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2.君の苦手なもの

「…お寝坊さん、起きて。」

優しい声が聞こえてきて、まどろみから浮上する。ゆっくりと瞼を上げると、目の前には花京院くん。

「え、あ、…やだっ!!」

突然目の前に現れた彼に驚いて慌てて布団の中に潜る。花京院くんは楽しげにやっと起きたね、なんて笑っている。

「…休みだからって寝すぎじゃあないのかい?」

「…女の子の寝てるところ見るなんて悪趣味だと思うの。」

目元だけ布団から出して花京院くんを見れば、彼は心外だと言った風に眉根を寄せ、時計を指しながら告げる。

「…お昼過ぎまで寝てる君の方が悪いと思うんだけど。」

指差す先を見れば、その時計は正午をとっくに回っていた。普段ならありえない程の寝坊に思わず飛び起きる。

「マジ!?なんでそんなにッ…!」

「…何度か声かけたんだけど、全然起きなくってさ。気持ちよさそうだったよ。」

慌てる私を見て、花京院くんは楽しそうに笑っている。
思い返せば昨日は怒涛の1日だったから、きっと心の整理に時間が掛かったんだろう。

「…花京院くんのせいで、疲れちゃったの。」

そう頬を膨らませると、花京院くんはゴメンねと笑い、私の今日の予定を問う。

「…今日は日曜日だろう?何するの?」

「何しようね。花京院くんは?」

「僕は、君を見てるよ。」

まるで口説き文句みたいな言葉を照れもせずに吐き出すもんだから、聞いているこっちが赤面してしまう。花京院くんはこんな人だったかしらと考えるけど、いなくなる前の彼とは殆ど言葉を交わしたことがなかったなと気付く。ただ、かっこいいな、仲良くなりたいな、と、彼を恋慕の眼差しで見つめていただけで。

「…なにそれ。」

「君だって、僕のこと見てたろ?」

恥ずかしさを隠すようにそっけなく言えば、あっさりと返されて顔がまた熱くなる。

「…知ってた、の?」

「僕も、好きだったから。」

僕『も』と言われて、あぁバレてたのかと両手で顔を覆うと、花京院くんはハッとしたように私に向き直る。

「あ!ねぇ僕、君の気持ち聞いてない。」

「…え?」

「僕は好きだって言ったのに。ズルいじゃあないか。」

期待のこもった視線が、早く早くと告げている。そんな急かされたって、好きだなんて恥ずかしくて軽々しく言えやしない。

「…顔洗ってくる!」

着替えもしなきゃ、と服を引っ掴んで逃げ出すように浴室に向かえば、花京院くんはふわふわと後ろをついてきた。

「ねぇお風呂で着替えるの?僕も入っていい?」

「そんなわけないでしょ!」

ピシャリと浴室のドアを閉めて、顔を洗おうと水道の水を出したところで、残念でした、なんて笑いながらドアを擦り抜けてくる。あぁ幽霊だったな、なんて感心するけど、これじゃあプライバシーなんてあったもんじゃあない。

「ダメだってば!もう!!えっち!」

軽くパニックになった私は、花京院くんに水を掛けた。すると彼はなんとも間抜けな悲鳴を上げて、消えた。

「ちょ、何今の!」

声だけが、聞こえる。

「何って…水だよ。」

「なんか僕、見えないんだけど!」

ひどく慌てた様子に思わず笑ってしまう。
幽霊って、水に溶けるのか。

「…シャワーなんて一緒に浴びたら、花京院くん溶けちゃうかもね。」

とりあえずの安全地帯を見つけてホッとする。これでお風呂を覗かれる心配はなくなったみたい。

「うぅ、ひどいよななこ…。」

そう言うと花京院くんの気配は消えた。どうやら濡れない場所に避難したらしいと知り、私は安心して顔を洗う。そうして服を着替えながら、これからは霧吹きでも常備しておこうと意外に変態な花京院くん対策を考えるのだった。



ゆうれいは、水が苦手。


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm