時が経っても忘れないで(アス+黄)


「黄名子」
「ん?」

黄名子が最後の別れを皆と一緒に惜しんでいると後ろから声がかかった。
そこには少し疲れた顔をしたアスレイの姿があった。

「どうしたやんね、アスレイさん」

黄名子は皆から離れるとパタパタとアスレイに近寄った。

「最後に、礼が言いたくてな」
「そんなのいいのに…。アスレイさんは律儀やんね」

黄名子がクスクスと笑うがアスレイはその姿を切なそうに見つめていた。

「本当に…行ってしまうのだな」
「…うちも、この時代の人間じゃないやんね。…帰りたくないけど、帰らなきゃ」

アスレイの気持ちも分かるがこればっかりは仕方がない。
黄名子の役目はフェイを守り、支え、救う事。
SSCとの戦いが終わり、サル達が能力を手離す事を決めた今、その目的は果たされた。
役目が終わった今、黄名子も天馬達と同じように元の時代、本来いるべき場所に戻らなければならない。
でないと歴史が変わってしまうから。
困ったように眉を下げながら黄名子が笑った。
するとアスレイは優しく黄名子を抱き寄せた。

「アスレイ…さん?」
「すまない、少しだけ…」

黄名子からはアスレイの顔は見えなかったが声で恐らく泣いているのだろうと思った。
無理もない。少女の姿とはいえ、かつて将来を誓った今は亡き愛しい女性だ。
恐らくもう二度と会う事はない。
別れが惜しいのは当然だった。
黄名子はそんなアスレイの気持ちを汲んだのか、大人しくアスレイの腕に包まれていた。

「…アスレイさん」
「…なんだ?」

黄名子はアスレイの胸に埋めていた顔をあげると穏やかに微笑んだ。
しかしよく見ると黄名子の目尻もアスレイと同じく赤くなっていた。

「ありがとうやんね」
「え…?」

いきなり礼を言われたアスレイは戸惑った。
礼を言うのはこちらの方なのにと。

「うちに未来を教えてくれて、うちにフェイを救う機会をくれて、ありがとう」
「黄名子…」
「うち、フェイや、アスレイさん、それに皆と会えて本当に良かったやんね。そりゃ確かにいきなり息子を助けてくれって言われた時はビックリしたけど、それでも、きっとフェイ達に会わなかった時の方が後悔したやんね」

だからありがとう、と。
しかしスッキリとした表情をした黄名子とは反対に、アスレイは顔を歪め、手のひらで顔を覆いながら途切れ途切れに言葉を紡いだ。

「私は…礼なんて言われる資格などない。フェイを助けたのは、黄名子や天馬君達だ。…私は、フェイを手離した。フェイを守れなかった。自分で蒔いた種なのに、自分1人ではどうしようもないからといってまだ少女の君に助けを求めたり…。礼を言うのは、こちらの方なんだ」
「アスレイさん…」
「それに、君には辛い未来を教えてしまった。本当に、すまなかった…」

黄名子にフェイの事を頼む時、間接的にとはいえ、黄名子の最期を教えてしまった。
黄名子はまだまだ中学生。
好きな人もいるだろう。将来の夢だってあるだろう。
しかしそれら全てをアスレイは砕いてしまったのだ。
アスレイが黄名子に申し訳なく思うのは当然だった。

「…確かに、これからの未来を知っちゃったのは残念やんね。でも、だからこそ、うちは未来を変えるって決めたやんね。アスレイさんと、フェイと、うちの三人でいられる未来を作るって」
「…だがフェイと再び会う為には私と結婚しなければいけないのだぞ?…私は、黄名子を幸せに出来なかった。それでも黄名子の未来はそれでいいのか?」

自分の為に、子供さえ手離してしまう奴と生涯を供にして。

アスレイは諭すように問いかけた。
黄名子はアスレイにとってはかけがえのない、生涯で唯一愛した女性だった。
恐らく、今の黄名子が会うアスレイもそう思うだろう。
しかしこのままだと黄名子は短い生涯を終える事になる。
たとえその未来を変えたとしても黄名子は幸せになれるのだろうか。
家族よりも地位を優先する男と一緒になって。
しかしそれでも黄名子の決意は変わらなかった。

