親子(木春・2)


女将に部屋を案内された後瞳子監督は言った。
「じゃあ皆、少し疲れたでしょうから1時間休憩にします。1時間後宿の前に集合ね。」
「「「はいっ!!」」」


「木暮くん、一緒にトランプでもやらないッスか?」
壁山が立向居などの他の1年を引き連れながら木暮に聞いた。
因みに他のメンバーである円堂や鬼道などは自主練や次の試合の戦術を考えていたり、中には昼寝をしている者もいた。

「で、どうスか?」
「……悪いけど俺も自主練してくるから。」
「木暮が自主練なんて珍しいね。俺も付き合おうか?」
いつも休憩時間になるとイタズラばかりしていた木暮が自主練するなんて木暮もヤル気あるな〜と立向居は思いそう申し出た。
「…いい。一人で平気。」
「でもDFだと相手がいなきゃ…」
「いいって言ってんだろ!!」
立向居が更に申し出ると木暮がいきなり怒鳴った。
しかし木暮はすぐにハッとしてごめん、と謝った。
が、立向居達は動揺を隠せなかった。
「こ、木暮…?」
「悪い……ともかく、練習は一人で平気だから。」
ダッ!!
「あ、木暮!!」
そう言うと木暮はボールを持って部屋を飛び出していった。
「行っちゃった…」
「木暮のヤツ、どうしたでヤンスかね?」
「何か悪いモンでも食べたんじゃ…」
「壁山じゃないでヤンスから…」
木暮は普段あまり怒鳴ったりしない。そんな木暮の今の態度には1年グループが首を傾げるのは当然だった。
すると、
「木暮くんいるー?」
部屋の扉が開いて春奈が顔をひょこっと出しながら聞いてきた。
「あ、音無さん。木暮ならさっさ出てっていったけど…またなんかイタズラでもしたの?」
「ううん、そうじゃないの。ただ…さっさちょっと様子が変な気がしたからどうしたのかなって…私の気のせいだったらいいんだけどね。」
春奈は少し苦笑いしながら答えた。
春奈のセリフに壁山達は顔を見合わせた。
「実はさっきも…」


立向居はさっきの木暮の様子が変だった事を春奈に伝えた。

「そんな事が…やっぱり木暮くん何かあったのかな…」
「さぁ…音無はいつから木暮の様子が変だって気ついたの?」
「えっと…さっき木暮くん、女将さんに話しかけたでしょ?その時かなぁ?なんか女将さんを見た途端木暮くんびっくりしてたというか戸惑っていたというか…それに…」
春奈が顎に手を当てながら答えていたが最後の方になると目線を下ろして少し言うのを躊躇った。
「それに?」
「…それに、私の気のせいかも知れないけど木暮くん、初めて会った時と同じような目をしてた気がして…」
「…なんかよくわかんないスけど要は女将さんと木暮くんは知り合いだったって事ッスか?」
「でも女将さんの方は木暮を見ても別に知り合いって感じじゃなかったでヤンスよ?」
春奈の話を聞いてもあまり現状がわからない1年達は再びうーん、と唸ってしまった。

「よしっ!!ここで悩んでいても仕方がないわ、私木暮くんの様子見てくる!!」
春奈は決意して宣言すると先程の木暮のように部屋を飛び出していった。
「あ、音無さん!!…って、行っちゃった…」
「音無さん、やっぱり行動力あるッスね…」
対する他の1年は春奈の行動力に呆気にとられてしまい動けずにいた。


「いないな〜。木暮くんったらどこにいるんだろ…」
春奈はさっそく木暮を探しにきたが肝心の木暮はなかなか見つからなかった。
がその時、

ポン、ポン…

ボールを蹴る音が裏庭の方からした。
「!!もしかして…」
春奈はその音がする方へ走って行った。


ポン、ポン…
木暮は裏庭で一人リフティングしていた。
最初はリズム良くやっていたが、
「あっ…」
蹴るタイミングを間違えてボールは呆気なく地面に転がってしまった。
木暮は大人しくボールを拾いあげたがすぐにしゃがみこんでしまい再びリフティングをする様子は見せなかった。

「ちっくしょー…」

―俺が話しかけても全然表情が変化しなかった。もしかして俺の勘違いだったのか?…でもあの声、あの仕草、あの香り…やっぱりあいつは……なんであの時あいつに俺は話しかけたんだろう…俺はあいつに会えた嬉しかったのか?それとも忘れられて悲しかったのか?……わからない―

「だーっ!!わっかんねー!!」
ビクッ!!
「こ、木暮くん?」
「え、あ……お、音無?」
実は木暮を見つけた春奈はいつもの仕返しとしてしゃがみこんでいる木暮にこっそり近づいて背後から驚かそうとしていたのだ。
しかし肝心の木暮が急に大声を出してしまいそれは叶わなかった。

「ど、どうしたの?急に大声出して…何か悩み事?」
「別に…ってかお前こそなんだよ、何してんだ?」
「へ!?いやその…なんか木暮くんの様子が変だったからどうしたのかな〜って。」
木暮を驚かそうとした負い目があるのか春奈は少し目線を反らしながら答えた。
「…立向居に聞いたのか。」
「…それもあるけど木暮くん、宿に着いた途端急に態度が変わったから…」
木暮の声が沈んでいるのを聞いて今度は木暮の方を真っ直ぐ見て答えた。
もっとも、木暮の目線はボールだったが。
「…そんなに女将に対する俺の態度変だった?」
木暮が自嘲気味に言った。
それは暗に木暮が自分の様子が変なのは女将が関係している、という事を示してた。
「変っていうか…女将さんと話した後の木暮くん、初めて会った時と同じような目をしてたから…」
「!!」
木暮は思わず顔を上げて春奈の方を見た。
「ねぇ木暮くん、本当にどうしたの?あの女将さんと何か関係があるの?」
目の前の春奈は心配そうにしている。


―だからなんでお前はこんなに俺に構ってくんだよ―

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