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僕だってひとりぼっち



 あの日以来、ミスラはずっと出掛けている。もとから家でじっとしている方ではなかったが、最近は毎日どこかへ出かけていた。大きな包みを持って、時々怪我をして、遅くに帰ってくるのを繰り返す。一緒に居るのが気まずくなったり、会話が弾まなかったり、という問題は起きてはおらず、ミスラとの関係に変化はない。しかし、毎日どこかへ行ってしまうミスラとの会話が減っているのは事実だ。


「なに、またミスラ居ないの?」
「最近は毎日出掛けてて・・・・・・」
「まったく、あの子ったら」


 久しぶりの来訪だ。尋ねてきたチレッタに苦笑を零してそう伝えれば、チレッタは眉を吊り上げて唇を尖らせる。ひとり家に残される自分のために怒ってくれる優しい友人に嬉しくなりながら、ドロシーはチレッタを宥めて、いつものように椅子に座らせ、暖かい飲み物を出した。

 時々尋ねに来てくれるチレッタだが、最近は以前に比べて此処へ来る頻度が少しばかり減った。それも、世界の情勢が落ち着かないせいだ。いつもの世の中なら、人間たちの勝手ないざこざに魔法使いが関わることは無いが、今回ばかりは違う。今回は、魔法使いであるオズとフィガロが、この世界を征服しようとしている。相手が魔法使いで、それも世界規模となれば、魔法使いだって黙っていられない。とはいっても、絶対的な力を誇るオズには、誰も敵わないでいた。

 チレッタはこうして此処へ尋ねに来ては、噂程度に聞くオズの動向や世界情勢を教えてくれた。チレッタなりに気にしてくれているみたいで、特にオズの動向については細かく話してくれていた。それに感謝しながら、チレッタから聞く重々しい話に耳を傾ける。

 温かい飲み物が入ったカップを両手で包んで、それを一口飲み込む。ほっと、冷えた身体が温まる。最近はとても寒い。今日も、外は吹雪いていた。荒れる天気を窓越しに眺めては、ドロシーはそっと瞼を下ろした。

 バタンッ、と大きな音が突如響いた。チレッタもドロシーもそれに驚いて、咄嗟に立ち上がる。音がした玄関に視線を向ければ、そこには擦り傷や切り傷を作って血を滲ませたミスラが立っていた。


「ミスラッ!!」


 慌てて疲れたようにしゃがみ込んだミスラに駆け寄った。深い傷は無いけれど、服はボロボロで、ところどころに血がにじんでいる。焦るドロシーとは反対に、当の本人は微塵も気にしていない。


「あんた・・・・・・一体、何人殺したのよ」


 ミスラを目の前に、チレッタは思わず表情を歪ませた。視線は、ミスラが携える包みに向けられていた。硬い何かが詰められた包みからは、いくつもの魔力の塊が感じられる。ちらり、視線を動かしたミスラに、チレッタは目を細めた。


「早く手当てをしないと・・・・・・!」


 チレッタが小さく呟いた言葉や包みから感じられる魔力に気づかなかったドロシーは、焦った様子のまま立ち上がった。救急箱でも探しに行くのだろう。魔女であるというのに、魔法を使うことを忘れるなんて。それほど気が動転しているのか、魔力が弱いから魔法を頼りにしてこなかったせいなのか。傍らで焦るドロシーを、ミスラはぼんやりと眺めていた。


「いいですよ。こんなの、魔法でどうにでも・・・・・・」
「ダメよ、消耗しているじゃない!」


 魔法で治せばいい、と言おうとすれば、ドロシーに止められる。ドロシーの言う通り、ミスラは魔力を消耗していた。かなり魔法を行使したのだろう。ドロシーは、少し待っていて、と残して駆け足で部屋の奥へと消えて行った。平気だ、というミスラの言葉を無視して行ってしまったドロシーの背を眺め、ミスラはため息を落とす。


「・・・・・・それで? どうしてそんなに殺しまわってるの?」


 見上げれば、仁王立ちをしたチレッタがそう問いかけてくる。問い詰めるような言い方はどこか不機嫌そうで、少し呆れたような表情をしている。


「ドロシーが、今の俺ではオズに敵わないと言うので」
「はあ?」


 正直に告げれば、チレッタは目を丸くして間抜けな声を上げた。肩がずり落ちてしまいそうな、素っ頓狂な声。それを無視して、ミスラは手に持った包みを開いて、中に詰め込んだマナ石を一つ一つ取り出した。見定めるようにそれを見つめては、ガリッと歯で砕いて、飲み込む。より魔力が強いものを、より魔力の質が良いものを選び取るミスラに、チレッタはため息を落とした。


「あんたって、ほんと馬鹿ね」
「はあ?」


 ムッと眉根を寄せてチレッタを見上げるミスラ。不機嫌に睨み上げてくるミスラに、ふん、とそっぽを向けば、さらに機嫌を悪くして、暴食をするようにマナ石にかぶりつく。ガツガツとマナ石を口に放り込む姿は野性的で、とてもガサツで、行儀が悪い。けれど。


「ほんと・・・・・・あんたって可愛いわ」


 誰に聞かれることも無く、それは冷えた空気に溶けた。