手探りで恋をしていたね(天葵)


「確かにカトラさん、綺麗な人だったね」
「え?あ、うん。そうだね」

全ての戦いが終わり、地球へ戻ろうとGN号で移動している間、皆でミーティングルームに集まっていた。
そんなとき、なんともなしに葵が天馬に少し苦笑気味で笑いかけた。

「綺麗なだけじゃない。優しい心を持った人だった。…天馬が夢中になる気持ちも、ちょっとわかる気がする」
「そりゃ銀河を救う為だもん。カトラが居なかったら俺達こうして地球を守れなかったかもしれないし」
「そうかもだけどさ、それだけじゃなくて…」
「葵?」

言い淀む葵に天馬は不思議そうな顔をする。
するとそこに何かを嗅ぎ付けたのかさくらがひょいっと葵の後ろから顔を出した。

「そういえばキャプテンはさ、好きなタイプは可愛い系?それとも綺麗系?」
「へ?」
「さ、さくらさん!?」

さくらのふっかけた話題に天馬は目を丸くした。
それもそのはず。
いきなりの話題転換の上、天馬はサッカー一筋であるが故に、普通の思春期の男子なら誰でもしそうな、そうなそういった内容の会話をしたことがあまりなかったのだ。
そして葵はというと何故か慌てたようにさくらに小声で話していた。

「ちょっとさくらさん!なんでそんな事…」
「いいじゃない。葵さん、気になるんでしょ」
「そりゃちょっとは……でもでも!もし天馬の好みが綺麗系だったら…!」
「その時はその時よ!」
「さくらさん…」

なんと勝手な…と項垂れている葵とは反対に、さくらの瞳はキラキラと輝いている。
なんといっても女の子。
さくらだって恋バナは大好きだ。
実はもうだいぶ前から葵が天馬を好きな事は知っていた為、どうにかして天馬の気持ちをそれとなく聞きたかったのだがサッカーやら地球を救うやらでそういった話をする機会になかなか恵まれなかったのだ。
しかし全てが終わった今、これは絶好のチャンスだ。

「そういえば天馬、前円堂監督の奥さん見た時綺麗な人だって言ってたよね。やっぱり綺麗系なの?」
「えぇ?」

今度はピョコンと天馬の下から顔を出す人がいた。
目を向けるとそこには純粋な疑問として、無邪気に問いかける信助の顔があった。
信助の言葉に葵がピクリと反応する。

「いや、そんな事ないけど…というか今までそんな事考えた事なかったし」
「えー、つまんなーい!」
「そう言われても…」

結局明確な答えを得られないまま、頬を掻きながら困ったように答える天馬に葵は残念なような、嬉しいような、ホッと胸を撫で下ろした。

「剣城はどっち派?」

天馬にそういう話は無理だと思ったのか、次に信助の興味は隅で1人ぼーっとしている剣城に向かった。
そこまで大きな部屋ではない。
勿論話し声は耳に入っていたがまさか自分に振られるとは思わなかったのか、剣城はビクリと肩を揺らした。
そして嫌々そうに振り返る。

「…興味ない」
「えー!」
「とか言っちゃってー。剣城は綺麗系でしょ?ララヤ女王、美人だったもんね」
「なっ…!」
「あー、そうだったねー」
「ち、違う!」

信助とさくらが微笑ましそうに笑いながら剣城をからかう。
当然剣城は怒鳴り散らすが赤い顔のままでは説得力の欠片もなかった。
そのまま会話はチーム全体に広がり、アースイレブンにしては珍しく恋バナで盛り上がる事となった。
しかし結局天馬がその話題に参加したのは一番最初の会話だけで、最後まで天馬の好みが分かる事はなかった。

(せっかく、さくらさんがチャンスくれたのにな…)

さくらに申し訳ない気持ちになりながら葵は小さくため息を漏らした。
天馬はそんな葵を不思議そうに見つめるだけだった。


「葵ー!」
「!、天馬」
「大変そうだね。半分持つよ」
「ありがと」

葵がマネージャーの最後の仕事として皆のユニフォームを運んでいると天馬が前からやってきた。
そして荷物の半分を葵から受け取ると横に並んだ。

「こうして、皆のユニフォームを洗うのも最後なんだよね…。もうすぐ皆とお別れだと思うと寂しいね」
「うん…。でもきっと、またどこかで会えるよ!」
「――うん、そうだよね」

