枕元に放り投げていた携帯電話がピカピカと光って鳴り出す。
こんな時間に誰だろうかと電話を取れば、聞き慣れた声。
「…あ、ななこさん良かったァ。今家っスか?」
「うん、どしたの?」
急に電話を掛けてくるなんて珍しいな、と思ったら、彼の口から紡がれた言葉は更に珍しくて。
「…今暇っスか?」
「もしかして、近くにいる?」
「…あれ、バレちゃいました?」
こんなに突然仗助くんが来たのなんて初めてだから、何かあったのかと思って慌ててドアを開ける。
ドアの向こうにいた仗助くんは柔らかく微笑んで、片手を上げた。
「どしたの?珍しいね。」
見つめれば彼は照れたように笑う。
片手にビニール袋を持っただけの姿だから、ふらりと散歩にでも出ただけなんだろうか。
「…今日、何の日か知ってます?」
「え?ジョースターさんの誕生日…?」
そういえばジョースターさんも静ちゃんも元気かなー、なんて思う。子供の成長は早いから、次に会ったらきっともう赤ちゃんじゃあないんだろうな。
「…そうじゃなくってェ…今日はお月見っスよ!」
中秋の名月か。言われてみれば確かに、今日はいつもより明るい気がする。
「…そっか。」
「…っつーわけでェ、お月見しましょ。」
そう言う仗助くんの笑顔はお月様なんかよりずうっと明るい。
*****
電気を消して、ベランダに二人並ぶ。椅子なんてないから、柵に寄り掛かっているだけ。少し肌寒いけど、仗助くんにくっついた右半身だけは温かい。
「はい、ななこさんの分。」
仗助くんはお団子とビールを買ってきてくれて、組み合わせは微妙だけどお月見らしいなーって思ってありがたく受け取る。
仗助くんは私が缶を受け取ると、俺にも一口ちょーだい?なんて笑って言った。
「ありがと。ダメでしょ未成年。」
プシュ、と軽快な音を立てて缶を開ける。
缶を傾ければ月が視界に入って、なかなか風流だなぁ、なんて。
「…美味しそうに飲むんスね。」
ビールって美味しいの?なんて可愛らしく小首を傾げる仗助くんは、なんだかすごく色っぽく見えた。
きっと、この柔らかな月明かりのせいだ。
「…ちょっとだけ、わけてあげる。」
ベランダに寄り掛かったせいでいつもより少しばかり低い位置にある頭を抱き寄せて口付けた。
「…ッ!?」
突然引き寄せられて面食らう仗助くんは、すぐに私をきつく抱き締める。
分厚い舌が入ってきて、口の中を蠢く。
缶の中身が零れないようにそっと手を伸ばして、室外機の上に置いた。
自由になった両手で、首筋に抱き着く。
「…美味し?」
「…グレートっスねぇ。」
くすくすと囁き合うように笑って、もう一度唇を重ねた。
月明かりみたいに柔らかな仗助くんの唇。
「…この場合も、花より団子って言うのかな。」
「俺は月なんかより断然ななこさんを見たいっスけどね。」
結局お月見なんて、口実に過ぎなかったのか。
日曜日の夜だから学ランじゃない仗助くんの、ビールも買えちゃうくらい大人っぽい色気に思わず本音が零れる。
「私は、月よりも星が見たいなぁ。」
「…ななこさんのえっち。」
「中秋の名月なんかよりも、仗助くんの星の方がよっぽど綺麗だもの。」
首筋に一つ唇を落とすと、仗助くんは擽ったそうに笑って私を抱き締めた。
20150927
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bkm