む。
「それじゃあ俺、見えないんスけど。」
「…かーわいー!」
全然聞いてない。
間近にある笑顔が可愛くて憎らしくて、そのまま口付けた。
「…ん!」
びっくりしたななこさんは、持っていた耳を落っことした。慌てて拾おうと俺から逃げ出すのを、頭を押さえて阻止する。
十分に彼女の感触を堪能してから唇を離し、ななこさんが息を整えているのを尻目に落とした耳を拾って髪にパチリと止めた。
「…犬じゃなくって、オオカミっス。trick or treat?」
「…っ、まだハロウィンじゃ、ないし…ッ…」
ななこさんを見つめれば、彼女は顔を赤くして俯く。
どうやらお菓子をくれないらしい。それは俺がイタズラしていいってことっスよね。
「…でも、お菓子はないんスよね?」
可愛らしいアンタはお菓子よりもっと甘いんだよなぁと思ったけれど、それは当日まで黙っておくことにした。
「…ひどい。」
不満の声を上げながらも抵抗の素振りがないことに安堵して、俺はななこさんにもう一度口付けた。
俺がどんだけアンタを好きかまだわかってないみたいだから、億泰の名前なんか出したらどうなるか、この際たっぷり教えてやろうと思う。
俺ってば意外にもヤキモチ妬きだったんだなぁなんて、どこか他人事みたいに思いながら彼女をぎゅっと抱き締めた。
20151016
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bkm