「…君はさぁ、なんでぼくが好きなわけ?」
「…え、と、なんでですかね…?」
きっと彼女は恋に恋してるんだと思う。誰でも大人に憧れる時期があって、彼女はそれがたまたま「今」「ぼくに対して」なんだろう。
だから好きにさせておいたんだ。
自慢じゃあないが他人に全く気を使えないぼくを見ていたら、いずれ醒めるだろうと。
なのに、それなのに。
毎日毎日「好きです」と言われて、警戒も無く無防備に甘えられて。
冷たくしても気にしないどころか、そんなとこも好きです、なんて可愛らしく笑ってしまえるななこに。まさかこのぼくが。
胸はまだ膨らみかけだし、腰だって括れてない。けれどセーラー服のスカートから伸びる真っ直ぐな足は健康的で美しい。
年端もいかぬ少女にまさか自分がこんな感情を抱くとは。これは立派なロリコンってやつか。
「露伴先生、お仕事お疲れ様です。」
学校帰りにうちに来るのが最早彼女の日課になっている。今日は家庭科で作ったというクッキーを持ってきた。
「見て、先生みたいでしょ?」
どうやらGペンの形に作ったらしいクッキーは、少し焦げていていかにも手作りといった様子で。
「…コーヒー淹れてやるから、座って待ってろよ。」
台所に向かう足取りが軽いのは多分気のせいだ。そうに違いない。
「…美味しくできたと思うんですけど…」
ミルクと砂糖がたっぷり入ったコーヒーを前に、クッキーを齧っている。そんなに甘くて大丈夫なのかと思うが、彼女にはブラックコーヒーを飲むぼくの方が信じられないらしい。
「…まぁ、及第点だな。」
家庭科で作ったという割には、というか見た目の割に、味は良かった。見た目を差し引いて、合格ギリギリ。
「きゅうだいてん、ってことは、合格ですね!」
幸せそうに笑う彼女の唇は、リップでも塗ってあるのかそれともクッキーのバターのせいか、つやつやと光っていて目が離せない。
「…良く知ってるな。」
唇の端についたクッキーの屑を指で払ってやれば、頬を染めて幸せそうに目を閉じる。
うっかり口付けてしまいそうになって、慌てて手を離した。
「…ろはんせんせ、?」
「食べカスが付いてたぜ。」
「…キス…されるのかと思いました。」
恥ずかしげにそう言って、笑う。
あぁ、本当にキスしてしまいそうだ、なんて。
「せんせ、また明日ね。」
うちに来てもいいが、日が落ちる前に帰れ。…これが、ぼくがななことした約束。
毎日彼女は律儀に守って帰っていく。
年端もいかない彼女を欲望のままに汚していいのかという葛藤、むしろ誰も手をつけていない青い果実だからこそ美しいんじゃあないかという気持ちも相俟って、ぼくはどんどん雁字搦めになっている気がする。
今まで他人にこんな思いを抱いたことがなかったから、どうしていいか正直わからない。
年上の威厳ってやつを崩すわけにはいかない。そう、これは練習だ。必要なリアリティだ。欲望を解消すれば、彼女を見る目も変わるかもしれない。そう自分に言い訳を重ねて、ぼくは風俗店の扉をくぐった。
充てがわれた女性は随分と派手に化粧をしていた。今から肌を重ねるというのに、リアリティのない話だ。
彼女は豊満な胸を見せつけるようにして、よろしくね、と笑った。
*****
結論から言おう。
彼女でなければダメだった。
燻る欲望はどうやら彼女に対してだけのものだったようで、女性らしい身体を目の前にしたって、そのテクニックがいくら上手くたって、心からスッキリ解消とはいかなかった。
これじゃあ唯のロリコンじゃないかぼくは。
「せーんせ、どうしたんですか?」
難しい顔になってますよ?と、ぼくを覗き込むななこを、うっかり押し倒しそうになる。
軽くトン、と力を込めるだけで彼女は簡単にひっくり返るだろうなんて、まるで殺人衝動みたいな。
