MY DEAR


「…っあ゙〜〜〜!!!」
「うっわ!!吃驚したー」

私がいきなり奇声を発して机に突っ伏すと、隣のレイちゃんが持ってた雑誌を取り落とした。

「何行きなり。どしたの」
「スケジュール帳見るたびにうんざりするわ。学校行って、新番組のオープニングに、ドラマのBGM、4人の曲も作らなきゃだし、七海ちゃんの指導も…。死ぬ。あたし死ぬ。明日死ぬ。今日死ぬ。今死ぬ」

あたしはシャイニング事務所所属の作曲家だけど、都内某所の公立高校に通ってる。
まああんまり行けたもんじゃないけど、忙しくて。

「うっわ気持ち悪っ!!作曲家なのにアイドルの僕ら並みの手帳の気持ち悪さ!!いや、僕ら以上?!」
「「うるさいよレイジ(レイちゃん)」」
「そこ!!冷たくハモるのやめて!!」

思わず放った言葉がアイちゃんと被る。
アイちゃんは純粋にうるさいと思ったのだろう。

「でもひかる、本当に多忙みたいだね」

アイちゃんがレイちゃんの手元を覗き込み言う。

「体が何個あっても足りない…。猫の手も借りたい。…いっそロドリゲスでも…」
「危ない!!それは危ないよ、ひかるちゃん!!」

ロドリゲスはシャイニングが飼ってる動物アイドルのライオン。
頭いいから猫よりは使えそうだとかぼんやり考えてた。

「ふむ…この日とこの日なら僕も手伝える」
「ほんと?!助かる!!アイちゃん大好き!!」

まさに救いの手!!
私は思わずアイちゃんに抱きついた。

「うわっ!!ちょ、ひかる!!」

丁度そのタイミングでミューちゃんとランちゃんが会議室に入ってきた。
あ、今日はQUARTET NIGHTの打ち合わせに来たんだった。
憂鬱過ぎて忘れてたよ。

「…なんだこの状況」
「貴様ら、そのような関係だったのか」
「違うよ!!ひかるがイキナリ…!!」
「あ、ごめんね。つい」

私はアイちゃんから離れてホールドアップ。
悪気はありませんでした。

「アホレイジみたいなことしてんじゃねーよ。寝てねぇのか」
「アホレイジって何?!酷くない?!」
「一緒にいればレイちゃんのアホも移りますって」
「ひかるちゃんまで!!」

レイちゃんがしくしくと声で泣く。

「まぁでも、寝てないっちゃ寝てないかも。ここ最近平均2、3時間だし。シンデレラタイムは寝るようにしてるんだけどねー」

忙しくて。
あはは〜と笑うと、笑い事じゃないよとアイちゃんにパコンと叩かれた。

「それより打ち合わせだよ!!みんなのこの後の予定は??」
「ない」
「この打ち合わせで終わりだ」
「同じく」
「僕もだよー!!」

そっか、じゃあゆっくり打ち合わせができるねーって言ったら
早く帰りたいしさっさと終わらせるよ、とアイちゃんにばっさり言われてしまった。
…久しぶりにみんなで集まれたのにー。

「で??次の曲どーすんのよ」
「どーすんのよっつったって、お前が曲作んだろうが」
「丸投げすんなし!!イメージどうすんのか聞いてんだろが」
「言葉が悪いよ、ひかる。ランマルのが移ったんじゃないの」
「はっ、愚民共が」
「あ、後輩ちゃん」

レイちゃんの声で入口に七海ちゃんがいることに気付いた。

「あ、ほんとだ。七海ちゃんだ」
「どうしたのー??もしかして…レイちゃんに会いたかったとかー!!??」

そんな馬鹿を言うレイちゃんを押しのけて七海ちゃんに笑いかける。

「どしたの??」
「ねぇー…本当僕の扱い酷くないー…??」
「うるさい、黙れ、騒ぐな。七海ちゃんがしゃべるんだから」
「…はいすみません」

もうどっちが年上かわからない。
…私が悪いんだけど。

「あ、あの…星名先輩がいらしてるとお聞きしたので少しアドバイスをいただければと思ったのですが…」
「あー、先輩とかいいてば。私のが年下じゃん。ひかるって呼んで!!ひかるって!!」
「え…あの…ひかる…さん??」
「うん!!」

