「ねぇななこさーん、この曲入れて下さいよォ。」
「はいはい。」
渡されたのは仗助くんの好きなプリンスのCDと、携帯電話。
最近の携帯電話は着メロとかいう機能が付いて、呼び出し音が作れるというんだからびっくりだ。さすが21世紀。まだ少し早いけど。
ぴ、ぽ、ぱ、と音を鳴らしながら、CDと同じメロディーラインを探していく。
真剣に曲を止めたり掛けたりしている横で、仗助くんは退屈そうにしている。
「頼んでおいてなんですけど、ヒマっス…」
「ちょ、待ってもうちょっとー…あ、和音にはしないからね!」
後ろから抱きつかれると、彼にすっぽり包まれてしまう。子供みたいに高い体温のくせに、そのへんの大人よりガタイがいい。仗助くんのギャップはすごく魅力的なものばかりだと思う。
「えー、せっかく3和音のに機種変したのに?」
「だったら大人しく待っててよ。」
最新機種にしたくてきっとバイトを頑張ったんだろうと思う。携帯なんてメールと電話しか使わない私からしたら、よくわからない世界ではあるが。
「待てないんで単音でいいっス。」
「ワガママめ!」
ぴこぴことやっとの思いでサビのワンフレーズを入れると、最初から流す。
「わ、スゲー!ありがとななこさん!」
「もー、退屈とか言って急かさないでよね!」
「だってェ、折角会ったら俺のこと見てて欲しいんですもん。」
むくれる仗助くんは、そもそもの原因が自分だってことを棚に上げている。
このワガママ野郎め。可愛いから許されると思ってるんだろうな。許すけど。
「そもそも誰のせいなのよ。ワガママ言ってるとアドレス消しちゃうよ?」
まだ手元にある仗助くんの携帯電話をぶら下げる。機種変したばかりだというのにストラップが沢山ついていて重い。
「ちょ、それはカンベンっス!!!」
すごい勢いでひったくられる。余程大切な相手でもいるのか。
「冗談だよ。…ねぇこれさ、こんなにストラップ付いてて重くないの?」
「…重いっスけど、これが流行りなんスよ!」
高校生のすることはわからない。
携帯電話よりきっとストラップ達の方が重いだろう。
「…一個でいいと思うんだけどねぇ。」
親戚のおばちゃんみたいだな、と思ったけれど思わず溜息が出てしまう。
先程仗助くんから借りた時も正直邪魔だったし、こういうところに年の差を感じてしまう。
「じゃあ、ストラップお揃いにしましょうよ。そしたら俺、それ一個でいいっス。」
照れながらそう言われると、なんだかこっちまで照れてしまう。
熱くなる頬を隠せずにいると、仗助くんが悪戯っ子のように笑った。
「ななこさんかーわいー、顔が真っ赤っスよ?」
「じ、仗助くんのせいだし!」
年下なのに私より一枚上手な仗助くん。
あざといなぁと思うのだけれど、そこすら可愛いと思ってしまうあたり私はもうどうしようもないのかもしれない。
「ね、ななこさん。嬉しいっスか?俺とお揃い。」
ふと真顔になって、私を見つめる仗助くん。
心臓が射抜かれたみたいに跳ねて、息が苦しくなる。
「……う、嬉しい、よ…」
普段は恥ずかしくて彼からの愛情を受け取るばかりだけど、時々こうして言わされてしまうことがある。
「グレート。よくできました。」
ぱっと花が咲くみたいに笑って、頭を撫でてくれる。
さっきの狩人みたいな目をした仗助くんとはまるで別人の笑顔。このギャップにハマってしまったのだ、私は。
「…どうせなら、携帯も仗助くんと同じのにしようかな。」
ぽつりと呟くと、彼はそれはそれは嬉しそうに抱き締めてくれた。
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bkm