親子(木春・4)


「…俺…もうどうしたいのか、どうすればいいのかわかんねぇよ…」
「………」
春奈は木暮にかける言葉がなかった。


「…なーんてなっ!!」
「え?」
「ウッシッシ!!お前変な顔ーっ!!」
「え、ちょ、木暮くん!?」
さっきの沈んだ顔はどこへやら、既に木暮の顔はいつものイタズラッ子の顔だった。
しかしすぐに真面目な顔になり、
「…言っとくけどこの話は誰にも言うなよ。特にあの母娘には。…お前に話せて良かったよ。ちょっとスッキリした。」
と、最後には軽くニッと笑った。

ドクンッ…

(あ、あれ?何で私…)
「…お母さんと話さなくていいの?」
いつもより大人びた木暮の表情に内心ドキドキしながらも平常心を装い、春奈が躊躇いがちに聞いた。
「今更話してどうするんだよ。あっちは俺のこと忘れてるんだぜ?それに…あいつが俺を捨てたという事実は変わらない。…それより早く戻ろーぜ。皆待ってんだろ?」
木暮が肩をすくめながら答え、春奈を促した。
「うん…」
春奈は沈んだ顔で頷き、二人は練習場所に戻った。


「あ、やっと戻ってきた。二人共どうしたんだ?」
既に練習は再開していた。
「すいません…」
「?まぁ木暮はとりあえず早く混ざれよ!!」
「ハイっ!!」

木暮は本当にスッキリした様で先程の様なミスはあまり目立たなかった。
それでも春奈は木暮の事を心配そうに見ていた。
「音無さんどうしたの?なんだかぼーッとしてるけど…」
「!!す、すみません!!何でもないです!!」
「そう?」
「はい!!あ、私新しいタオル持ってきますね!!」
春奈はそう言うと走っていった。

(あんな風に言ってたけど本当に木暮くん、お母さんと話さなくていいのかなぁ…)
タオルを取りに行きながらも春奈は一人悶々と悩んでいた。


そうしている間にも時間はあっという間に過ぎ、またキャラバンに乗って新たな旅立ちの時となった。
「この度はありがとうございました。大変お世話になりました。」
「「「ありがとうございました!!」」」
「いえいえ、またよろしかったら来て下さい。」
「お兄ちゃん達バイバーイ!!」
小宮母娘がニコニコと笑いながら玄関で見送りをしてくれた。
「それでは。」
瞳子監督が軽く会釈して円堂を初めとして口々に別れの挨拶をしながらキャラバンに乗り込んだ。
皆が乗り、選手の中では後は木暮という事になり、木暮もしばらく小宮母娘を見た後、キャラバンに乗り込もうとした。
が、それは春奈の手によって阻止された。
春奈が木暮の腕を思いっ切り引っ張ったのだ。

グイッ!!

「わっ!?…ってーなぁ!!あぶねーだろ音無!!」
「やっぱり木暮くんこのまま行っちゃダメ!!」
「はぁっ!?」
「お母さんと話しなさい!!」
「なさいって命令かよ…ってかいーって!!」
「ダメ!!」
「何でだよ!?」
「だって木暮くんさっきからずっと小宮さんの事切ない顔で見てる!!」
「!?」
木暮の動きが止まったのがわかった春奈はゆるゆると木暮の腕を引っ張る力を弱めた。
「んな訳…」
「無意識で見てるなら尚更話さなきゃダメだよ…でなきゃ木暮くんきっと後悔する…」
「話すって言ったって何話すんだよ。あっちは俺の事覚えてねーってのに。」
木暮はフン、と鼻で笑った。
「木暮くん、前私に本当の気持ち話してくれたじゃない。会えて嬉しいって思ったって。その事だけでも言うべきだよ。」
「………」
あまりに春奈が一生懸命に説得するのでついに木暮が、
「……ホント、お前っておせっかいだよな。」
「なっ!?」
「行ってくる。監督達にはちょっと待っててもらって。」
ポンッ、と頭は届かないので木暮が春奈の背中を軽く叩くとキャラバンから降りて小宮母娘のところへ走ってった。


「…頑張れ、木暮くん。」
春奈は木暮の背中に向かって小さく呟いた。

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