メモ記



「天国へようこそ」



・話の立ち位置
「不在の探偵」は時間軸が信用ならない話群、と言いつつこの話は明確に「地獄でなぜ悪い」の後の話です。味覚に対する嗅覚だったり、怪人と少年の関係だったりその他いろいろを、前の話の対になるように配置しています。

・「暗黒街の女王」
固有名詞こそ出ていませんが、モチーフとして書かれているのは乱歩通俗小説『黒蜥蜴』における変幻自在の犯罪者です。本物は左の二の腕に蜥蜴の入れ墨をしているはずなのですが、今回の変装で入れ墨まで再現されているかは定かではありません。

・「支那服」
いわゆる長袍とか中国服とかチャイナ服とか呼ばれるもの。
元は原作『一寸法師』で探偵が着ていたものがモチーフ。自慢げに黒チャイナ服を着込んで事件現場に現れ、関係者一同から怪しむ目で見られている探偵、胡散臭くてお茶目。

・「エジプトのミイラ」
あんまり深く触れるとトリックバレしそうでよくわかりませんが、シリーズ中、怪人が題名で力強く自分の名前を叫んでいる作品がありましたよね。ポプラ社版で改題されて「二十面相の呪い」になっているのがじわじわくる面白さと私の中で話題です。呪いて。原題あんな元気に自分の名前言ってるのに呪いて。何が気にくわなかったがゆえの改題なのか、なんとなく理由が察せられなくもないですが、考えるにつけじわじわきます。
そしてこの後書きを書きながら、『黒蜥蜴』で盗まれる宝石が「エジプトの星」だったのを思いだし、少年探偵が急にミイラの話を持ち出したのは彼なり掛け詞というか縁語シリーズだったんじゃないかと考えはじめました。「不在の探偵」はそういうことがよくある作品です。

・「変装技術」
わりと勝手な解釈をぶっていますが、元のシリーズだと少年探偵も人質の女の子と入れ替わったりしてるので、別に他人に成り代わるタイプの変装をしないわけではありません。ただ、人質の女の子がいるべき場所に、それらしい身なりの女の子がいたら犯罪者側もまず疑わないよなあと思うところもあるため、怪人のように特定個人そっくりに化ける変装は専門ではないという解釈をしています。たとえば「老人」に化けることはできても、「国立博物館長である○○老人」そっくりに化けて成り代わるのは、また別の技術だよなあと。
「不在の探偵」の怪人は顔がないので、わざわざ探偵の顔をベースに変装しています。探偵の変装をした怪人という自我を見失うと「役に入り込みすぎて」しまうので。

・「天国へようこそ」
の題名は、東京事変の曲名よりお借りしました。
この曲が話の内容に直接どうこうというよりは、「地獄でなぜ悪い」が曲名から拝借したものであり、その対になるものとして仮にタイトル付けしたファイル名が正題に収まった形です。地獄に対する天国。実に安直。
……と言いつつ、元々この「天国へようこそ」の曲に対して『黒蜥蜴』のイメージを持っていたので、仮題に引っ張られる形で話の内容があんな感じにおさまりました。元の想定で怪人の変装は、女性である以外は特に誰と決まっていなかったのです。衣装が真っ黒になったのは完全に、書き始めた後から乗っかってきた後付けです。
もしご興味をお持ちの方がいればぜひ原曲「天国へようこそ」と原作『黒蜥蜴』をどうぞ。
そしてもし両方ご存じの方がいれば、歌詞の「決して混ざらぬ二つが〜」あたりのイメージがそれっぽくて……!とか、同じ「大発見」のアルバムに収録された「禁じられた遊び」のほうも探偵へ向ける視線を感じてしまって……!とか、内なるオタクが大騒ぎしているさまを、なまあたたかいまなざしで見守ってくだされば幸いです。



top




×
- ナノ -