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着信履歴の先頭に

「露伴先生ー、こんにちはー。」

「また来たのか。君も大概ヒマ人だな。」

ななこがいつもの通りに遊びに来た。ぼくも相変わらずの悪態を吐きながら玄関まで出迎える。普段通りのやりとり。
けれど今日は、いつもの悪態を吐く度に喉が痛い。掠れた声がななこにばれないように、大袈裟に咳払いをした。

「お邪魔します。…お仕事中だった?」

「いや、今週の分はさっき終わった。」

来る途中のパティスリーで買ったであろうフルーツゼリーを渡される。気がきくじゃあないか、まるで以心伝心。喉が痛くて食事をする気になれなかったのだけれど、これなら食べられそうだ。なんて少々馬鹿げたことを思いながら受け取ってキッチンへ向かう。保冷剤が入っていたら、あとでこの熱い額を冷やそう。

「…先生って、いつも仕事早いですよね。」

感心したようにななこが言う。
君が毎週決まった曜日に来るもんだから、それまでに終わらせるスケジュールが自然と習慣化したことを知らないのだろう。教えてやらないけど。

「君はぼくを誰だと思ってるんだ。」

「…そりゃあ天下の岸辺露伴先生だと思ってますよ。」

そう言って笑うななこ。
いつもならその唇にキスしてやるところだが、今日は風邪が移ってもいけないのでやめておく。
分かればいいんだよ、と呟いてソファに身体を下ろすが、自分が思っているより具合が良くないようで、力のうまく入らない身体は思いの外深くソファに沈んだ。

「…ねえ先生、コーヒー飲む?」

「紅茶がいい。あと君が買ってきたゼリーも。」

立ち上がったななこの背中に言葉を投げると、はぁいと気の抜けた返事が届く。
そこからは会話もなくカチャカチャと食器の音が響く。勝手知ったるなんとやらで、彼女は戸棚からぼくのお気に入りのカップを出していることだろう。

「…せんせ、できたよ。」

しばらくして、紅茶のいい香りと共にななこが戻ってくる。

「…ありがとう。」

温かなカップを受け取ると、ななこはぼくの顔をじいっと見つめて、心配そうにしている。

気にしないようにしてそっとカップに唇を寄せた。

「…先生、もしかして風邪?」

心配そうに、少し控え目なトーンで、ななこが問いかける。
突然図星を指され上手い返答が思い浮かばない。一瞬怯んだぼくは数回瞬きをして気持ちを立て直し、努めていつものようにフンと鼻を鳴らした。

「ぼくがそんなものひく訳ないだろ。」

語気を強めたはずの言葉は、自分でも分かるほど力無い。ななこはやっぱりそれに気付いているらしく、ソファに埋もれるぼくの額にそっと手を当てた。

「そんなこと言ったって…せんせ、熱いよ…?」

「うるさい離れろよ!もう帰れ。」

ぱしりと彼女の手を叩き落す。
ななこは少しだけ驚いて、それから小さく苦笑しながらぼくの髪をそっと撫でた。

「それじゃ、お茶飲んだら帰るね。」

そう言って、ぼくの向かいに座る。
本当に帰ってしまうんだろうか、なんて少し弱気な考えが頭をよぎる。
彼女は普段通りに紅茶を飲むと、キッチンに食器を片付けに行った。
洗ってくれているのか、なにやらカチャカチャと音が聞こえる。

彼女はそのままキッチンを出て行く。
振り向く気にもならず、手元のゼリーを口に運ぶ。
痛む喉をするりと滑り落ちるオレンジの香り。ほんのりとした甘さと冷たさが心地いい。

全部食べ終える頃ななこはリビングに戻ってきて、ぼくの前にある空の容器とカップを片付けてくれた。

「…じゃあせんせ、また来るね。」

彼女はそう言うと、あっさりとリビングを後にした。

行くなよと唇に乗せようとした言葉は、痛む喉に引っかかって出てこない。
そうしているうちに、彼女の足音は遠ざかって、消えた。

帰れと言ったのはぼくだが、なにも本当に帰ることないだろ。自分で食べたくて買ってきたゼリーも食べずに。一体なにしに来たんだよ。

心の中で延々と彼女に愚痴るが、届くはずもなく。

寂しいなんてどうかしている、頬がこんなに熱いのに、身体が寒いなんて。君に抱きしめて、温めて欲しいなんて。

「…ああもう、寝よう。」

どうやら本格的に風邪を引いたらしいとベッドに向かう。
寝室に入ると、ふと見慣れぬ光景に気付いた。
サイドテーブルの上にはペットボトルの水と風邪薬。それと小さなメモ。

『しんどかったら、いつでも呼んでください。 ななこ』

ああ顔が熱い。今絶対熱が上がった。
君のせいだからと、責任を取って看病してもらおうか。
その前に、勝手に寝室に入るなと咎めなければ。

回らない頭で必死に呼び出す言い訳を考えながら、携帯の中に君の名前を探した。


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm