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甘い気分転換

浪人生夢主ちゃんが受験勉強がうまくいかず落ち込んでるところを甘やかす話




春からは花の大学生、のはずだった。
まさか自分が受験に失敗するなんて思ってもみなくて、今思い返しても悔しさが込み上げてくる。この青空、行楽日和に参考書を抱えて歩く自分が恨めしい。
挫折をバネに…と頑張ってはいるものの、なかなか上手くいかない。こんなんだから失敗したのかな、なんて考えてしまって悪循環なのは自分でもわかるけれど、だからと言ってたまには遊ぼうと切り替えることもできなくて。

そういえば、露伴はどうしてるかな。
「勉強するから」と言ったきり、もうかれこれ1ヶ月は連絡をしていないし、彼からも連絡は来ない。
恋人と言ったってドライなもんだな。と、漫画のことしか考えていない男の顔を思い出す。会いたいけれど、もうどんな顔をして会えばいいのかわからない。

「人気漫画家でスランプなんて無縁の露伴に、私の気持ちがわかるわけない!」

そう叫んで出てきてしまったのが気にかかっているせいか勉強なんて全然捗らない。
図書館に向かっていたはずだったのに、露伴に謝りに行かなきゃと思いながら歩いていたせいか、いつの間にか彼の家の近くまで来てしまった。

「…何してるんだ君は。」

玄関先で後ろから声をかけられる。どうやら外出から帰ってきたところらしい。飛び上がるほど驚いて振り向くと、カメラとスケッチブックを持った露伴がいた。

「ひぇッ!!ろ、露伴…!」

「…まるで幽霊にでも会ったみたいだな。」

まぁ上がっていけよと促されて、私は謝るタイミングを逸したまま岸辺邸のソファに身体を沈める。相変わらず座り心地のいいソファが、少しばかり懐かしい。露伴は二人分の紅茶をテーブルに置くと、私の隣に腰を下ろした。

「…露伴、げ、元気?」

「…あぁ、君は随分と久しぶりじゃあないか。」

何も聞かずにそれだけ言った彼は、カップを手に取る。その仕草は私の知ったとおりの露伴で、なんだか少し安心した。

「…あの、…」

ごめんなさいとひとこと言えばいいだけなのに、どうして言葉が出ないのか。私はこんなに意地っ張りだったっけ、と思いながら紅茶のカップに唇を付けた。嗅ぎ慣れた柔らかな香りに満たされる。露伴の淹れてくれた紅茶には、砂糖なんて必要ない。

「…ななこ。」

「…はい。」

ぐい、と顔を寄せられて、慌ててカップを置く。ガチャリと音がしたけれど、露伴があまりにも近いからカップを見る余裕はない。

「…ななこ、」

もう一度、耳元で名前を呼ばれた。
なに、と返した声は思いの外掠れている。露伴の方を見れないでいると、彼は両手で私の頬を挟み込み、自分の方を向かせた。

「…シケた面してんなぁ、君は。」

言葉とは裏腹に、露伴は優しく私を抱き締めた。嗅ぎ慣れたインクの匂いが鼻腔をくすぐる。

「…ろは、ん…?」

「…心配させるなよ。」

ぎゅう、と力を込められて、五感が露伴で満たされていく。胸に押し付けられたまま、大きく息を吸い込む。

「…ごめん…」

やっと絞り出した言葉は、酷いことを言ってしまったことへの謝罪のつもりだったのだけれど、露伴は先ほどの言葉への返答と取ったらしい。

「…君は、少し考えすぎなんじゃあないのか。」

ガキが一丁前なつもりになったって仕方ないだろ、と彼は私の髪を撫でながら言った。言葉は悪いけれど、暗に露伴が大人で、彼をもっと頼れということなんだろう。
それが分かるくらいには、露伴と一緒にいるから。

「…ありがと、露伴。…心配してくれて。」

彼の整った顔を見上げながら言えば、露伴はムッとしたように眉を顰め、インクの匂いのする指先で私の鼻を摘み上げた。

「このぼくに心配掛けるなんて、何様のつもりなんだよ君は。」

「…んむっ…いひゃいよろはん!やぁ!」

鼻が赤くなるんじゃあないかってほど力を込められて、先程までのしんみりした気持ちは何処へやら、普段彼と言い合いする時みたいな返事を返してしまう。

「フン、相変わらずの間抜け面だなァ。」

彼は私が調子を取り戻したことに満足したのか、いつもの不遜さを取り戻し、「馬鹿にする相手がいないと張り合いがないんだよ」と言い放った。

「…さっきまで珍しく優しかったのに、露伴のばーか!」

ぷい、と顔を背けると、露伴は唇の端を意地悪く歪めながら私の顎を掴んで再びこちらを向かせた。

「…優しくして欲しいなら、そう言えよ。」

少しくらいなら、甘やかしてやってもいいぜ、の言葉は途中から私の唇に捻じ込まれた。

「…っんむ…ぅ…!」

薄い舌がまるで別の生き物のように蠢き、歯列をなぞる。慈しむように髪を撫でられて、ぞくりと背筋が震えた。

「…ろ、はん…」

「その惚けた顔の方が、シケた面よりよっぽどマシだ。」

露伴はそう言って、私の首筋に顔を埋めた。肩口に歯を立てられて、思わず息を呑む。

「…ッ、いたい…」

「勉強ばっかりしてるから、そんなシケた面になるんだろ。」

たまにはぼくに付き合えよ、と彼は柔らかなソファに私を押し倒した。暗にここで私を抱こうと言うのだろうか、と身構えたのだけれど、私の想像に反して露伴はまるで私を抱き枕にするかのようにぎゅうっと抱き締めただけだった。

「…ろはん?」

「…なんだよ。」

そっと髪を撫でられて、くすぐったさに身体を捩る。大きなソファと言えど、二人で寝転がるにはあまりに狭くて、露伴の下で少しばかりもがいただけだった。

「…あの、…しない…の…?」

おそるおそるそう問えば、彼は不敵に唇を歪め、何を?なんて意地悪く問い返した。
顔を赤くして唇を噛み、答えを返せない私を見て、露伴は喉の奥だけで笑う。

「久しぶりなんだ、もう少しくらいこのままでもいいだろ?」

帰るのなんていつだっていいんだから、と彼は続けた。それは暗に泊まっていけってことなんだろうか。

「でも、私…図書館に…」

「ぼくんちの前に来といてそれはないだろ。」

露伴は小さく溜息を吐くと、図書館と僕の家は逆じゃあないのか、と笑った。
その笑顔は普段のシニカルな笑みではなく、ふんわりと花が咲くような笑顔で、私は思わず彼に倣ってスケッチをしたくなった。



20160811



(…ろはん…スケッチ、教えて欲しい。)
(そりゃあいい気分転換になるんじゃあないか…でも一体なにを書くつもりなんだい?)


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm