だからひとつ、約束をください


「ねぇ、ひかる。今日時間ある??」
「…通り沿いにできた新しいカフェね」
「はいはい。奢らせていただきますよ、お姫様」

そう言って彼は笑った。





彼、ミハエル・ブランは同じ学園及びS.M.Sスカル小隊に所属する仲間。
私とクランと彼で幼馴染でもある。
昔から彼は本気で人を好きになれないと言っていたけれど、
今はクランに特別な感情を持ち始めているらしい。
その話を聞いてあげてるのが私。


「まぁ、私から言わせてみれば?昔からミシェルはクランのほうが特別だったけどねー」
「えぇ、そんなことないだろ」
「あるある」

そう言って私はオーダーのときに置かれた水を飲む。
…そう、昔からミシェルは私たちに平等に見えてそうではなかった。
まぁ、クランがあんな性格だし、売り言葉に買い言葉でよく構ってたってのもあるけど。
私はそれがすっごく羨ましかったんだから。

「じゃあさ、例えばね。今、私とクランが同時にピンチだとして」
「シャレになんない例えだな」
「まぁまぁ。…ミシェルはどっちを助ける??」
「選べない」
「あはは。そこはクランって即答しようよ」

嘘、迷ってくれて嬉しいよ。

「素直じゃないなぁ」

ごめん。
素直じゃないのは私のほうだね。
どんな理由であれ、こうやって2人でいられることが何よりも嬉しいくらい、
ミシェルのことが好きなのに。

「例えがリアルすぎるんだよ。俺たちにはありうることだろ??」
「まぁねぇ」
「お待たせいたしました。カフェショコラとミルフィーユのセットの方」
「あ、はい!!」

そんなときに注文したものが届き、私は目を輝かせる。
ミシェルは甘そうだな…と顔をしかめてるけど。
想像以上!!見た目かわいすぎる!!
やっぱり新しい店って来てみるもんだよねー。

「ん、おいしー」
「それはよかった」

ミシェルもそういい、自分の頼んだ飲み物を飲んでいる。
…やっぱり、彼はなにをしててもかっこいいと思う。
学園内で人気があるのも肯ける。
そんなことを思ってたら、ミシェルが唐突に言った。

「やっぱり絵になるよな」
「はぇ?!」

思わず奇声が発せられて、慌てて黙る。
思ったことを口に出してしまっていたのだろうか。

「…なにが」
「お前が」
「は…煽てても何も出ないし」
「お前煽ててどうするんだよ」

イキナリのことで開いた口がふさがらない。
何を言い出すんだこのメガネは。

「うちの学園の一般生徒の中ではダントツで一番人気だと思うぜ?まぁ、芸能人様を入れたらわからないけど」
「あんたもね。月に何回、あんたと付き合ってるのかって聞かれると思ってんのよ。鬱陶しいわ」
「お互いさま。…でもまぁ、そうやって美味いもん食って笑顔になるとことか、人気があるのも肯ける」

…何だろう。
さっき私が思ってたこととすっごい同じこと思ってる。
こういうところは気が合うんだよな…。

「そういうの、クランに言ってあげればいいのに」
「マイクローンではただのちんちくりんだろ」
「…そういうこというから喧嘩になるんでしょうに」

私が呆れてそういうと、ミシェルもそうだなと苦笑いした。
そうして会話が途切れた時、聞こえてくるのは周りの雑音。
私の大嫌いな噂話たち。


『ねぇ、あのカップルやばくない?!』
『マジ美男美女!!ヤバいヤバい!!』
『やっぱあれカップルだよなー。俺あの子超タイプなんだけど』
『メアド聞いてみれば?』
『お前なんて相手にされねぇっての(笑)』


あぁ、気持ち悪い。
人の噂話って大嫌い。
どうしてあの人たちは…


そんなんでモヤモヤしてたら、フッと雑音が遮断された。
顔をあげると、両耳をミシェルに塞がれてた。
耳を塞いでいても聞こえるように、ミシェルが耳に口を寄せて話す。

「…このままキスでもしとく?」
「しないわ、馬鹿」

私がいつもの調子でそう返すと、ミシェルは安心したように笑って、
乗り出していた体を椅子へと戻した。

「ほんと、ひかるってああいうの嫌いなくせにスルーできないよなー。真面目っていうか、律儀っていうか」
「しょうがないでしょ。昔から耳はいいほうなの。…でも、まぁ、…ありがと」

私がぷぃっとそっぽ向きながらお礼を言うと、
ミシェルは苦笑いしながら"どういたしまして"と言った。
そんなミシェルを見て、私は今思ったことを聞いてみる。

「…ねぇ、ミシェル」
「ん?」
「私のどこが好き?」
「…なんだよ、その付き合いたてのカップルみたいな質問は」
「いいから」
「まぁ、割と全部好きだな。付き合ってて疲れない。…強いて言うなら、性格と頭がいいとこ」

