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麗らかな春花



 ミスラに魔法を教えるようになってから数日後、宣言通りチレッタは再び姿を現した。ミスラに魔法を教えていることを知ると、チレッタは自分からミスラに魔法を教えると申し出た。正直なところ、基本的な魔法の扱いならばドロシーでも教えることはできるが、魔力の強いミスラはいずれそれを上回る。そうなったとき、ドロシーでは教えることができない。チレッタはこちらに対して敵意があるわけではないみたいで、好意的であったこともあって、ミスラへの魔法の教授はチレッタに任せることになった。


「まさか、あんたがあの双子の弟子だったとわねぇ」


 最初の魔法の訓練であるシュガー作りをミスラにさせている傍らで、チレッタは隣に居るドロシーに意外だと言うように投げかけた。スノウとホワイトは北の国では有名だ。古い魔法使いで、多くの人間や魔法使いに恐れられている。「てことは、あのオズとフィガロと兄妹弟子ってことよね」もちろん、そんな彼らの弟子になれば有名にもなる。ましてやオズやフィガロは強い魔法使いとして、以前から名前を轟かせていたのだ。こうやって、話に上がるのもおかしくはない。


「・・・・・・私はただのおまけよ」


 チレッタの明るい声色とは正反対に、ドロシーは目を伏せて自虐するように呟いた。そんなドロシーの様子に少し気になりながらも「ふぅん。あんたも、いろいろあるのね」と、チレッタは受け流す。深入りしないのは北の国特有の孤高の精神からなのか、ドロシーに興味が無いからなのか。どちらにしても、追及をしないことにドロシーは救われた。


「・・・・・・どうして、ミスラに構うの?」


 沈黙が流れ、シュガー作りに勤しむミスラを眺めながら、今度はドロシーがチレッタに投げかけた。チレッタはふふ、と笑ってミスラを見つめる。


「あたしの恋人として育てようと思って」
「え」


 思わず素っ頓狂な声が零れた。驚いて隣のチレッタに視線を移せば、にこにこと笑ってミスラに熱い視線を送っている。「だって顔好みだし、魔力も強いし。あたし、強い男が好きなの」恋をしている、というよりいい人材を発見した、という言い方の方が正しい様子だ。確かにミスラはとても整った顔立ちをしていて、魔力も強い。偉大な魔女と名高いチレッタの弟子として育てば、約束された未来のごとく強い魔法使いになるだろう。


「もしかして、もうあんたの男だった?」


 あ、と零してチレッタが見上げてくる。それに慌てて首を横に振った。


「い、いえ。私はどちらかと言うと居候で、母親とか姉とかに近しいと思うし・・・・・・」


 一概にミスラとの関係を言い表すことはできないが、言葉にするならそういった関係になるだろう。恋愛対象として見たこともないし、いつかそうしようとも思ったことは無い。いつかミスラに大切な人ができたのなら、それを喜びたい。しかし、チレッタの言葉通りに事が進めば、ミスラの意志が無視されることになる。ミスラは自分のものではないけれど、だからといってチレッタの言葉に頷くこともできず、難しい顔を浮かべる。


「あはは! 息子を取られるような気分?」
「・・・・・・恋人どうこうは、ミスラの意志も尊重してほしいわ」
「まったく、北の魔女のくせに勤勉ね」


 チレッタは声を上げて笑った。「そういうの、気に入ってるわ」けれど、次に放たれたのはとても優しげな声色だった。目を向ければ、チレッタ綺麗な瞳をそっと細めて、微笑みを浮かべながらこちらを見つめていた。それがとても綺麗で、花が咲くようだった。


「あたし、あんたのことも、結構好きよ」


 目を丸くした。呆然とチレッタを見返せば、クスクスを笑みを浮かべる。人懐っこい彼女の人柄に、警戒していたことなんて忘れて、つられるように口角が上がった。


「・・・・・・そんなこと、始めて言われたわ」


 花の微笑みに、氷が溶けていく気がした。