その涙の意味を教えて


「ありがとう、ございます」

君の名前を聞いて、名前と印象がぴったりな子だと思った。
その考えはいつか誰かにも感じたような気がして、頭の中がチリッとした。
でも、ぴったりな名前だと思ったまま伝えたら、君は突然泣き出してしまった。
それを見て、留三郎が困ったように頭を撫でて、話しかけている。

「あの、仙蔵…僕なにかおかしなこと言っちゃったかな…?」
「…いや、お前は悪くない。あいつは…まぁ、わけありでな」

いつもスマートな仙蔵が苦い顔をして言葉を濁した。
…悪くは無いけど、やっぱり関係なくはないのかな…?

「悪い、こいつ家に送ってくわ。そんで今日は俺もそのまま帰るな。すまんな、俺が声かけたのに」
「細かいことは気にするな!私はひかるにまた会えて嬉しかったぞ!」
「もそ…また…集まればいい…」

結局、留三郎とひかるちゃんは何やら話したあと、帰ることになった。
それを聞いて、みんな口々に2人を送り出す。
帰る前に、泣き止んだひかるちゃんが申し訳なさそうに僕のところに来た。

「善法寺さん…」
「あっ…伊作でいいよ」
「…伊作さん…すみません、でした」
「ううん。僕の方こそなんだかごめんね」
「……すみません」

僕が謝ると、ひかるちゃんはもっと困ったような、苦しいような顔になってしまった。
…苦しめたいわけじゃないのに。
みんなと…留三郎と話してる時のようにただ、笑ってほしいのに。
僕の何かが君を苦しめる。
留三郎たちと笑っていたひかるちゃんを思い出して、何故か心がズキッと痛んだ。

「それで、その…」
「ん?」
「よ、よかったら…連絡先…教えていただけませんかっ!」
「へっ」

言うやいなや、ひかるちゃんはすごい勢いで頭を下げる。
震える手にはしっかりとスマートフォンが握られている。
そのスマートフォンは渋い緑色のカバーで、少し意外だななんて考えてしまった。

「…普段僕はとても不運なんだ。そんな僕が、こんな可愛い子と連絡先を交換できるなんて、今日は珍しく幸運なのかな?」



<<僕、いつも不運なんだ。だから、今日は君と出会えてとっても幸運だね!>>



また、頭の中でチリッとする感覚が起きる。
そして、また、君は泣くのを堪えるように顔を歪めた。
この感覚と、君を苦しめるものは、関係してるのだろうか。

「…じゃあ、伊作さん。また、いつか」

連絡先を交換したら、ひかるちゃんはお礼を言って立ち上がる。
その姿にどこか懐かしい背中が重なった気がして、僕はその手を反射的に掴んだ。

「えっ」
「あ」
「お」

何故か、隣にいた仙蔵や文次郎も僕の奇行を見て声を上げた。

「ぼ、僕が送るよ!」
「…へ?」
「伊作、何言って…」

留三郎が目を丸くして、ぽかんとこちらを見ている。
あ、もしかして留三郎とひかるちゃんって付き合ってるのかな。仲良さげだったし。
そしたらこれは横恋慕だと思われちゃうかな?
そう思って、僕はパッとひかるちゃんの手を離した。

「ごめん!やっぱり何でもない」
「…お願いします」
「えっ」

僕が離した手を、今度はひかるちゃんに掴まれる。
そして、また、泣きそうな顔でひかるちゃんが僕に言った。

「私も、伊作さんと、お話したい…です」

いいでしょ、留三郎?とひかるちゃんは、僕の手を握ったまま留三郎を見た。
それを見て、留三郎はまだ呆気に取られつつも首を縦に振った。

「あ、ああ…お前がいいなら」
「昔から、1度言い出したらひかるは頑固だからなぁ!なはは!」
「もそっ…変わってない…」
「人間、死んでもそうそう性格は変わらんということだな」
「なぜ俺を見ていうんだ、仙蔵」
「最たる例だと思ってな。苦労性も目の下のクマも変わらん」

驚いたようにことの成り行きを見守っていたみんなが、一斉に話し出す。
そんな中、ひかるちゃんと留三郎が小声で話しているのがきこえてしまった。

『ひかる、ほんとにいいんだな?あいつは、”伊作”じゃないんだぞ』
『…わかってるよ、大丈夫』

僕は”伊作”じゃない…?
どういうことだろう。
また、頭の中がチリッとする。
そういえば、ひかるちゃんとみんなは随分と気の置けない仲のようだけど、高校生の彼女とみんなは一体どこで知り合ったのだろう。
たまに、みんなの話に出てくる『昔』っていつのことなんだろう。
みんなとは高校生の時からの付き合いで、もうかれこれ5年ほど経つ。
よく考えてみたら、みんな中学も小学校も違うのに昔からの知り合いのようだった。
僕の知らない時間が、みんなの言動に矛盾を作ってるのだろうか…?

「私は、約束を果たしたいの」

<<私…楽しみにしてる、のよ>>

誰かが頭の中で微笑んでる。
それが僕には誰なのか、わかってあげられない。

「蛍、見に行きませんか?」


笑っているのに、その目には涙が溢れていて。
その力ない笑顔が、頭の中の微笑みと重なった気がした。



その涙の意味を教えて


(僕は、君を知っていた…?)


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