弱音(綱塔)


「とーこっ、何してんだー、こんな時間に。」
「!、綱海」


皆が寝静まった頃、塔子はキャラバンの上で一人起きていた。

「綱海こそどーしたんだよこんな時間に」
「んー?なんか目ぇ覚めちまったからちょっと夜風にでも当たりに?そしたら先客がいたからよ」
「ふーん」
「それよりお前、なんで寝袋とか布団持ってねーんだよ、風邪引くぜー?」
綱海はそう言って塔子を後ろから抱きしめながら持ってきた布団で一緒にくるまった。
「あ、サンキュ」
男女の差を意識しない二人だからだろう。
塔子はあっさりと綱海の好意を受け入れた。

「で、どーしたんだよ」
綱海が頭上に広がる満天の星空を見上げながら何気なく聞いた。
「…何が?」
しかし対する塔子の応えはいつもより素っ気なかった。
「こんな時間に起きてるなんて、お前にしちゃ珍しーんじゃねーの?」
「んな事ないよ。環境がちょくちょく変わるんだ。あたしだってたまには夜中に目が覚める事もあるよ」
「ウソつけ。浦部が言ってたぞ。塔子はいつもぐっすり寝てて羨ましいって」
「うっ……!」
図星なのだろう。
塔子の肩がギクリとビクついた。
しかし隠しててもしょうがないと思ったのだろう。
塔子は空を仰ぎながら軽くため息を吐くと言った。

「別に何かあったって訳じゃないよ。ただちょっとさ…」
「うん?」
綱海はさりげなく先を促した。
「…なんであたしは男に生まれなかったのかなぁ…って思ってさ、」
「・・・お、おぉ…そりゃ随分とまた唐突だな…けどなんでまた?」
一瞬間を開けると戸惑いながら綱海は返した。
すると塔子はポツリポツリと話し始めた。
「最近さ、…っつっても綱海は入ったばっかだからあんまりわかんないかも知れないけどやっぱりエイリア学園はだんだんと強くなってるんだよ」
「あー、円堂達もんな事言ってたな」
綱海がポスッと寝起きの為いつもの帽子をかぶっていない柔らかい髪の上に顎をおいきながら円堂達の様子を思い返していた。
「そんな奴らに勝つ為にはあたし達も強くならなきゃいけない。…あたしはサッカーなら男に負ける気なんてないよ。勿論円堂や豪炎寺、あと綱海にも」
「なんか俺だけついでみてーなんだけど…」
綱海は思わず苦笑いをした。
「それでもやっぱり男女の差はあって…特に綱海となんて1コ上ってだけでこんなにも差がある」
「んな事…」
「現にあたしは今綱海の腕の中にすっぽり入ってる」
「………」
ねぇよ、という言葉はいとも簡単に引っ込んでしまった。
確かに綱海にとって塔子は小さくてふわふわしていてこんな体でどっからあんな力が出てくるんだと思える程腕や足は細くて、どんなに男前な性格をしていてもやっぱり『女の子』だった。
「今はなんとか皆と一緒にエイリア学園に対抗出来ているけど…もっと強い相手が現れて皆に置いてかれたらどうしようって。ううん、置いてかれるならまだいい。足手まといなんかになったらどうしようって最近思うんだ」
「塔子…」
「要するにさ、あたしも不安なんだよね」
塔子は綱海の方へ振り返ると照れたようにへへっと笑った。
「他にもさ、やっぱりこんなでも一応総理の娘だからパーティーとか出なきゃいけない時とかもあるんだよ。別にさ、女の子らしいドレスとかが嫌いとかじゃないんだよ。ただやっぱりいつまでも泥だらけになって遊んでないで少しは女の子らしくしなさいとかって言われるのがさ、ちょっと、ね…あたしはあたしなのにさ。」
塔子は少し悲しそうに言った。
「そんなんだからたまーに男に生まれたかったなーって思ってたんだけどエイリア学園と戦うようになってから更に思うようになって…」
「………」
「ま、けどさ、そんな事言ったってどーしよーもないからさ、そう思っちゃった時はこーして空を見上げるんだよ。そーすればあたしの悩みなんかどーでも良くなっちゃうんだよね。だから今日もボーッと空見てたって訳。」
「そっか…」
綱海は塔子の頭をポン、ポン、と軽く叩くと塔子に倣って空を見上げた。

「…綱海」
「ん?」
「話聞いてくれてありがと。おかげですっきりした」
そう言って塔子は目を閉じて綱海にもたれかかった。
その表情は清々しいものだった。
「まぁホントに話聞いただけだったけどな。けどどんな事だって海に比べたらちっぽけな事だろ!」
そう言って綱海は大きく笑った。
「!…っ確かにね!」
塔子も一瞬呆気にとられたがすぐにプッ、と吹き出すと綱海につられて笑った。
「お、やっと笑ったな」
「へ?」
「なんでもねーよ。ま、とにかく、だ。お前は頑張ってるし円堂達に引けをとらないぐらいサッカーうめーと思うよ。それと悩みがあるならちゃんと吐き出せ。一人で溜め込むな。お前の周りにはダチが沢山いるだろ?お前はそーやって一人で悩むより笑ってる方がいいと思うぜ」
そう言うと綱海はニカリと笑った。
「うん…ありがと」
塔子も同じようにへへっと笑った。


「よしっ、寝るか!」
そう言うと綱海はゴロンと後ろに転がった。
勿論綱海の手は塔子の前にあったのだから塔子も一緒にである。
「っと、危なっ!!え、てかここで寝るのか!?」
「あー?だって起床まで後4〜5時間だろー?下行くのもなんかめんどくせーしよくね?それにたまにはこーやって空見ながら寝るのもいーだろ」
それもそっか、まぁ布団もあるし大丈夫だろうと思い塔子は大人しく綱海のいう通りにした。

「おやすみ綱海」
「…おやすみ」

塔子は綱海の腕に抱きしめられながら眠りについた。

その日の塔子の寝顔は穏やかなものだった。


しかしそのおかげで翌朝リカにその様子の写真を撮られて散々からかわれるはめになってしまったのだが。

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