タイムジャンプ(綱塔・後編)


部屋には綱海と塔子だけが残された。

二人は漸く正気に戻り始めたものの、なかなか口を開かなかった。
しかしそれは気まずいからという理由ではなかった。

「…なぁ」
「…何」
「…お前、信じられるか?俺達が10年後には結婚して、挙げ句の果てには子供までいるって話。」
「全っ然。」
「だよなぁ…」

二人は気まずいというよりも実感がわかない為どちらかというと相手に対してどう対応すれば良いか分からなかったのだ。

「だってあたしまだそーゆーのわかんないもん。確かに綱海の事は好きだけどそーゆー『好き』かだなんてさ。綱海は分かる?」
「そりゃーそんぐらいは…」
「ホント!?じゃあ教えてよ!!あたしの好きが恋愛なのかどうか!!」
「お前…普通それを俺に聞くか?」
身を乗り出しながら意気込む塔子に綱海は少し呆れた。
「だって他に誰に聞けってゆうのさ。リカはなんかよくわかんない事ばっか喋るし秋や夏未は顔真っ赤にしてすぐ逃げるんだもん」
塔子は大人しく椅子に座り直すとつまらなさそうにため息を吐きながら肘をついた。
この様子だと本当に好きの違いがわからないのだろう。
だがまぁいいか、と気を取り直すと『好き』について説明し始めた。
「そーだなー…俺もよくは知んねーけど…多分、そいつとずっと一緒に居たいとか支えてあげたいとか…後はそいつの為だったらどんな事でも一生懸命になれる。そーゆー風に思えたら『好き』なんじゃねーの?」
そう言う綱海の目は優しかった。
塔子は少し驚いた風に口をポカンと開けた。
「綱海って…おっとな〜」
「だろ?」
(俺も音村に聞き齧ったやつばかりだけど)
目をキラキラさせてこちらを見る塔子にそんな事を思ったのは秘密だ。
「でも…ふーん、成る程ね…」
それでも実感がわかないのか塔子は首を捻っていた。
そんな塔子を目を細めながら綱海は言った。
「ま、いーんじゃねーの?無理して分かろうとしなくてもよ。時期がくれば塔子も分かるようになるって。それよりもよ、あの海ってヤツ、わざわざ俺達とサッカーしたくてこの時代に来ちまったんだろ?だったら俺達が結婚するかどうかはともかく、一緒に沢山サッカーしてやろーぜ」
「…だな」
綱海が塔子の頭をポンと撫でながら笑うとそれにつられたかの様に塔子も笑顔を漏らした。

「ただいまーっ」
玄関の方から海と円堂の声が聞こえてきた。
「お、帰って来たみたいだな」
「あたし出迎えて来る!!」
「あ、ちょい待ち塔子」
「ん?」
ピョン、と椅子から降りて玄関の方へ行こうとする塔子を綱海が引き止めた。
「いやー、すっかり忘れる所だったぜ。ほら、これやるよ」
「これ…ミサンガ?」
綱海が塔子に渡したのはミサンガだった。
塔子のチャームポイントである髪の色のピンクと帽子の青が程好く組み合わさっていた。
「なんで…」
「ほら、前に沖縄で俺特性の貝殻のブレスレット気に入って俺にせがんでただろ?けどあげねーままこっち来ちまったからよー。約束守らねーのは性に合わねーし。塔子達がこっち来たからここの貝殻で作ろうとしたんだけどよ、やっぱダメだな。なーんか違うんだよなー。けど今あげねーと次いつ会えるかわかんねーし。てな訳で代わりにミサンガ作ったんだ。ダメだったか?」
「そんな事ない!!」
苦笑混じりに言う綱海の言葉を塔子は勢いよく遮った。
「あたしコレすっごい気に入った!!ありがとう綱海!!絶対大切にするから!!」
塔子は余程気に入ったのか満面の笑みを浮かべた。
「そっか…なら作った甲斐があったってもんだぜ。」
綱海はまたもや塔子の頭を撫でた。
「ホントありがと!!じゃあたし円堂達出迎えて来る!!」
「おー」
バタバタと走り去っていく塔子を綱海はヒラヒラと手を振りながら見送った。
そして誰も部屋に居なくなった時綱海は1人呟いた。

