親子(木春・3)


「ねぇ木暮くん、本当にどうしたの?」
「それは…」
春奈の視線に堪えきれずに木暮が口を開こうとした時だった。

「あー!!いたいた木暮!!…っと音無も。もーすぐ練習始めるぞ!!」
「「!!っは、はい!!」」
突然二人を呼びにきた円堂が来てそう言うとさっさと姿を消してしまった。

「「………」」
「…早く行こーぜ。」
先に口を開いたのは木暮だった。
「あ、木暮くんっ!!」
すぐに行こうとした木暮を春奈は呼び止めた。
「なんだよ。」
「さっさ…」
なんて言おうとしたの?という言葉は声にならなかった。
木暮の目がそれを制したのだ。
「別になんでもねーよ。」
「でも…」
「いーから行くぞ。」
「う、うん…」
春奈は聞きたい事がまだまだあったが二人は集合場所に行った。

(そうだ、こんな事あいつに言ったって仕方ねぇ。親を亡くしてるあいつにも気まずい思いさせちまうかも知れねぇし…何よりこれは俺の問題だ。)


練習が始まってからの木暮はいくつかミスが目立った。

「木暮、お前今日どうしたんだ?」
木暮の事を見かねた円堂が休憩中に聞いた。
「別に…」
「ふーん?まぁ体調とか悪かったらすぐに言えよ?」「わかってるよ。」
大して気にせずあっけらかんと話す円堂に木暮は素っ気なく答えた。
と、その時、
「皆さーん!!差し入れですよー!!」
マネージャー達が女将と朝美を連れて大きな器に大量のおにぎりをのせて持ってきた。
「おぉ!!うまそーだな!!」
「うふふっ。女将の小宮さんや朝美ちゃんにも手伝ってもらったからまだまだあるわよ。」
「お気遣いありがとうございます。」
傍でニコニコと笑っている小宮母娘に瞳子監督がお礼を述べた。
「いえいえ、これくらい大した事じゃありませんよ。」
「お兄ちゃんどうぞ!!」
朝美が笑顔を浮かべながら傍にいた木暮におにぎりを渡した。
おそらく朝美が握ったのだろう。
他のものに対して少し小さいおにぎりが木暮の手に渡った。
「あ、あぁ…サンキュ…」
木暮がなんとも言えない顔でそれを受け取ったのを春奈が遠目から見ていた。
「良かったわねあーちゃん、お兄ちゃんに受け取ってもらえて。」
「うん!!」
女将が朝美の頭を優しく撫で、木暮と目が合うとふわりと微笑んだ。

その時木暮の中で何かが弾けた。

「っすいません、俺ちょっと抜けます。」
早口で木暮はそう言うとその場を走って去った。
「えっ?」
「あ、待って木暮くん!!すみません私ちょっと木暮くんの様子見てきます!!」
木暮が走って行ったのを見て春奈も早口にそう言うと急いで木暮の後を追いかけた。
「どうしたんだ?木暮と音無のヤツ…」
「さぁ…?」
突然去って行った二人に皆は首を傾げていた。


「待って…待ってってば木暮くん!!」
春奈はなんとか木暮に追いつき木暮の手を掴んだ。
「木暮くんやっぱり変だよ!!らしくないミスも目立つしさっさだって…私木暮くんのこのが心配なの!!ねぇ…本当にどうしたの…?」
「………」
木暮は前を向いたままで答えない。
「木暮くんってば!!」
最初はいつもの強気な口調だったがしだいに春奈は半分涙声になり、顔も泣きそうになった。
「!?な、なんでお前が泣きそうなんだよ!?」
春奈の様子が変なことに気付き、後ろを振り返ると見馴れない春奈の姿があって木暮はギョッとした。
「だって…」
ズズッと鼻をすすりながらも春奈は木暮の手を放さなかった。
「…ったく…ホントお前にはかなわなねぇな…」
春奈の様子に半分呆れて軽く苦笑した後目を反らしながら新たに口を開いた。
「……ちゃんだったんだ。」
「え?」
「あの小宮って名乗った女将は俺の…俺の母ちゃんなんだ。」


「…嘘…」
木暮の言葉を理解するのに時間がかかり、一番最初に出た言葉はこれだった。
「俺だって信じられなかったさ。…けどあいつの仕草一つ一つが全部母ちゃんだって言ってる。…お前だって本当の両親の顔、今でも覚えてんだろ?」
「それは…」
木暮の言う通りだった。
最後に両親の顔を見たのは十年近く前だが今でも二人のことはよく覚えている。
「ホント、笑っちまうよな。こっちはあいつのせいで人間不信に陥ったっていうのにあいつは早々に自分の幸せを見つけて子供もいるだって!?ふざけんなよっ!!」
しだいに木暮は怒鳴るように叫んだ。
「木暮くん…」
「あの子供、9歳だって言ってただろ?つまりあいつはなぁ!!俺を捨てた後すぐに結婚してあいつを授かったって事なんだよ!!しかもあいつは俺を見ても表情一つ変えなかった!!俺の事は忘れたい過去だったって事かよ!?」
「………」
春奈はもう何と言えばいいのか分からなかった。
「…けどそれ以上にムカつくのはこのままあいつを憎めたら良かったのに俺あいつを見て一番最初に思ったのは『嬉しい』だったんだ。」
「………」
「自分を捨てた相手なのにな。」
木暮は自嘲気味に笑った。
「…俺…もうどうしたいのか、どうしたらいいかわかんねぇよ…」

木暮の信じられない告白に春奈は何も言えなかった。

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