そうやって感慨深そうにする葵を励ます天馬にも表情に寂しさが表れていた。
それでも、きっとまた皆と一緒にフィールドを駆ける日が来ると信じてる。
その時は敵同士となってしまうかもしれないが、だからこそ本当の楽しいサッカーが出来るというものだ。

「けど、まさか最後の話題がタイプの話になるとは思わなかったなぁ」

天馬が苦笑気味に言うと葵の肩がピクリと震えた。
動揺がバレないように平常心を保つのに必死だった。

「…天馬、そういうの興味なさそうだもんね」
「興味ないっていうか、要はどんな人が好きって話だろ?そんなの好きになった人が好きなんだよ」
「………」
「?何、どうしたの?」
「いや、ごめん。ちょっと意外で…」
「何が?」

葵は思わず足を止め、目を丸くした。
なぜなら葵は天馬が恋愛の話をするのを初めて聞いたから。
というのも先ほどのように天馬に恋愛の話をしても困ったように笑うだけだったのだ。
そんな天馬が珍しく、自分の恋愛論を語っている。
けど、だからこそ天馬には誰か想い人がいるのだろうか、そう思った。
でなければこんな風に優しい眼差しをしないだろう。
葵はそう思うと胸の奥が苦しくなった。

「葵?」

俯いてしまった葵を不思議に思い、天馬は葵の顔を覗きこんだ。
葵はハッとすると顔をあげてどうにか笑顔を作った。

「なんでもない!それよりほら!早く皆の所にユニフォーム届けなきゃ」

葵は天馬の顔を見ないように天馬の先を歩いた。
するとグイッと右手を掴まれて後ろに引っ張られた。

「なっ――」
「葵。」
「!」
「俺は、綺麗じゃなくても、可愛くなくても、葵が好きだよ」
「……それって、私は可愛くないって事?」
「え!?いやっ、そうじゃなくて!」

なんだかすごく失礼な事を言われた気がするのは葵の気のせいだろうか。
いや、それ以前にこれは――…
葵がふてくされつつも内心戸惑っているとうんうん唸っていた天馬は適当な言葉を思いついたのかにっこりと笑った。

「俺のタイプは、葵だよ。どんな葵でも、俺の好きな葵だ。だからこれからは、マネージャーとしてだけじゃなくて、彼女、として、応援、して欲しい、です」

最初は普通のいつもの笑顔だったのに、自分で自分の言っている事に恥ずかしくなったのかだんだんと顔を赤らめ、言葉もたどたどしくなっていった。
それでも、『彼女』という単語が出た途端、葵の手から荷物が落ちた。

「うわっ、葵!?一体どうした――って、えぇ!?」

天馬が慌ててしゃがみ、荷物をどうにかキャッチして葵の顔を見上げると葵の瞳から一粒の雫が落ちてきた。

「え、どうしたの!?もしかして嫌だった!?」
「ちが…そうじゃなくってぇ…天馬があまりにも簡単に言うからぁー」
「えぇー」

悩みの種であった天馬がこんなにもあっさり言うなんて。
嬉しいが今まで1人悶々としていた日々が馬鹿らしく思えてくる。
えぐえぐと泣きじゃくる葵に天馬はユニフォームを全部左手に抱え、必死に空いた右手の方のジャージの裾で涙を拭った。
しかし天馬も天馬でこれでも結構緊張してたのになぁと少し悲しくなった。

「…私も」
「え?」

すると葵の顔を覆っている天馬の腕の隙間から小さな声が聞こえた。
葵は天馬の手を掴むと潤んだ瞳で天馬を見つめた。

「私も、天馬が好き。格好いい天馬も、ちょっと格好悪い天馬も、全部好き」
「葵…」
「私の方が…ずっと好きだったんだからぁ〜」
「うわぁ!?」

葵の気持ちを聞けて嬉しかったが、再び葵が泣きじゃくるので天馬は葵の涙を拭わなければならなかった。
けれど自惚れかもしれないが、その涙はきっと嬉し涙なんだろうなぁと思うと笑みが溢れて仕方なかった。


(これからも、よろしくね)
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手探りで恋をしていたね
title by 『秋桜』

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