どこを見ればいいかな、と七海ちゃんの手元を覗き込むと、
この前見たのとはまた違う譜面も一緒にあった。

「また曲作ったの?!仕事早いなー…見習わなきゃ」
「そんな…」

ひかるさんのほうが、と七海ちゃんが謙遜する。

「あ、ここ…レイちゃん!!私のキーボード!!」
「出したよ」
「ナイス。七海ちゃん、ここの和音こっちのがよくない??」

私が三音の和音の一音を半音下げて引くと、七海ちゃんはそうですねと楽譜に書き加える。

「それにしても…寿先輩とひかるさんは本当に息がぴったりですね」
「え、そう??」
「でしょでしょ?!僕ちんひかるちゃんのことならなーんでもわかっちゃうんだからー」
「さっきもひかるさんが言う前に準備をしていらして…すごかったです」
「あー…まぁ、付き合いだけは一番長いしね」
「だけってナニ?!ひかるちゃん、だけって!!」

あー、聞かザル聞かザル。
私は両耳をぽすんとふさぐ。

「私が活動始めてからずっと担当してるのがレイちゃんだからー…5年??」
「5年…え!!ひかるさん10歳から作曲家なんですか?!」
「え、うん。私それまでは英才教育受けてたから。あぁ、私一応大手企業の社長令嬢なの」

まさかの発言に七海ちゃん吃驚。

「本当は作曲家になるつもりはなかったんだよねー。親が許してくれるとも思ってなかったし」
「え?!そうなの?!僕そんなの初めて聞いたよ!!」
「うん、言ってないもん」
「僕のデータにもないね。書き加えておく必要があるな」

アイちゃんが頭をとんとんと指でたたく。

「9歳のときに親のつながりでシャイニングに会った。それで連れてってもらったのがレイちゃんのライブだったんだよね。私生粋のお嬢様だったからアイドルのライブなんて行ったことないし、むしろアイドルを知らなかったし??衝撃だった」

世界にはこんなに輝く人がいるのかって。
初めてドキドキした。

「シャイニングにね、あの人を輝かせているのは何かって聞いたの。今思うとバカなこと聞いたよね。ライトとか衣装とかそういうのでキラキラしてるんだと思ってたし。でも、シャイニングは人だって言った。服を作る人、ライトを当てる人、応援する人、曲を作る人、そして何より本人が輝いてるんだって」

その言葉に感動して、作曲の勉強を始めた。
ピアノは習ってたから楽譜は読めたし、なんか才能もあったらしい。

「シャイニングの尽力で私は親を説き伏せて自由になった。中学も高校も自分で選んだし」

結構に漫画みたいな話でしょ、って笑ったら七海ちゃんは少し考えてから言った。

「では、ひかるさんが音楽を始めたきっかけは…寿先輩…??」
「まぁ、そうなるね」

レイちゃんは芸歴長いといわれるのを嫌うけど、
私はレイちゃんの芸歴が長くてよかったと思う。
だってこうしてみんなと一緒にいられるのはレイちゃんのおかげだから。

「レイちゃんが私を呼んでくれたんだよ」

私がそう言って笑うとレイちゃんは感極まったように抱きついてきた。

「ひかるちゃん!!どーしてもっと早くそーいうこと言ってくれないの!!」
「うーわー…呼んでくれたとか言っちゃったけどー…輝き半減してるかもなー…」
「それいう?!今そういうこと言っちゃう?!」

うーわー…暑っ苦しい…
言わなきゃよかったかな。
いや、まぁ、でもなぁ…

「いい、半減だろうがなんだろうがどんどん輝きは薄れればいい」
「えぇ?!それって…」
「それを輝かせるのが私たちだから」

私はレイちゃんの腕から抜け出して七海ちゃんに抱きつく。

「レイちゃんが、アイちゃんが、ランちゃんが、ミューちゃんが、自ら輝けないなら私が照らす。反射して輝けるように。そのために、私がいる」

そうでしょ??
七海ちゃんはST☆RISHを、私はQUARTET NIGHTを輝かせるライトだ。

「まー、レイちゃんもアイちゃんもランちゃんもミューちゃんも??一人で存分に輝けそうだけどー…」

すると七海ちゃんが慌てて私を抱き返す。

「そんなことありません!!ひかるさんが先輩方の輝きをさらに高めてるんです!!私、ひかるさんの曲好きです!!」
「そーだよ!!僕だってひかるちゃんの曲、大好きだよ!!」
「まぁ、少なからず歌いやすくはあるな」
「お前の魂からは熱いものを感じる。…俺は気に入ってるぜ」
「僕が作ったものとはまた違う雰囲気が出て面白いね。嫌いじゃないよ」

あぁ、本当に素敵な人たちだ。
本当に…

「そうだよね。みんなは自分で輝けても私はみんながいないと光を出せないんだもん。…みんながそう言ってくれるのが…いや、まぁ、アイちゃんもミューちゃんもかなり素直じゃないけど…そう言ってくれるのが一番だね」




打ち合わせしようか。
あなたたちを輝かせるために。


…MY DEAR

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