「ちょっと…ヤベェかも…」

綱海は手で顔を隠していたが耳が仄かに赤く染まっていた。


「皆お帰りー」
「おー、ただいまー」
「やっと復活したか」
「海のやつ凄いぞ。流石お前らの子供って感じだな。かなりの運動神経の持ち主だ」
塔子が出迎えると口々に口を開いた。
すると皆の後ろで少しもじもじしている海がいた。
その事に気がつくと塔子は目線を少し下げてにかっと笑いながら言った。

「お帰り!!海!!」

塔子の言葉を聞いた海はパッと輝かせた。
「ただいま母ちゃん!!」
やっぱり母ちゃんは慣れないなぁと思いながらも塔子は海の頭を撫でながら言った。
「今日はずっと相手出来なくてごめんな。今日はもう遅くから無理だけど明日は一緒にサッカーやろうな!!勿論綱海も誘って。」
「…っうん!!」
海は満面の笑みで大きく頷いた。
後ろにいた皆はこっそり目線を交わすと微笑んだ。

「母ちゃん父ちゃん一緒に風呂入ろ!!」
「おー」
「いいよー」
「「ダメです!!」」
御飯を食べた後、海が着替えを持ちながらとてとて近寄ってきた。
綱海はともかく塔子まで一緒に浴場の方へ向かって行ったので慌てて秋と春奈が止めた。
「えーなんでだよー」
「いいじゃんか風呂ぐらい」
この数時間ですっかりこの親子は打ち明けたらしく二人共不満たらたらだった。
「塔子さん水着とか持ってないでしょう!!」
「…別にいらないだろ?親子なんだし。」
「海くんはともかく綱海さん相手にそれはダメです!!」
「えー…」
「諦めろって塔子。俺海パン持ってても女モンの水着なんか持ってねーし。だからさ、海。俺だけで勘弁してくんねーか?」
綱海が困った様に笑うと海も渋々諦めた。
「わかった…その代わり今日一緒に寝よーな!!」
「わかったー!!」
海は綱海に手を引かれながらブンブンと塔子へと手を振りながら浴場へ向かった。
見送った後塔子が後ろを振り返ると微妙な顔をしていた二人がいた。
「なんだよ、一緒に寝るのもダメなのか?」
「ダメっていうか…塔子さんはもうちょっと自覚を…」
「自覚って何の?」
「塔子さん…」
本気で聞き返す塔子に秋は頭を抱えた。

なんやかんやでなんとか秋達にお許しを貰えた塔子は海の強い希望で川の字で寝る事になった。
「おし、寝るぞー」
「うん」
(…あれ?)
寝る直前、海はあるものに目が止まった。
「母ちゃん」
「ん?」
「そのミサンガどーしたの?」
さっきまでジャージを着ていた為気付かなかったがいつの間にか塔子の手首にはミサンガがついていた。
そしてそれは海が見覚えのあるものだった。
「あぁ、いーだろコレ。さっき綱海に貰ったんだ」
「海も気に入ったなら作ってやろうか?…って、何かこの時代から持って帰っちゃ不味いのか」
「んーん。ただ父ちゃんは昔から器用だったんだなぁって」
「へ?」
「なんでもない!!母ちゃん、せっかく父ちゃんがくれたんだから無くしちゃダメだぞ」
「わかってるって!!」
海が上目遣い気味に言うと塔子は笑ってわしゃわしゃと海の頭を撫で回した。
海にはそれが20年後の塔子の仕草と重なって心地良かった。
「…父ちゃん、母ちゃん」
「ん?」
「…手、繋いで寝よ」
ほんの1日とはいえ、本物の両親と離れ、見知らぬ時代に飛んでしまいやはり心細いのだろう。
綱海と塔子は目を合わせると笑いあった。
「「勿論」」
「…ありがと…お休み。」
すると海は安心したのかすぐに眠りについた。
ほどなくして綱海と塔子も眠りについた。


