!!attention!!
オールスターバトルリーグ予選会のスタッフとして働くことになった子の話。
ゲームしてなくても大丈夫。
*****
「よろしくお願いしまーす。」
挨拶をして、配備位置に着く。
救護と書かれた札の下に、改造制服にリーゼントの不良がいる。
自分の腕に付いた『救護』の腕章とテントを見比べる。
リーゼントさんは私に気づくと、人懐こい笑顔を向けてくれた。見た目とのギャップにびっくりする。
「救護の人っスかぁ。よろしくお願いしまーす。」
のんびりと間伸びした喋り方。なんだか見た目にそぐわず優しそうな人だなぁ。
「ななこです。よろしくお願いします。」
「俺は仗助。よろしくな、ななこちゃん!」
隣にパイプ椅子を一つ出してくれたので、そこに腰掛ける。
リーゼントさんはワクワクした様子で、会場を眺めていた。
「あの…仗助さん、これ、何の大会なんですか?私、よく知らないんですけど…」
「ぅえ!?何それ止めてくんねー、仗助でいいし敬語はよせよ!さん付けとか気持ち悪ィ。多分俺のが年下だし!」
こんなしっかりしたガタイが高校生と聞いて驚く。確かに学ランのようだけれども、一体いつ成長したんだろう。
「じゃあ仗助…くん。」
「まぁしゃーないっスね。」
初対面で呼び捨ては気が引けたので、くん付けで妥協してもらった。
「で、なんの大会なの?みんなムキムキだから格闘技?」
「あぁ、まぁ格闘技?みたいな?…まぁななこちゃんの仕事はあんまりないかもなー。」
そう笑うので、安心したのに!仗助くんの嘘つき!
目の前に運ばれてきた人、血だらけなんですけど!?
「おー、また派手にやられたなー。」
仗助さんはそう言うと、『ドラァ!』と一つ叫んで怪我人を殴った!
「ちょ、な…!大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄ると、その人はケロっとした顔で立ち上がった。
「おぉ、痛くねえ。…悪ィな。…こっちのお嬢さんも、スタンド使いなのかい?」
「…え?な、に使いですって?」
「…なんだ違うのか。じゃあ癒し担当ってところかァ?」
そう言うと黄色い帽子のお兄さんは、突然私の頬にキスをした。
「な!?」
「…元気出たぜ、ありがとうお嬢さん。」
「…え、あの…」
「おっと申し遅れた。おれはホルホース。今回は負けちまったが、おれは誰かとコンビを組んではじめて実力を発揮するタイプだからな。」
そう言い残すと黄色い帽子のホルホースさんは去っていった。ちょっと展開が怒涛すぎてついていけない。
「大丈夫か?…随分チャラチャラしてんなぁ、アイツ。」
仗助くんがキスされた頬を消毒液で拭いてくれた。それもどうかと思うけれど、仗助くんの優しさは単純に嬉しい。
「…ありがと。あの、どういう…え?」
「あ、ちこっと待ってな?」
もう一人、どうやらホルホースさんの銃で撃たれたらしい赤い人も、仗助くんに殴られてケロっとして帰っていった。
「…仗助くんすごい、魔法みたい!」
「…あー、ななこちゃんには見えない?」
そう言うと仗助くんは何かを見せてくれているみたいだったけれど、私がキョトンとしているので、残念そうに苦笑いした。
「…?」
「…そりゃ見えないかァ。ざ〜んねん!」
ぽふぽふと頭を撫でられる。なんだかさっきからよくわからないことだらけ。
*****
試合が進むにつれ、「見えない」の意味を理解した。仗助くんに聞くと『スタンド』というらしい。
「仗助くんにもいるんだ!いいな、わたしも欲しいー。」
「…うーん…普通が一番っスよ。」
そう言って苦笑いしている。
私はふと、疑問を抱いた。
「仗助くんは、出ないの?試合。」
「あ、俺シードなんで予選は出ねーの。」
「すごい!強いんだね!!」
傷が治せて尚且つ強いとか、仗助くんすごいな。
尊敬の眼差しを向けると、彼は照れたように頭を掻いた。
*****
その後も仗助くんは大活躍で、私は特段救護としての仕事をすることはなかった。
2日目の昼過ぎ、試合に負けた選手が治そうと近づいた仗助くんに八つ当たりした。
「っ痛ぇ〜!もー、いいから治させろっつってんでしょーが!」
仗助くんは半ば無理矢理に治して、その人をテントから放り出す。
「大丈夫!?」
慌てて駆け寄ると、仗助くんはあちこちに傷を作っていた。
「大丈夫大丈夫、舐めときゃ治る!」
あっけらかんと笑っているけれど、すごく痛そう。
「…治さないの?」
「あ〜、俺、自分は治せないんス。」
それを聞いて驚く。傷だらけになって他人を治す仗助くんは、なんて優しいのか。
「じゃあ座って!」
出番のまったくなかった救急箱を出し、仗助くんの傷を手当てしていく。
「ッて…美男子の顔に傷つけるなんて酷いやつだよなァ。」
「本当だよ!」
即答する。こんなイケメンに傷を付けるなんて世の中の損害だ。
仗助くんは軽口に本気で答えられたからかびっくりして赤くなっている。
消毒液を掛けて、絆創膏を貼って。
そんなに酷い傷はなかったようで、少し安心する。
「ありがとな。」
「…どういたしまして。」
仗助くんが嬉しそうに笑う姿に、なんだか照れてしまう。
1日隣にいただけなのに、随分沢山カッコいい所を見たなぁ、なんて。
「…なぁ、ななこちゃんは俺専用ってコトでいい?他の奴は俺が頑張って治すからさ。」
悪戯っ子みたいに目をキラキラさせてこちらを見つめながら言う。
「…治せないけど、いいかな。」
頬の絆創膏にそっと触れると、仗助くんは嬉しそうに笑った。
「んじゃ決まりな!」
「あんまり怪我しないでね。…心配だから。」
「へーい。」
試合はまだ沢山あって、私は明日も仗助くんの隣にいられることがすごく嬉しかった。
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bkm