あなたがいたから笑っていた、泣いていた、生きていたよ



チリンチリン…と涼しげな音を立てて風鈴が揺れる。
大好きな君の膝に頭を預けて寝転がって、僕は幸せに浸る。
見上げると少し赤く色づいた君の顔があって、思わず手を伸ばした。
君がこちらを向いて、僕が笑うと、君も笑って僕の手に頬を寄せてくれる。


「蛍、見に行かない?」
「蛍?」

そう言えば、と思いだしたことを口にすると君は突拍子のないことに君は少し驚いたように聞き返した。


「そう。前にさ、実習の帰りにいいところを見つけたんだ」
「二人で?」
「うん。みんなには内緒ね」


絶対うるさくなっちゃうから。
そう言って僕が苦笑いすると、そうだねって君も納得したように苦笑いになった。
それでもすぐに、楽しみだねぇと笑ってくれる君がたまらなく愛おしい

「好きだよ、ひかる」
「…私もよ」



でも、永遠なんてものは存在しない。
時代は僕たちを無情にも引き裂いた。





「大丈夫…??ひかる」
「伊作が手当てをしてくれたから、…大分マシになったよ」

世は戦乱。
ついに忍術学園を巻き込んだとてつもなく大きな戦が起きた。
下級生は強制的に帰郷。
上級生は覚悟のあるものだけ残って学園を守るようにと学園長先生からお達しがあった。
それでも残ったのは僕たち六年生と数人の四、五年生だけだった。
学園を守るために残った生徒は学年なども考慮されて、三つの組に分けられた。
僕たちは拠点となる忍術学園の守り及び怪我人の手当てをまかされていたけれど、そんな忍術学園に大勢の敵が攻め込んできて僕たちの組は霧散した。
おそらく捕まってしまった子たちもいるだろう。
そして今、ひかるは僕をかばって負った傷に顔をゆがめている。

「ごめん…僕のせいだ…僕がもっと…!!」
「何…言ってるの。伊作は私たちの要よ…。君に…もしものことがあったら…誰が手当てするの」
「それは…」
「大丈夫よ、私まだ動ける」

そう言って立ち上がったひかるは笑って見せるけど、顔は蒼白だった。
敵の刀に毒も塗ってあったせいだろう。

「とにかく…学園の様子を見に行かなくちゃね…。突然で驚いたけど…相手は侍…忍びの敵じゃないわ」
「でも…人数が多いし…。うう…みんな大丈夫かな」
「仙蔵は冷静だから大丈夫よ。…でも、喜八郎が捕まったのを見た」
「!!」

綾部は天才トラパーといわれるほどに罠を張るのが得意で、僕も何度も落とし穴に落ちたけど、接近戦は複数人でかかられたら手に負えない。
そのことも考えて連れて逃げるべきだった。
自分とひかるに気を取られてそれどころじゃなかった。

「大丈夫。すぐに殺されたりしない。まだ子どもで、しかも優秀な忍びのたまごよ?上手くやったら将来使えるもの」

表情の曇った僕を見て、ひかるが安心させるように僕の手を握ってくれた。
でもそのわずかな動きでも傷が痛んだようで、横腹を押えてしゃがみこんでしまう。

「大丈夫?!」
「大丈夫…だって。動くとまだ少し痛いだけ」
「でも…っ」
「…蛍…見に連れて行ってくれる、んでしょう?私…楽しみにしてる、のよ」
「!!」

そう言った君は僕の大好きな笑顔で、大丈夫よと言った。
僕の手を握っている手は震えてた。
顔は今までにないくらい血の気がなく蒼白で、傷口はまだ全然ふさがっちゃいない。
なのに君は僕に大丈夫だと笑ってくれた。
その声で、言葉で、表情で、僕は腹をくくれた。

「わかった。…僕が先に行くよ」
「…それは…っ」
「手負いの君がちゃんとついてこられるくらいには削るよ。…一緒に、生きるんだ。約束、したもんね」

そう言って僕が笑うと、君も安心したように微笑んだ。
気持ちだけはいついかなる時も強く持てと、
不運で落ち込んでいた僕に留三郎がよく言ってくれてたっけ。
きっと、僕も君ももう五体満足で再び相見えることはできないだろうことはわかってる。
でも、せめて希望だけは持っていくよ。

「僕は…君がいたから毎日笑っていた。君がいたからどんな時でも素直に泣くことができた。…君がいたから生きて、いたよ」
「…うん。私も、伊作がいたから頑張れた。…ありがとう、大好き」
「僕も好きだよ、ひかる」

君の体をしっかりと抱きしめて、その感触を、体温を、においを、しっかりと記憶に焼きつける。

「…また後でね」
「ええ、必ず行くわ。…また、ね」

再び会えることを願って、僕は振り返ることなく夜の闇へ飛び出した。




あなたがいたから笑っていた、
泣いていた、
生きていたよ。


(必ず、また会おう)
(たとえそれがこの世でないとしても)



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