消えぬ想いがそこにある(ララ京)


「本当に、行ってしまうのか…?」

銀河の平和を無事取り戻した天馬達は当然の事ながら地球に帰る事となった。
しかし剣城がGN号に乗り込もうとした時ララヤが後ろから躊躇いがちに言った。

「ララヤ…」

剣城が振り返るとララヤはすがるように瞳を潤ませていた。
剣城は困ったようにため息を吐くと乗り込んでいた足を戻してララヤの方へ向き直った。

「…お前がこの星を大事なように、この星に大事な人達がいるように、俺も地球が大事なんだ。…分かってくれるか?」
「…っ分からん!」

剣城は軽く微笑みながらそう諭すがララヤはそう叫ぶと思い切り剣城に抱き着いた。

「ララ…」
「ツルギはわらわのオットになるのじゃ!ツルギはわらわの言う事を聞くと言ったではないか!そしてツルギは嘘は吐かないと!…それとも、あの言葉は嘘だったのか?ツルギも、結局はわらわの前からいなくなるのか…?」

――お父上のように。

「ララヤ…」

王宮にいた頃何度も言われた。
自分はファラムのかつての王、アクロウス王に似ているのだと。
女王といっても、ララヤはまだまだ子供だ。
自分を夫にしたいというのも結局は父親の面影を探しているのであって決して恋愛感情ではない。
しかしララヤの事を無下に出来る程剣城は冷酷ではない。
それでもここにいて欲しいというララヤの願いを聞き届ける事は出来ない。
剣城はせめてララヤの事を優しく包みこむ事しか出来なかった。

「ララヤ様…」

躊躇いがちに声がかかる。

「…分かっておる」

その声を合図にララヤはゆっくりと剣城から離れる。
しかし俯いているため剣城からは表情は分からなかった。

「本当は分かっておる。ツルギがわらわと同じように地球を大切に思っているのも、ツルギが地球に帰らなきゃいけないのも」
「なら…」
「でも!」

ララヤは剣城の言葉を遮ると剣城の服をぎゅっ、と握りしめ、バッ!、と顔をあげた。
瞳には溢れんばかりの涙が頬をつたっていた。

「わらわは本当にツルギの事が好きなのじゃ!お父上の代わりなんかじゃない、わらわを守ってくれて、わらわにこの星の真実を教えてくれた、ツルギ・キョウスケが好きなのじゃ!」
「ララヤ…」
「分かっておる。ツルギがわらわの想いに応えられない事ぐらい。だからせめて、」

ララヤは顔をぐいっ、と拭うといつものように胸を張った。
そして剣城をビシッ、と指差すと声高らかに言い放った。

「ツルギ!わらわに接吻しろ!」
「な…」
「ちょ、ララヤ様!?」

剣城は当然の事ながら狼狽しているし、後ろのララヤのお付き人達は取り乱している。
アースイレブンの方もさくらや葵は手を取り合って叫んでるし、他にも顔を赤くしている者、興味深そうに観察している者、はたまた「ねぇねぇ信助。接吻って何?」「ちょっと天馬は黙ってて」等というお馬鹿な質問をしている者もいた。

「あのな、ララヤ、」
「これで!」
「!」
「これで、ツルギの事諦める。だから…」

ララヤはそう言うと顔を赤くしてぎゅっと目を瞑り言葉を詰まらせた。
剣城は何も言わなかったがしばらくするとララヤの方へ一歩踏み出した。

「あ、おい、お前!」
「ちょっと今いい所なんだから黙ってて!」

再びお付きの人が騒ぎたてるがさくらと葵によって羽交い締めにされ、口を塞がれていた。
剣城はそんな声も気にならないのか、ゆっくりララヤの頬に手を添えると顔を近付けさせた。

―――ちゅ。

「……え?」

しかし剣城の唇が触れたなはララヤの額だった。

「ツル…」
「そんな最後みたいな言い方をするな」

剣城は少し腰を曲げてララヤの瞳を真っ直ぐ見た。
そう言う剣城は少し困ったように微笑んでいた。

「今はGN号がある。会いたければいつでも会える」
「ツルギ…」
「だから、口へのキスはまた今度会った時にしてやる」
「!」
「お前がちゃんと王になっていたらな」
「ツルギ…」

剣城が挑発するようにニヤリと笑った。
ララヤはそんな剣城のララヤの頬に添えている手に自身の手を添えながら心配そうにしていた。

「…それは本当であろうな?」
「俺は嘘は吐かない。そうだっただろ?」
「――うん!」

そう笑いながら剣城に抱き着くララヤの表情は王女の顔ではない、ただ大好きな人への愛しさで一杯な、普通の女の子だった。

そしてようやく剣城達はララヤ達に見送られて地球へ帰る事になった。
ララヤは剣城達の姿が見えなくなるまで手を振り続け、剣城を小さくそれに応えていた。

「…行ってしまったな…」
「はい。…あの、ララヤ様、」
「分かっておる」

ララヤは大きく息を吸うとゆっくり吐き出した。
そして後ろを振り返ると傍にいたお付き人の人達に笑顔を向けた。

「さぁお前達、これから忙しくなるぞ!まずは貧富の差の問題を解決するのじゃ!」
「は、はい!」

これが、ララヤの王としての初めての一歩だった。


「つーるぎくんっ」
「!」

ファラム星が見えなくなり、剣城が自室に戻ろうとしたのだがさくらと葵に挟まれてそれは叶わなかった。

「剣城くんも随分キザな事するのね」
「ほーんと。なんか女慣れしてるってかーん、じ…」

しかしそこでさくらの言葉は途切れてしまった。
何故ならさくらが剣城の顔を覗き込むとそこには見慣れない顔を真っ赤にした剣城がいたからだ。

「剣城くん顔…」
「うるさい!1人にしろ!」
「どうやら剣城くんはララヤ女王が好きだったみたいだね」
「え、そうなの!?」
「うるさいって言ってるだろ!」

人間観察が趣味で、微妙に空気を読まない皆帆のせいで更に怒りと照れ臭ささで剣城の顔が赤くなった。

「あぁそうだよララヤの事好きだよ!好きじゃない奴に額とはいえキスなんかする訳ないだろ!」


「兄さん、ただいま」
「お久しぶりです優一さん!」
「京介。天馬くんと葵さんもいらっしゃい。宇宙はどうだった?」
「それが聞いて下さいよ!剣城ってば宇宙で彼女出来たんですよ!」
「なんだって!?」
「天馬!」

その後、宇宙でのサッカーよりもその彼女について優一に根掘り葉掘り聞かれる剣城だった。

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消えぬ想いがそこにある
title by 『秋桜』

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