俺の思ってることすぐ理解してくれるし助かる、と。
何気ない顔で私にとってとても嬉しいこと言ってるなんて、
本人は知らないんだろう。
…あぁ、やっぱり好きだ。
涙が出そうになるのをこらえて、椅子にもたれかかる振りをして空を見上げて涙が出てこないようにする。

「あーぁ。私もミシェルみたいな人に好きになってもらえないかなぁー…」
「なに、告白?」
「…ミシェルみたいに、私の外見以外を好きだって言ってくれる人がいたらなってハナシ。好きな人がいる人を好きになったりしないよ。ましてや相談相手なんてまっぴら」

そういうと私は、携帯端末を取りだす。
呼び出すのはあの子の名前。

「…あ、もしもしクラン?私、ひかる。今マイクローン??…あ、そう。通り沿いにできた新しいカフェあるじゃない?前に行きたいねーって話したやつ。そう!!そこに(ミシェルが)いるからおいでよ。(ミシェルが)奢るよ」

(括弧)の中は心の中で言っておく。
そんなこと知らないクランは二つ返事でOKをくれた。
あぁ、やっぱりクランかわいい。
電話を切ると、私は荷物をまとめて立ち上がった。

「ミシェル。私用事思い出したから。クランにそう言っておいて」
「…え?!あ、ちょっと?!」
「どんな形でもデートの機会を作ってあげたんだから。喧嘩しちゃだめだよ」

私がそう言って笑うと、ミシェルは私の考えを悟ったのか苦笑いになった。

「本当…お前には敵わない」
「褒め言葉として受け取っておく」

そういうと、私は自分が食べた分の料金を机に置く。
するとミシェルは不思議そうな顔をした。
…まぁ、奢りって話だったしそれもそうか。

「今からクラン来るのに私の分も払ってたらなんで?ってなるでしょ。言い訳できるの?」
「…それは…」
「私もここ来てみたかったし、美味しかったし、イーブンってとこかな。付き合ってくれてありがと」

私がそう言っても、ミシェルは不満そうな顔をする。
…もう、
心の広いこのひかるさんがいいって言ってあげているというのに。

「…なら一つ、約束して」
「なに?」
「ミシェルの相談役は私だけ。クランのこともそうじゃないことも。
アルトくんにもルカくんにも、ましてやランカちゃんやシェリルちゃんにも相談しないで。まず、私に話して」
「それはいいけど…それって何かひかるが得する事か?」
「うん、十分」
「なら…うん、わかった」
「約束ね。…やぶったら今までミシェルから聞いた話、全部クランに話すから」
「怖いな、その脅し」

私がにっこり笑ってそういうと、ミシェルも笑って小さくホールドアップした。
ちらりと時間を見ると、クランに電話してからもう10分程経過していた。
モタモタしているとクランが来てしまう。

「じゃあね」

私がそう言ってカフェを立ち去ろうとした時、ミシェルが私の腕を掴んだ。

「…なに?カフェ代の話ならさっき…」
「俺がもしクランを好きにならなかったら、ひかるは俺を好きだった?」
「は?」
「さっき、告白かどうかっての。否定しなかっただろ?だから、俺に好きな人がいなければどうなのかって」

一瞬こいつはなにを言っているんだと思った。
ミシェルがクランを好きじゃなかったら?そんなわけない。
現に今…。
そこまで考えて、私はミシェルの言葉の本当の意味を理解した。
前後の言葉はただ濁しているだけで、
ミシェルは"自分のことを好きなのか"と問うてるんだ。
あぁ、こういう時ばかりは自分の理解力を多少恨む。

「…さぁ、どうだろうね」
「ごまかすなよ、ひかる」
「ミシェルがクランにフられて、本当にそうなったらその時考えるよ」

流石のミシェルもその言葉に苦虫を潰したような顔をした。
大丈夫。
君たちはどう考えても両思いだ。
ただ、二人とも素直じゃないだけ。
そうじゃなきゃこんなこと言わない。
だって私、ミシェルと同じくらい


クランも大好きなんだもん。


だからこそ、こんなに苦しいんだもん。

「用はそれだけ?クラン来ちゃうから帰るよ」
「あぁ…うん、そうだな」
「また誘って。話くらいならいくらでも聞いてあげるから」
「…ありがとう」

ミシェルの手が離れると、私は振り向かずに歩きだした。



ミシェル、君の言った言葉をそのまま返すよ。
君も頭がいいから、私の思ってることなんて言葉の節々からわかってしまうんだね。
それを君は好きだと言ってくれたけど、私は嫌い。
君には隠し事ができないじゃない。
…全部、気づかれちゃうじゃない。


好きだよ、ミシェル。
でも、フリでもいいから気づかないでいて。
君を…君たちを苦しめたいわけじゃないんだ。
ずっと、隠しておくって決めたんだから。





だからひとつ、約束をください。


("特別"じゃなくていいから、)
(ただ君の"唯一"になりたかったんだ)



末娘は気取り屋】様へ提出。

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