…嘘だよ、大好き。


「蜻様なんて…大っ嫌い!!」

今日も今日とて、蜻様と喧嘩なうです。


「本当に…君たちはいつ見ても喧嘩をしている気がするのだが」
「…ですよねー…わかってる」

蜻様こと、青鬼院蜻蛉は旅行好きでいつもどこかしらに旅立ってる。
…寂しがりだからすぐに帰ってくるけど。
その帰って来ている間の短い期間でいつも私たちは喧嘩してる。
ちなみに私の幼馴染で…その…彼氏さん。

「今日はどうして怒ってるの…??」

カルタちゃんが蜻様のお土産を食べながら聞いてくる。
今回のお土産は辛子明太子。
…どこまで行ってんだあの人…。

「…あのね」
「うん」
「誕生日」
「は」
「この前、蜻様の誕生日だったの」
「…へぇ」

ちよちゃんが微妙な顔してる。
どうでもいいって顔だ。
カルタちゃんもキョトンとしてる。

「前に帰ってきたときに、その日には絶対帰ってくるように頼んだんだけど…」

奴は見事に帰ってこなかった。
張り切って料理用意したりプレゼント用意した私がばかみたい。
それなのに蜻様の第一声は、

"言われた日に帰ってこない私!ドS!"

だとか。

「ふざけんなし!"ドS!"じゃねーし!」
「…奴らしいと言えば奴らしいが…」
「ひかるちゃん…可哀想」

カルタちゃんが机に突っ伏した私の頭を撫でてくれる。
あぁ…優しい。

「星名さん」
「…なに、ミケくん」
「失礼ながら、蜻蛉さまはご自分の誕生日をお忘れなのでは」
「だろうね」

わかってる。
あの人は昔からそういう人だったよね。
でもさ、私は…
私は大切だったんだもん。

「…あー駄目だ。思考が悪い方にしか行かない」
「そういう時はお出かけだよ☆」
「は」

いきなり目の前に現れた夏くんにびっくり。
思わず間抜けな声が出た。

「今ど…」
「ボクとデートしようよ☆」
「いや、人のはなし聞こうy」
「善は急げだよ☆ほら早く〜」

そうして私は唐突に夏くんに拉致られてしまった。



「ほらひかるたん、あーん」
「…なにゆえ」
「いいから☆ほら美味しいよ〜」
「…ハァ」

一つため息をついて私は夏くんのさし出すケーキを食べた。

「ん、おいひい」
「でしょー?!ここの評判いいんだって☆」
「ふーん」
「ねー、ひかるたんは本当に蜻たんが好きなんだね」
「…なっ?!」

夏くんが唐突にそんなぶっ飛んだこと言うから私は思わず立ち上がってしまった。
周りから注目されて、とりあえず着席。

「いきなり何言うわけ??」
「だってボク見えるし」
「………。」

そういってスコープッ☆とか目の前で指を丸くして当ててる。
前にはサーチライトッ☆と言ってやしなかったか、夏目さんや。

「…人の心勝手に覗くなし」
「いやだなぁー、勝手にそっちから入ってくるんじゃない。蜻たんが大好きーって」
「だ、大好きとまでは思ってない!」
「ほぅ、ツンデレか!悦いぞ悦いぞー!」
「は」
「え」

どこから現れたこの変態。
流石の夏くんも予期していなかったのか目を丸くしている。

「蜻たん何時からいたのー?」
「つい先程!と言いつつ最初からいたドS!」
「マジか?!」

うわ、最悪…。
一番聞かれたくない人に最初から全部聞かれてたとか。
いたたまれなくなって視線をそらすけど蜻様は私の目線の先に移動してニヤリと笑う。

「私の恋人殿は私が大好きで仕方がないらしいな!」
「そこまで言ってないよ!!」

私がプイッとそっぽを向くと、蜻様はまた悦いぞーと言ってる。
その態度にだんだん腹が立ってきた。

ダンッ

「何がいいわけ!?」
「あ、キレた」

私が机を叩いて大声で怒鳴ると、夏くんはそそくさと視界の隅へ退散する。
自由だな、フリーダムだよ。
こんな状況作っといて逃げるとか。

「あぁ好きだよ!柄にもなく張り切って、朝嫌いだけど早起きして!料理とかケーキとか作ってる間にもいつ帰ってくるかなって時計ばっか気にして!馬鹿みたい!帰ってこないじゃん!ずっと待ってたのに!これじゃあ!これじゃあ…私ばっか蜻様のこと好きみたいじゃん…」

思わず涙がこぼれて慌てて拭う。
拭っても拭っても涙が止まらなくて、目から袖が離せない。

「…蜻様なんて…大嫌い…」

守れないなら約束なんてしないで。
そしたら私も期待しないのに。
約束破られるのが一番嫌い。
一番…辛い。
すると、少し高いところから蜻様のため息が聞こえる。

「約束したことを守らなかったことは私も悪いと思っている」
「嘘」
「…思い始めた」
「……。」

私がジト目で見ると、蜻様は笑ったまま気にしてない様子。
まぁ、思ってくれてるだけマシか。

「だが、貴様も今日がなんの日か忘れたわけではあるまい!」
「昭和の日」
「………」

蜻様と視界の隅の夏くんがズルッとコケる。

「ひかるたんー…それはないよー…」
「え、間違ってる?」
「いや、うん…あってるけどー…」
「フハハハハ!だから貴様は面白いのだ!」

蜻様、爆笑。
いや、一人で笑ってることを爆笑とは言わないけど。
うん、爆発するように笑ってるから爆笑。

「今日はね、ひかるたん…」
「今日は私たちと貴様が出会った日ではないか!」
「それに、キミの誕生日〜☆」
「あ」

そうか。
そうだよ。
蜻様の誕生日のことばっか考えてて忘れてた。
私の、
私たちの大切な日だ。

「流石の私も忘れはしなかったぞ」
「…そのために、帰ってきたの…??」
「それはたまたまだ!」
「違うのか」

私は日にちなど気にせず旅をしているのだ!と蜻様は高笑い。
流石の私も忘れはしているじゃないか。
私は力尽きたようにカフェの机に突っ伏した。
もう駄目だ。
いや、もうじゃなくて最初からだな。
蜻様と私とでは話の次元が違う気がする。
私が深いため息をつくと、目の前にバッと何かが差し出された。
視界が真っ赤になる。

「…薔薇?」
「ひかるのために用意したのだ。慄くがいい!」

薔薇の花束を差し出して蜻様はニヤニヤしてる。

「なぜ薔薇」
「前に貴様が読んでいた漫画でこのようなことをやっていたからな!」
「いや…恥ずかしくない?」
「羞恥プレイかっ!?悦いぞ悦いぞー!」
「……」

夏くんに促されて花束を受け取る。
どんな顔していいかわからなくて手元の花束を見てたら頭に蜻様の手が乗った。

「何やら勘違いをしているようだが、私はひかるのことをちゃんと愛している」
「あっ…?!」

愛してるとかイキナリ言われて、驚いて顔をあげると思いのほか優しい顔した蜻様がいた。

「…それでも私が嫌いか?」
「……嫌い」

私がそういうと、蜻様はそうかと少し寂しそうな顔した。
…そんな顔しないでよ。





「…嘘だよ、大好き」


(でも次約束破ったら殺す)
(フハハハハ!やはりツンデレか!悦いぞ悦いぞー!)

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