「よっしゃいくぞ海!!」
「うん!!」
次の日、早朝から早速3人はサッカーをした。
円堂達の言っていた通り見事なボール捌きだった。
途中、必死になった綱海が大人気なく必殺技を出してしまったりして塔子に怒られたりもしたがその日はずっとボールを追いかけていた。

「はぁー、スゲーな海!!流石俺達の子だ!!」
「えへへ〜」
「だからって必殺技出すのはどうかと思うけど。」
「うっ…まぁ海の広さに比べたらちっぽけな事だろ」
「オイ。」
「綱海くん、塔子さん。」
「ん?」
浜辺で談笑していると後ろからヒロトに声をかけられた。
振り返るとヒロトの手には手のひら大のエイリア石が握られていた。
「この大きさなら元の時代に戻れるはずだよ。良かったね海くん」
「えー!!俺もっと父ちゃん達とサッカーしたい!!」
「それはダメだよ」
海が駄々をこねるとヒロトは少しきつめの口調で言った。
「君は本来ここに居てはいけないんだ。それに未来の塔子さん達が心配するよ。それでもいいの?」
「う〜…」
そんな事、わかっていた。それでも海はもっと綱海達とサッカーがしたかった。
「そんな顔すんなって!!大丈夫、また会えるんだからさ」
塔子が海の両手を握りながら微笑んだ。
「塔子、お前それって…」
「…じゃあまた一緒にサッカーしてくれる?」
「勿論!!」
「…わかった」
「ん、イイコ!!」
塔子が海の頭を撫でると塔子と海は笑いあった。
1人呆然としている綱海を置いて。

こうして海は元の時代に帰る事になった。
「じゃあ石を握って。そして綱海くん達の事を強く握るんだ」
「わかった…皆さん、本当にお世話になりました!!父ちゃん、母ちゃんまたな!!」
「おー…」
「バイバーイ!!」
そして海が石を握ると眩い光に包まれ、海の姿は居なくなった。

「…なぁ塔子」
「ん?どうした?」
「お前わかってんのか?また海に会うって事は俺とお前…」
「あー…いーんじゃないの?」
「はぁ!?」
「なんだよ、あたしじゃ不満ってか?」
「いやそうじゃなくて…っていうかお前軽すぎだろ!!」
「いーじゃん。あたしだって海にまた会いたいし綱海の事わりかし好きだし。成るようになるって!!それよりほら、サッカーやろっ!!」
そう言うと塔子は綱海にボールを渡した。
「…おー」
こんなんで大丈夫か、と思いながら先が思いやられる綱海であった。


「ん…」
目を開けるとそこは自分の家だった。
「俺…戻ってこれたんだ…」
「あれ!?海!?」
「母ちゃん!!」
「おっかしーなー…いつの間にか居なくなったからどっか逃げたと思ったんだけど…たった数分間だったし…トイレ?」
「え、あ、そ、そう!!トイレ!!」
どうやらこの時代では海が居なかったのはほんの数分で済んだようだ。
海は慌てて誤魔化した。
「そっか、まぁいいや。ね、海。この掃除が終わったらサッカーやろっか。父ちゃんももうすぐ帰って来るっていうし。」
「え?いいけどなんで急に…」
「そーゆー約束だっただろ?」
そう言って笑う塔子は20年前と変わらなかった。
「…っうん!!」


(オイコラ条介ー!!もっと頑張れー!!)
(ちょ、ちょっと…タンマ…)
(父ちゃん情けねー!!)
(なんだとー!!俺だって本気出せばなぁ…)
(ハイハイいっくよー!!)
(ギャーッ!!)

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