優しさを教えてくれたのは


"お前は私が作ったのだから私の言うとおりに動け"


『自分』という意識を持ったときに初めて見た人に初めて言われたのがその言葉だった。
"私"は誰かの写身で、その本体のためにある力が必要なのだといいきかせられた。
それを手に入れるために、他の4人とともに旅に出ろとだけ指示を受けて侑子さんのところへ飛ばされた。

そこであなたと出会った。





「ファイ!!」

モコナの声がして、確認する前に体が動いた。
自分の攻撃系魔法では弾ききれなくて、ファイを思いっきり突き飛ばした。
痛い、という感覚はよくわからないけど、体に穴があいて血が噴き出した。
あぁ…これが死ぬってことなのかな。

「ひかるちゃん!!」
「ひかる!!」

崩れだす私の体を見て、黒鋼とモコナが驚いた顔をする。
小狼は申し訳なさそうに顔をゆがめてたから、きっと知ってたんだろう。
私が創りものだって。
そして私を創った人…
飛王は自分の目的の邪魔をした私を忌々しげに見ている。

「なぜ私の創ったものはどれもこれも私の邪魔をする!!写身ごときが…っ!!」
「創られたものだからこそ、できることはあるもの」

本物の生きた人間ではない私だからこそ、生きているみんなを守ることができる。
必死に私の時を留めようと術を施してくれているファイにそういうと、
ファイは悔しそうに顔を歪めた。

「写身だとか…そういうのは関係ない!!ひかるちゃんも…小狼くんもサクラちゃんも!!確かに俺たちと生きていたんだから!!」

…そういってもらえるのが何よりも嬉しい。
私は生まれたときから人ではないことを知っていたから。

「本当に…あなたは優しいね、ファイ」
「そんなこと…っ」
「私のことも、知ってたでしょ?…最初から全部」

私が日本国で自分の話をした時、
自分が写身であることは言わなかった。
もしも私が小狼のように自我をなくす写身だったなら、
きっとみんなに迷惑がかかる。みんなを苦しめた。
でも、ファイは何も言わなかった。
私が、写身ではなく"ひかる"としてそこにいられるように。

「私を、信じてくれてありがとう。それだけで、私の世界は幸せだった」
「俺は優しくなんかない…だって、俺は…っ!!」
「ファイがなんといおうと、空っぽの私に優しさをくれたのはファイだった」

感情の乏しかった私に気持ちを注いでくれたのはファイだった。
術式を紡ぎ続けるファイの手を、ほとんど原形をとどめていない手で包む。

「写身とか関係ないっていってくれるなら、私は過去で返すよ。私は、私の見てきたファイを信じてる。
過去なんて関係ない。私に優しくしてくれた、今のあなたが好き」

私がそう言うと、ファイは驚いたように目を見開いて、
そして泣き出しそうに顔を歪めた。

「俺も…ひかるちゃんが好きだよ。…いつも、笑って一緒にいてくれたことに…救われてた。
俺は…今までずっと、俺たちと旅をしてきた君が…好きだ」

今にも泣いてしまいそうなファイの顔を、もう感覚があまり残ってない体で必死に手繰り寄せて、
私はその頬に最初で最後のキスをした。

「私を…ひかるじゃなくて…"私"として見てくれて、ありがとう…。
みんな…最後まで…一緒…にいられなくて…ごめん、なさい。…ど…うか…」

どうか、君たちの未来に幸多からんことを。
私はファイが覚えててくれる限り、そこに生き続けるから。
ファイが生きててくれるなら、それは終わりじゃないから。
ここで未来を終わらせないで。
飛王なんかに負けないって、信じてるよ。




優しさを教えてくれたのは


全部、君だった。



"君も魔術師なんだねー、俺も俺も"

"あ、やっと笑った。うん、可愛い"

"無理にとは言わないけど…ツラいなら教えて。…ね??"


…さよなら、
愛しい人。





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