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結晶化した呪詛のペンダント



 スノウとホワイトの屋敷に弟子として暮らすことになったオズとドロシーは、二人から様々な知識を与えられた。兄弟子であるフィガロも基本的には優しく好意的で、双子に言いつけられたから、と言うわりにはなんだかんだで面倒を見てくれた。

 最初に教えられたのは食事の仕方だった。今までマナ石を食べてきた二人は、食事と言ってもいいものは食べてこなかった。温かい食事も、ナイフやフォークと言った道具も、初めてこの屋敷に来て使ったのだ。魔法使いは人間のような食事を取らなくても死にはしないから、大して気にもしていなかったが、それではいけない、と双子が言い、二人は丁寧に教えられながら食器や食事の食べ方を学んだ。

 次に教えられたのは文字だった。文字を読む機会も必要も無かったが、知識を得て自分の世界を広げるためには文字の読み書きは必要だ、とフィガロが言い、言われるがまま二人は文字の勉強にも勤しんだ。文字を覚えるのも書くのも大変だったが、自分の名前を文字に起こして読むことができるのは、なんだか不思議な気分だった。

 そして最後に、本命である魔法を学ぶことになった。オズは魔力が強く、今さら学ばなくても魔法を自由に扱うことができるが、抑えること知らない。魔法の制御は魔法使いにとって死活問題だ。魔法を制御できずに、石になってしまう魔法使いもいる。だからオズは、強大な力を制御することを学ばなければならない。一方ドロシーは、魔力が弱くまともに魔法を扱うことはできない。北の国は得に強い魔法使いが多く、他国では弱い魔法使いを襲う人間も存在する。そんな彼らから自分の身を守る術をある程度学ばなければならない。二人は、そんな風に難しい言葉を並べて説く双子の話をぼんやりと聞いていた。

 魔法を扱うにあたって、双子から魔道具を貰った。双子曰く、自分たちの弟子になった記念であるらしい。兄弟子のフィガロの魔道具も、以前に双子が与えたものらしい。他にも魔法使いには、マナエリアと同じ効果を持つアミュレットや呪文などが必要だが、それらは人それぞれによるため、いずれ見つければいいと言われた。

 貰った魔道具は杖だった。オズは、紺色に金の装飾があしらわれ先頭に赤い水晶が嵌め込まれた杖。ドロシーは、白色に金の装飾があしらわれ先頭に赤い水晶が嵌め込まれた杖。色違いの神秘的な杖だが、ドロシーの杖の方が若干細く、長さも短い。


「お揃いね、オズ」


 大きな杖を見上げるオズに、ドロシーは嬉しそうに笑いながら言った。オズとお揃いの杖。まだ大きすぎる杖だが、いずれ成長した時には、きっとぴったりな大きさになっているのだろう。その時が少し楽しみだ。なにより、オズとお揃いのもので嬉しい。嬉しそうに杖を両手で握りながら微笑むドロシーを見つめたオズは、少しだけ頬を緩めた。







 双子の屋敷で兄弟子のフィガロと共に弟子として暮らすのに慣れてきた頃。

 オズはあっという間に魔法の扱いが上達した。少し荒すぎた魔法も徐々に丁寧に的確なものになって、まだ少々雑ではあるが、魔法の制御もできるようになっていた。一方ドロシーは、オズとは違ってなかなか上達出来ていなかったが、徐々に魔法の扱いにも慣れてきていた。双子に丁寧に教えられ、フィガロやオズのプレッシャーを感じることなく、すくすくと成長していた。

 そんなある日のことだ。

 双子との魔法の訓練を終えたオズが屋敷の廊下を歩いていると、後ろからよく聞き慣れた声で名前を呼ばれた。振り向けば、笑顔を浮かべたドロシーが駆け寄ってくる。


「オズ、見て」


 駆け寄ってきたドロシーはそう言ってオズに両手を差し出した。ドロシーの手の中には、ふたつの簡素な首飾りがあった。赤い水晶はきらきら輝いていて、よく見れば水晶の中に白い花が浮かんでいる。見る限り本物の花だろう。魔法か何かの技法で作ったに違いない。


「スノウ様とホワイト様に教わって作ったの」


 ドロシーは、はい、と首飾りを再度差し出してくる。オズはそれに応えて、ドロシーの手から首飾りを一つ受け取った。赤い水晶の中に浮かぶ花を見てみると、いつの日かにドロシーが見つけた雪のなか咲いていた花と同じことに気づく。


「オズとお揃い」


 ドロシーはもう一つの首飾りを自分の首にかけ、水晶の部分を指で持ち挙げて、無邪気に笑顔浮かべる。オズは受け取った首飾りを見下ろしたあと、ドロシーと同じように首飾りを首にかけた。


「気に入ってくれた?」


 ドロシーは顔を覗き込むように少し身体をかがめて問いかけた。オズは自分の首元を同じように、ドロシーの首元にぶら下がるそれを見て、フッと口角をわずかに上げる。


「ああ」


 赤い水晶に、白い花。ドロシーの瞳の色と、髪の色。
 何故だか、もっと近くにドロシーの存在を感じ取れたような気がした。