誰よりも幸せであってほしかった(蘭ジャン)


*ゲームネタ


「霧野センパーイ!」
「お、キズナグッズ持ってきてくれたか?」
「はい!これが『しあわせの花束』です!」
「…サンキュ。これ、ずっと探してたんだ」

天馬が満面の笑みを浮かべながら沢山の花で彩られた花束を霧野に渡すと霧野はそれをはにかみながら受け取った。
天馬はそんな霧野を少し不思議に思いつつも霧野に詰め寄った。

「これで俺達の仲間になってくれますよね!」
「ハイ。これ、次の条件な」
「え」
「悪いな。俺これから行くとこあるから。後2つクリアしたら仲間になってやるよ」

そう言って霧野は追加の条件が書かれた紙を渡すと、じゃーなー、と笑顔を浮かべ、手を振りながらその場を後にした。

「また対戦ルートか…」

立ち尽くす天馬達を置いて。


「おーい、ワンダバー」
「おぉ!?霧野じゃないか!」

霧野がTMキャラバンへと顔を覗かせると前の旅で随分とお世話になったワンダバが椅子の所で暇そうに寝転んでいた。

「どうした?ミキシマックスがしたいのか?」
「いや…ちょっとワンダバに頼みがあって」
「頼み?」
「あぁ。…ジャンヌに、会いにいきたいんだ」
「何?」

霧野の思いがけない申し立てにワンダバは思わず目を見開いた。
ワンダバは少し思案した後、申し訳なさそうに霧野を見上げた。

「だが霧野。残念ながらフランスに行くためのアーティファクトが…」
「それならある」

霧野はワンダバの言葉を遮るとポケットから何か包み紙のようなものを取り出した。

「ジャンヌから貰ったものだ。これには、彼女の優しい心が込められている。…それとも、これではダメか?」
「……やってみよう」

ワンダバは霧野の気持ちを汲んだのか、再び少し唸ると霧野からその包み紙を受け取った。

「アーティファクト、セット完了!それでは行くぞ!」

「3、2、1、タイムジャンープ!」


「久しぶりだな…」

前に来た時とあまり時間が変わらないせいだろう。
今見ている景色は前来た時とあまり変わらなかった。
武装した兵士が沢山いるのも、緑が豊かな所も。
ここには、あのこに似合う花が沢山あった。

「霧野」

少し感傷に浸っていると後ろから声がかかった。

「私はここにいるからな。それと分かっていると思うが…歴史は変えるなよ」
「…あぁ。行ってくる」

愛しい、愛しいあのこに再び会う為、俺は足を前に踏み出した。

「ジャンヌー!」
「蘭…丸?」

今は休憩の時間なのだろうか。
ジャンヌは風が穏やかに吹く草原の中心で寝転んでいた。
俺が名前を呼ぶとジャンヌはゆっくりと体を起こし、こちらを見ると眼鏡をかけ直していた。
まるで信じられないものを見ているかのように。

「どうしてここに…蘭丸はこないだ行ってしまったばかりでは…」
「あぁ。けどもう全部終わったんだ。全部、君のおかげだ。君がいたから、俺は最後まで戦えた。…ありがとう」
「蘭丸…」

お礼を言うと、ジャンヌはまるで花が咲いたように笑った。
出来る事なら、ずっとジャンヌのこんな笑顔を傍で見たかった。
彼女にこれから降りかかる残酷な運命から守ってあげたかった。
だけど歴史は変えられない。変えてはいけない。だからせめて。

「ジャンヌ。今日君に会いにきたのはこれを渡したかったからなんだ」
「え?」

俺は後ろに隠していた花束をジャンヌへ差し出した。

「これは…?」
「『しあわせの花束』だ。この花束は誰かの幸せを願って作られたものらしい。だからジャンヌ。これを君に」
「私に?」
「多分、これで君に会えるのは最後だ。…本当は、君の事を連れて行ってしまいたいけど」
「蘭丸…」

ジャンヌの頬にそっと手を滑らせると確かに温かいぬくもりを感じる。
彼女が生きていると感じる。
初めて会った時よりは頼もしくなったけど、やっぱり戦場より花が似合う子だ。
俺の知っている歴史上の『ジャンヌ・ダルク』には繋がらない。
それでも今、俺の目の前にいる女の子は紛れもない、『ジャンヌ・ダルク』だ。
歴史は変えられない。
ならば俺に出来る事。それは、

「ジャンヌ。俺はずっと君の幸せを願ってる。…これから先、辛い事、悲しい事、沢山あるかもしれない。それでも信じて欲しい。忘れないで欲しい。君には味方がいる事を。君の幸せを願う人がいる事を。…ジャンヌ。俺はずっと君の事を想ってるよ」
「蘭丸…」

本当はまだまだ言いたい事が沢山ある。
でもきっと、どんな言葉を並べても君への想いを語り尽くす事なんて出来ない。
だから俺はありったけの気持ちを込めてジャンヌに唇を落とした。

「ら、蘭丸!?」
「好きだよ、ジャンヌ。あの時からずっと、そしてこれからも」

だけど今後こそ、お別れだ。
出来たか分からないけど、どうにか笑ってみせると俺はジャンヌから離れた。

「さよなら」
「……っ蘭丸!」

TMキャラバンへと足を向かわせるとジャンヌが呼んだ。

「私も…っ、私も、蘭丸が大好きです!」
「!……ありがとう」

その言葉だけで、十分だ。


「悪い、ワンダバ。待たせたな」
「…もういいのか?」
「あぁ。ありがとな。我が儘聞いてくれて」
「いや…。では、行くぞ」
「頼むよ」
「…アーティファクトセット完了。3、2、1、タイムジャンープ!」

ワンダバが何か言いたそうにしていたけれど、それだけだった。
確かに、今何を聞かれても何も答えられないからその方が助かった。
今口を開いたらきっと嗚咽しか出なかったから。

さよなら、愛しい人。


「あ、やっと帰ってきたー!」

現代に着くと天馬が傍に駆け寄ってきた。

「もー、どこ行ってたんですかー。せっかく苦労して条件クリアしたんですよ!」
「悪い悪い。じゃ、これからまたよろしくな」
「はい!…って、先輩?」
「ん?」
「…いえ、何でもないです。これからよろしくお願いします!」
「あぁ!」

ジャンヌ、君にはもう会えないけれど、俺の中には君がいる。
君から貰ったこの力でこれからも戦い続けるよ。
―――――――――――
誰よりも幸せであってほしかった
title by 『秋桜』

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