「…なんでもないさ。」
そう言って、笑って立ち上がる…はずだった。
「きゃっ!何するんですかせんせ!」
ドサッという音がして、気付けばぼくは、倒れた彼女の横に手をついて覆い被さっていた。
彼女の制止の声が消える。
飲み込んでいたのはぼくの唇だった。
「…っん…!?」
驚いて逃げ惑う彼女の舌を絡め取る。
セーラー服の裾から手を差し入れれば、すべすべとした肌の感触。
「…ななこ。」
「…せんせ…、」
彼女が無言で瞳を閉じたのを肯定と取った僕は、彼女に覚えたての愛撫を披露した。
「…ッぁ、やだっ…そこ…」
胸の頂を口に含めば、悩ましげな声が上がる。「嫌だ」の言葉はこの場合意味をなさないと、知らなければ止めていただろうか。
「…やだ、って言ってる割に、気持ち良さそうだな。」
そっと舌で転がせば、びくりと跳ねる肢体。
捲れ上がったセーラー服が、僕の欲望を刺激する。
「せんせッ、それ、や…ぁ…」
「じゃあ、別の場所にしようか。」
ちゅ、と音を立てて唇を離して、足を開かせる。ばたばたと暴れたのは一瞬で、ぼくの手がそこに触れると、ななこは「ひっ、」と短く啼いた。
「…やだっ、せんせ、怖い…」
「…怖い…?」
言われて思い至る。そうだ彼女はまだ子どもじゃあないか。
青い果実を無理矢理に収穫してしまう、罪悪感にも背徳感にも似た感情。
しかしそれは今のぼくには抑止ではなく、ただ悪戯に興奮を煽るだけのものだった。
「…せんせぇ…」
泣きそうな顔、白い肌、セーラー服。
こんなリアリティがあったのか。
「…ぼくも、君を壊してしまいそうで、怖い。」
ゆっくりと指を差し込む。濡れている筈なのに、キツい。
昨日の彼女はもっと柔らかく蕩けるようだったのに。
「…っく…ぅ、…せんせ…」
異物感か痛みか、彼女は顔を顰めてぼくにしがみつく。呼吸は浅く短く、目尻には涙が滲んで。
「…ななこ、…」
あまりの可愛さに理性を失ったぼくは、半ば無理矢理に彼女の中に押し入った。
「っあ、やだっ!せんせえ!痛いよ…」
「…大丈夫だから。」
何が大丈夫だ、と思考の奥で止める自分がいるが、そんなんじゃもう止められなかった。
「…っん、や、あっ、」
ななこの瞳はきつく閉じられて、背中には爪が立てられて。それでもぼくは自分の欲望を解き放つべく腰を振った。
「…ななこっ、ななこ…好きだ…」
「…ッせんせ、…私も、ッすき…」
その言葉を聞いて、ぼくは果てた。ぎゅうっと彼女を抱き締めながら、びくびくと中に欲望を吐き出す。
「…っは…」
冷静になった頭が、これはマズイと告げる。
そんなことは分かっている。
彼女は痛がって泣いていただけで、結局ぼくが一人で愉しんだだけじゃあないのかと。
「…ろは…せ、んせ…」
未だ涙の浮かぶ瞳をこちらに向け、ななこはぼくを呼ぶ。
「…ななこ……」
なんと言えばいいのかわからない。なにせぼくはこんな状況になったことがないのだから。
静寂を破ったのは、意外にも彼女の方だった。
「…せんせ、ごめんね…私、初めて…で…」
いや言っている意味がわからない。
むしろこの場合謝るのはどう考えてもぼくだろう。泣きそうな彼女を慌てて抱き締め、髪を撫でる。
「ぼくこそ…その、抑えられなくて…」
「…気持ち…よかった、ですか…」
俯きながら恥ずかしそうに小さく問う。
女とは違って、こんなにも分かりやすい生き物だというのに。
「…あぁ、もちろん。」
見るからに痛そうだった彼女に「君は」と問えるほどぼくは無神経じゃあない。
彼女は、ぼくの答えに満足したのか、幸せそうに笑った。
「…よかった。私も、すごく幸せでした…」
抱き着いてくる彼女に胸を打たれ、せめてもの償いと精一杯の愛情を込めて、口付けた。