大好きだった花京院くんが、突然どこかに行ってしまったのが二ヶ月ほど前のこと。
彼と空条くんの行方は誰も分からないままで、どうしたらいいのか途方に暮れた私が自分の心と折り合いをつけ始めた頃、空条くんが学校に戻ってきた。
花京院くんが一緒だったらしいと風の噂に聞き、彼の元へ行ってみれば、死んだと聞かされ。
まさかと思ったんだけど、空条くんの瞳が、嘘じゃないことを何よりも雄弁に語っていて。
信じられないと涙したのも束の間、突然目の前に花京院くんが現れて、しかも彼は幽霊で。
こんなに驚いたことなんて、人生で初めてなんじゃあないかってくらい、衝撃の連続。
くらくらする頭と泣き疲れて重い瞼を引きずって、私は自室のベッドに飛び込む。
「…うぅ、もう全然ついて行けないよ…」
枕をぎゅうっと抱き締めると、頭の上から声がした。
「…ななこさんは、案外リアリストなのかい?」
「…ひぃっ!」
驚いて仰向けにゴロンと転がれば、ベッドからそのまま転げ落ちる。
背中をしこたま打ち付けて涙目になりながらベッドに掴まって体を起こせば、花京院くんは楽しそうに笑っていた。
「ごめん。驚かせるつもりはさぁ、なかったんだよ。」
「…ひどいよ花京院くん。」
目を擦ると目尻がぴりりと痛んだ。泣きすぎて傷になってしまったかも、と慌てて擦るのを止めたけれど、まだ少し痛い。
「…そうかな。」
彼はズアッと謎の効果音を立てて私の隣に降り立つ。いや意味わかんないそのポーズ。
「…幽霊だから…どこでもいけるってこと?」
「うん、まぁ大抵の所へは行けるんじゃあないかな。」
でも移動も結構疲れるんだよねぇ、なんて彼はのんびりと笑う。よくわからないけどそういうものなんだろうか。
「普段は、どこにいるの?」
素朴な疑問を投げかける。幽霊の暮らしなんて私には想像がつかないから。
「よくわからないんだよね。…僕も割と最近だしさ。幽霊になったの。」
「花京院くんの部屋は?」
「そのまま残ってる。…でもさ、自分の部屋にいると…ちょっと辛くって。」
そう言って彼は、寂しそうに笑った。
家族には見えないし、大好きだったゲームもできないと。それは確かに悲しいな…と、私が眉を寄せると、彼は慌てたように続けた。
「…でも、ななこさんが僕のこと見えてるし、全然寂しくないんだ。」
「…じゃあ、私の部屋にいたらいいよ。」
そうだ、花京院くんはパパやママには見えないんだから、別にここにいたっていいじゃないか。そんな単純な思考回路でもって、私は彼に笑いかける。
「…ありがとう。ななこさんは優しいね。」
花京院くんは私の頭を撫でてくれようと手を出したのだけど、触られている感じは全然なくて。でも何故だか、私の心臓はドキドキと鳴った。
そりゃあ好きな人が自分の部屋にいたら当然かな、と考えた所で、私はとんでもない提案をしてしまったのではないかと気付く。
ニコニコと嬉しそうに笑う彼には、もう言えなかったのだけど。
ゆうれいのいる毎日が、日常になる。
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bkm