「…確かにフェイを手離したのは許せないやんね。でもアスレイさんはちゃんと間違いに気付いた。それにフェイを直接助けたのはキャプテン達かもしれないけど、アスレイさんがいたから、うちはここにいる。…フェイを助けるきっかけを作ったのは紛れもなく、アスレイさんやんね」
「黄名子…」
「だからね、アスレイさん。…もう二度と、フェイを1人にしないで」

ビクリとアスレイの肩が震える。
黄名子の瞳には強く何かを訴えかけるものがあった。
アスレイは黄名子から目を反らせなかった。

「きっと、最初はフェイもアスレイさんを拒絶するかもしれない。それでも、どんなに酷い事を言われても、拒否されても、絶対にフェイから離れないで」
「………」
「うちは1人になった事がないからフェイの気持ちを完璧に理解する事は出来ない。…でも、フェイを見ていればどんなに寂しかったかは分かるやんね」

離れた所で天馬達と笑いながら話しているフェイを見て黄名子は泣きそうになりながら言った。
そして目線をアスレイに戻すと懇願するように口を開いた。

「うちの役目はもう終わり。うちはもう、フェイを守る事が出来ないやんね。…フェイを守れるのはアスレイさん。唯一の家族であるアスレイさんだけやんね」

黄名子はそっと小指を差し出した。

「だからアスレイさん。約束やんね」

――絶対に、フェイを1人にしないで

「……あぁ。約束する」

アスレイは顔をくしゃりと歪めると頬に一つの雫が伝った。
そして自身の小指を取り出すと自分より一回り小さい小指に強く絡めた。


「黄名子ー!そろそろ行くよー!」
「はーい!」

後ろから天馬の声がする。
黄名子はするりと小指をほどいた。

「…じゃ、行くやんね」
「…あぁ」

黄名子は名残惜しそうにしながらも天馬達の方へ駆け出した。

「―っアスレイさーん!」

しかし途中で振り返ると大きな声で叫んだ。

「さっき、黄名子を幸せに出来なかったって言ったけどそんな事ないやんね!」
「!」
「だって、アスレイさんが見せてくれた写真の未来のうち、どれも幸せそうだった!」

うちが言うんだから間違いないやんね!、と黄名子は続ける。

「だから、ありがとー!」

黄名子は大きく手を振ると今度こそ天馬達が待つ、TMキャラバンへと急いだ。

残されたアスレイは今度こそ両手で顔を覆い、人知れず涙を流していた。
そして何故か傍には誰にもいないのに、大切な誰かの温もりを感じていた。

お疲れ様、と労るかのように。


「黄名子、あの人と何話してたの?」
「秘密ー!…と、ワンダバワンダバ」
「なんだ?」

フェイにそう聞かれたが黄名子は笑って誤魔化した。
そしていつも通りに自分の席に着こうとしたがふと何か思いたったのか、ワンダバをツンツンとつつきながら小声で呼んだ。
そしてフェイには聞こえないようにワンダバの耳に口を寄せた。

「フェイの事、これからも頼むやんね」
「何?」
「アスレイさんにもキツく言っておいたけどやっぱり心配やんね。だからワンダバ、これからもフェイの事、お願いやんね」

黄名子がふんわりと笑いながら言った。
その表情はまるで我が子を心配する母親だった。
ワンダバは照れているのか黄名子から目線を外すと力強く答えた。

「…当たり前だ。フェイは、私の一番の友達だからな」
「…そっか。そうだったやんね」
「だから早く席に着け。出発するぞ」
「はーい」

黄名子はワンダバの傍を離れるとフェイの隣に座った。
黄名子がフェイの顔を覗き込むようにしながら笑いかけるとフェイもそれに応えるかのようにはにかんだ。
ワンダバはそんな親子の姿を横目でほほえましく見やるといつものような高らかに声をあげた。

「それでは行くぞ!3、2、1、タイムジャンープ!」

―――――――――――
時が経っても忘れないで
title by 『秋桜』

- 112 -
[prev] | [next]


back
TOP

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -