私はまだあなたに微笑まれることを望んでいる



※現パロ注意


チリンチリン…と涼しげな音を立てて風鈴が揺れる。
私の膝に頭を乗せて寝転がっている彼が私に向かって手を伸ばすのが見えて下を向くと、
私の頬に手を当てて笑うからその手に頬を寄せる。

「蛍、見に行かない?」
「蛍?」
「そう。前にさ、実習の帰りにいいところを見つけたんだ」
「二人で?」
「うん。みんなには内緒ね」

絶対うるさくなっちゃうから。
そう言って苦笑いするから、そうだねって私も苦笑い。
そんな時間がとても幸せだった。
好きだよって微笑む君が大好きだった。



でも永遠なんてないから。
そんなのはわかってたけど。
時代は無情に私たちを引き裂いて。
お互いの死に目に立ち会うこともできずに私たちは生を終えた。



巡り巡って世は平成と呼ばれる時代。
戦なんて物騒なことは終わりを告げて、
忍びも侍もいない平和な世の中。
平和じゃないのは私の頭の中だけだろう。

私は生まれたときから忍びだった自分の記憶を持ち合わせてた。
記憶を持っているからと言って赤子が何をできるわけでもなく、
周りの人に合わせてすくすくと成長して早17年。
電話とやらにも驚いたのに携帯電話なるとっても便利なものを持たされて、
南蛮の服よりももっと可愛いデザインの制服を着て、高校という寺子屋みたいなとこに通う毎日。

平和なのに。
戦なんてない、殺し合うことのない私の望んだ世の中なのに。
物足りないのはなんで?
そんなのきまってる。
伊作がいない。
留三郎も仙蔵もいない。
小平太のいけいけどんどんも、文次郎のギンギンも、長次の不気味な笑いも聞こえない。

この世界には何もなかった。
そう、私の人生最大の奇跡が起きるまでは。




「善法寺伊作です。聞いているかもしれないけど留三郎とは同僚なんだ。よろしくね」

髪は短いし、着ているのはサラリーマンが着るようなスーツだけれど。
あのときの伊作が、あのときの笑顔のままそこにいた。



私の人生最大の奇跡は通学で使っている駅で留三郎と偶然出会えたこと。
そして、その留三郎が小平太や仙蔵など六年生が全員この時代にいると教えてくれたこと。
さらにはそのほとんどが記憶を持っているということ。
でも、神様は最後の最後に私を無情にも突き放した。

《…伊作は忍びだった時のことを覚えてないんだ》

そう言われた時、私は一体どんな顔をしてただろう。
留三郎が困ったように眉を下げてごめんな、と私の頭を撫でたからきっと酷い顔をしてたのだろう。
なんで留三郎が謝るの。
そう言いたかったのに口から出てきたのは小さな嗚咽ばかりだった。



そして今、目の前に伊作がいる。
覚えてなくてもいいから会いたいと留三郎にお願いした。
できたら他のみんなにもと言ったら全員を集めて飲み会を開いてくれた。
どこまでいい人なんだろう、留三郎ってば。

再開したみんなは私なんかよりもずっと大人で、年を聞いたらみんなとっくに成人して就職していると言った。
みんなが懐かしいなと笑いあってる中、伊作だけは私に自己紹介をして笑いかけた。
伊作の中で私は知らない人。
その事実を留三郎の言葉だけでなく現実として突きつけられて胸が刺されたようにじくじくと痛んだ。

「はじめ、まして。星名ひかるです。留三郎やみんなとは…昔、縁があって」

本当はあなたとも、もっともっと強い繋がりがあったはずなんです。
そう言ってしまいたいのを懸命にこらえた。

「へぇ〜、ひかるちゃんかぁ…。いい名前だね、君の印象にぴったり」
《ひかるちゃんって言うのかぁ。君にぴったりの名前だね、僕好きだなぁ》

昔初めて出会ったときと同じ笑顔で、同じ仕草で、同じような言葉を言う。
同じなのに、全部同じなのに違うだなんて。
…あの頃の伊作じゃないだなんて。
そんな残酷なことはあるだろうか。

「ありがとう、ございます」

私は今、笑えてるだろうか。
周りのみんなは何とも言えないような表情で私たちを見ている。
留三郎は何も言わずに、再会した時のように私の頭を何度も撫でた。

困らせるつもりなんてないのに、
伊作には笑っててほしいのに、
私だって笑っていたいのに、
涙があふれて止まらなかった。




きっと、あの夏の二人だけの約束はもう果たされることはないのでしょう。
それでも、
君が私を覚えていないとしても、
私は君に会いたかったの。
君があの時の君じゃないとしても、私は



私はまだあなたに微笑まれることを望んでいる



ごめんなさい。
まだ、君のことが好きなんです。


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