この世で最後の恋をする


「星名ひかる」
「…はい」

今日は私たち『死んだ世界戦線』の卒業式だ。
まさか、この世界でも"卒業"ができるなんて思ってもみなかった。





「…え、卒業式?」
「そう。音無と天使…じゃなくて、立花の発案で、ゆりっぺが起きたらやろうって。どーよ」
「どーよって。私に拒否権はあるのか」
「ないっしょ、そりゃあ」
「なら聞くなし」

卒業式かぁ…。
きっと、それが終わったらみんなとお別れなんだろうな。
でも私は…
まだ卒業できない。




マーボー豆腐な校歌を歌って、音無くんの感動的な答辞を聞いて、
仰げば尊しを歌って…。
あっという間にプログラムは過ぎてって。
卒業生退場のとき。
直江くんは泣きながら、ゆりちゃんは笑って消えていった。
残されたのは私たち4人。

「じゃあ、私が行こうかな」
「俺が先でもいいぜ?」
「いい。日向くんに言いたいことあるし」
「そう?」

私はみんなよりも数歩前に出て、振り返る。
丁度3人の中間あたり。

「かなでちゃん。今までいっぱいいっぱいごめんなさい。同じ女の子なのに気付かずに攻撃してたなんて…」
「いいの。気にしてないわ」
「うん、ありがとう。最後は仲間になれてすっごく心強かったよ」

今までずっと敵だと思ってたのに、
仲間になったらすぐに仲良くなれた。
もっと早く気付けばよかった。

「音無くん。きみは本当に変わった人だったね。仲間になったのは最近なのに、昔からいたような…そんな安心感があるの。私たちをここまで導いてくれて本当にありがとう」
「いや…俺は何もしてないよ。ひかるや日向たちが手伝ってくれなかったらどうなってたかわからないし…」
「あはは、謙虚だなぁ」

君は私たちの恩人だ。
私たちを救ってくれてありがとう。
そして向き直る先は日向くん。
たくさんの思い出と感謝をくれた人。

「日向くん。私がこの世界に来た時、私を見つけてくれたのは日向くんだったよね」
「あぁ、あのときはまだ俺とゆりっぺしかいなかったんだよな。そのあと大山見つけて…」
「そうそう!!…あのときね、日向くんが見つけてくれたこと、今では本当に嬉しく思ってる。私、確かに死んだのに生きてる?みたいな感じだったし」

そう言って笑う日向くんはあの頃の、出会ったころのままで。
もう少し、
もう少しだけ…と思うのに時間は過ぎていってしまう。

「日向くん。私本当はね……まだ、卒業できない」
「え!?」
「嘘だろ!?なんでだよ!!」

私がそう言ったことで、音無くんもかなでちゃんも慌てた顔をする。
ごめんね。
みんなで卒業しようって言ったのに。

「お前何回聞いても心残りのこと言わないし、もう大丈夫なんだとばっかり…」
「あぁ、うん、ごめん。日向くんいっつも気にかけてくれてたよね。…ちゃんと話すよ。話すから、」


ちょっとだけ、聞いてくれる?


折角の卒業式。
本当は私もさっさと消えてしまうべきなのに。
それでもみんなはいつも優しく受け入れてくれる。

「聞くよ、聞くに決まってんだろ!?それで俺にできることがあるならなんでもするし!!音無や立花だって協力してくれる!!そうだろ?!」
「もちろんだ!!」
「ひかるを一人で残すなんてできないわ」

…本当は二度と思い出したくもない。
だけど、前にすすむには…
受け入れる勇気を。

「私は、お姉ちゃんの彼氏に殺された」

三人が目を見開く。
この世界の人たちはほとんど自殺や事故だから、
殺されたなんて人はあんまり聞いたことがない。
驚くのは当然か。

「お姉ちゃんの彼氏に一目惚れされて、ストーカーされて。挙句の果てに手に入らないなら殺してやる、だって」

怖くて、怖くて。
でも誰にも相談できなくて。
お姉ちゃんとの中が壊れてしまうのも嫌で。

「やっと解放されるんだって思ったのに、気づいたらここにいて。日向くんに顔をのぞきこまれてた」
「あぁ…あれ、な」
「どうした?」
「殴ったんだよ、起きぬけに思いっきり。すっごい叫び声あげて」

日向くんはすっごい苦い顔して笑ってる。
すみません。
あれは本当事故なんです。

「まだ視界がはっきりしてなくて、驚いたんだ。ごめんね」
「いや、いい。今となっちゃいい思い出だろ」
「…そうだね。それで、日向くんとゆりちゃんに出会ってこの世界のことを聞いた。その時は心残りとかよくわかんなかったんだけど…今はわかる」

私、幸せな恋がしたかった。
あんな風に終わった私の人生ではできなかったこと。

「私、日向くんが好きだよ」
「…え?」
「日向くんといると楽しいし、自然と笑顔になれる。…ちょっとおせっかいなとこも優しいとこも、意外と打たれ弱かったりするとこも、全部全部…大好き」

私がそういうと、日向くんは明らかに困った顔をした。
それをみて私は慌てて補足する。

「わかってるよ!!日向くんにはユイちゃんがいるもんね」
「…ごめん」
「謝らないでよ、わかってたもん。それに私、幸せな"恋愛"じゃなくて幸せな"恋"がしたかったんだから。両想いじゃなくていいの。日向くんのことを考えてるとき、想ってる時、私は幸せだった。だからもう十分!!」

でも、ちゃんと言っておかないと、前に進めないから。
また未練になってしまうから。
だから、君を困らせたいわけじゃないんだ。

「またどこかで会えたら仲良くしてね。結婚式には新郎新婦両人の友人として出席したいし。音無くんとかなでちゃんも」
「な…俺たちはそんな…」
「わかったわ」
「かっ…かなで!!」

あぁ、長くなってしまったね。
そろそろ、行こうか。
大きく息を吸って深呼吸。
さぁ、笑え。
最後は、せめて笑顔で。

「日向くん、私を見つけてくれてありがとう。いっぱい助けてもらったし、いっぱい守ってもらった。ありがとう。たくさんたくさんありがとう」

最後の恋が日向くんでよかった。
報われなくても幸せだった。


「初めて会ったときから、日向くんのことが好きでした」


…さよなら。




この世で最後の恋をする


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賑わう教室からサッと出ていく後ろ姿を見つけて、
私は急いで追いかける。

「ヒデキ!!」

声をかけるとビクッと立ち止まった。

「…ひかる…」
「ユイちゃんのとこ行くんでしょ?!この前ボール投げ入れたっていう」
「ワザとじゃねーよ」
「私も連れてって!!友達になりたい!!」

私がそういうと、秀樹はギョッとしたように目を見開いた。

「は!?なんでだよ、何言われるかわかったもんじゃない」
「いいでしょ!!かわいーい幼馴染のお願いが聞けないっての??」
「…自分でいうな」

最近、幼馴染の秀樹といる時間がとても幸せだと思う。

「ユイちゃん、可愛いんでしょ!?可愛いんだろーなー」
「いい子で静かにしてろよ?」
「なによ、人を子どもみたいに!!」
「子どもでしょーよ」


あぁ、幸せだ。




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